第64話 おっさん、俺たちの闘いはこれからだ!
アレスタ伯爵邸を後にしてから、俺たちは約束通り祝勝会を開くため、馴染みの酒場へと足を運んでいた。活気あふれる店内の一角を陣取り、テーブルには次々と肉料理が運ばれてくる。
「にゃははー! 肉、肉、肉にゃー! ヨシダっち、大好きにゃー!」
山と積まれた肉塊を前に、キャトリーヌは歓喜の声を上げ、夢中で頬張っていた。その幸せそうな姿に、夜会での緊張が嘘のように皆の顔から笑みがこぼれる。
「それにしても、キャトリーヌの手腕は見事だった。まさかあのサムライを無力化してしまうとはな」
「うむ、スキルを逆手に取って感覚を飽和させるなんて、思いつかないな」
フレアが感心しきりに言うと、鬼灯も同意するように頷いた。
「逆ギレしただけなのにゃ!」
当のキャトリーヌは口をもぐもぐさせながら言うが、その功績は計り知れない。彼女が命懸けで掴んだ証拠があったからこそ、俺たちは次の段階へ進めたのだ。
「じゃが、これからが本番じゃ」
ジョッキを呷っていたタリシアが、厳しい顔つきで言った。
「ジャイアル伯爵は相当なやり手じゃ。古い砦での取引は、奴らを一網打尽にする絶好の機会であると同時に、危険な罠である可能性も捨てきれん」
タリシアの言葉に、浮かれ気味だった空気が引き締まる。そうだ、俺たちの戦いはまだ終わっていない。むしろ、本当の戦いはこれから始まるのだ。
「奴らが扱うドラゴンの素材……15年前の『竜災の夜』を思い出させる」
フレアがポツリと呟いた。その言葉に、皆の表情が曇る。同時に王都最強の呼び声も高い、『鉄塊の旅団』を壊滅の危機に陥れたあの事件は、未だ多くの人々の心に深い傷跡を残している。ドラゴンの素材が非合法に、そして広範囲に流通しているという事実は、その悪夢が再び繰り返される可能性を示唆していた。
「伯爵の権力闘争だけじゃない。俺たちは、もっと大きな悪意の奔流の只中にいるのかもしれないな」
俺の言葉に、皆が静かに頷く。ただの闇取引ではない。その先には、竜に繋がる深い闇が広がっている。そのことを、俺たちは肌で感じていた。
「ヨシダはんの言う通りや。せやけど、うちらはもう退かれへん」
瑠奈が強い意志を込めた瞳で俺を見る。
「うむ、この事件は必ず私たちが解決する」
鬼灯も静かに、しかし力強く続いた。
仲間たちの覚悟に、俺も腹を括る。偶然から始まったこの事件は、いつしか俺たち自身の戦いとなっていた。
「決戦は1月後。それまでに、やれることは全てやる」
リーダーであるフレアが宣言すると、全員が力強く頷いた。
その日を境に、俺たちの日常は一変した。
フレアとエレノア嬢はアレスタ伯爵家と連携し、作戦の詳細を詰めていった。瑠奈と鬼灯は来るべき戦闘に備え、これまで以上に厳しい訓練に明け暮れた。キャトリーヌはシーフギルドの情報網を駆使し、ジャイアル伯爵派の動向を探り続けた。
そして俺は、来るべき決戦に備え、主に討伐系のクエストを精力的にこなす日々だった。
新しいスキルも、仲間たちを『スキルリンカー』としてリンクするのも『スコア』が必要だ。スタンピード程の大量の『スコア』は望むべくも無いが、それでも何もしないよりはマシだ。
サムライとの戦いでキャトリーヌが見せたバードビューの応用は、このスキルが無限の可能性を秘めていることを示してくれたからだ。
瞬く間に時間は過ぎ、季節は移ろい始めていた。
決戦前夜、俺たちは作戦司令部が置かれたアレスタ家の別邸に集まっていた。テーブルに広げられた古い砦の地図を、皆が真剣な面持ちで見つめている。そこには、この1ヶ月で得られた情報がびっしりと書き込まれていた。
「準備は万端だ。これより、我々はバキュラス郊外の古い砦へ向かう」
フレアの言葉に、俺たちは静かに頷く。夜会の潜入調査から始まったこの任務は、今、王国の闇を揺るがす大きな戦いへと繋がった。
「皆、行くぞ。魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿に、俺たちの力を見せつけてやろうぜ」
俺の掛け声に、仲間たちが応える。その瞳には恐怖も迷いもなかった。宿っているのは、悪を挫き、未来を切り開くという揺るぎない覚悟だけだ。
こうして、俺たち『余燼の光の騎士団』は、竜へと連なる闇の根源を断つべく、決戦の地へと向かうのだった。
(第2章 完)




