表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/64

第63話 おっさん、アレスタ邸へ再び

 夜会での静かなる激闘から一夜明け、昇り始めた朝日がバキュラスの街を照らし出す頃、俺たちはギルドマスターの執務室に集まっていた。昨夜の緊張が嘘のように、皆どこか眠たげな顔をしている。


「──以上が、昨夜の潜入調査で得られた情報の全てです」


 フレアが、キャトリーヌが命懸けで映した映像を記録した魔導具をテーブルに置き、報告を締めくくった。執務室には、俺たちパーティメンバーが揃っている。

 タリシアは腕を組んだまま静かに目を閉じ、報告を聞いていたが、やがてゆっくりと目を開いた。


「ようやった、貴族の夜会に潜入し、これだけの物証を掴んできたとはの。特にキャトリーヌ、サムライを一人で無力化した手腕、見事じゃ」


「にゃはは、当然にゃ。にゃーにかかればサムライなんてちょちょいのちょいにゃ!」


 タリシアからの直接の褒め言葉に、キャトリーヌは尻尾をこれでもかと揺らし、満面の笑みで胸を張る。その姿に、俺たちも自然と笑みがこぼれた。昨夜の活躍は、本当に見事という他なかった。


「じゃが問題はここからじゃ」


 タリシアが厳しい表情で口を開く。


「ジャイアル伯爵が裏で糸を引いとるのはほぼ確定じゃ。しかしこれに伯爵本人が直接映っとる訳ではないからの、これだけでは証拠としてはちと弱い。下手に動けばこやつに辿り着く前に、尻尾を切って逃げられるじゃろ」


 タリシアの言う通りだった。あくまでも取引の計画を押さえただけでブツがある訳じゃ無い。しかも相手には地位と権力という武器がある。俺達木っ葉冒険者など一薙ぎでお終いだ。


「そこで、アレスタ伯爵家に一肌脱いでもらおうと言う訳じゃな」


 グラマスの言葉に、全員が頷いた。これから昨夜得た情報をエレノア嬢と共有し今後の対策を練るのだ。目には目を、貴族社会のことは貴族に任せるのが一番だ。


「よし、おぬしら、準備は良いか。アレスタ伯爵邸へ向かうぞ」


 俺たちはタリシアの号令で立ち上がり、再びあの白亜の豪邸へと向かうのだった。



********



 アレスタ伯爵邸の豪華な客室には、俺たちとエレノア嬢、そして彼女の父親であるアレスタ伯爵その人が待っていた。中年の紳士然とした伯爵は、鋭いながらも穏やかな目で俺たちを見つめている。


余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーの諸君、娘が世話になった。そして、見事な働き、感謝する」


「もったいないお言葉です、伯爵閣下」


 タリシアが代表して頭を下げると、伯爵は満足げに頷きエレノア嬢に目配せをした。


「では、早速昨夜の情報を検証いたしましょう」


 エレノア嬢が魔導具を操作すると、キャトリーヌが撮影した映像が空中に投影される。そこには、下卑た笑みを浮かべる貴族や商人たち、そして違法な取引の証拠となる顧客名簿や目録がはっきりと映し出されていた。


「……これは、動かぬ証拠ですわね。ジャイアル伯爵家とスネア男爵、そして派閥に属する家名が幾つか見受けられます」


 エレノアが指し示した名簿には、王都でも名の知られた貴族や商人の名前が連なっていた。その面子だけでドラゴンの素材という禁制品が莫大な富を生み出す事、そして想像以上に根深く広範囲に闇で流通していることを物語っている。


「うむ。この顧客名簿と取引記録……これを使えば、ジャイアル伯爵を追い込めるだろう」


 アレスタ伯爵が重々しく口を開く。


「しかし、この証拠だけでは、寄子が勝手に計画しただけ(・・・・・・)と蜥蜴の尻尾を切って逃げられる可能性がある。逆に男爵家への侵入罪などを問われるかもしれん。ここは、現物と共に関連する者どもを一網打尽にするのが最上策」


「と、おっしゃいますと?」


 俺が尋ねると、伯爵は投影された取引予定表の一点を指さした。


「ここに記されている次の取引……1月後、バキュラス郊外の今は使われておらん古い砦で行われるとある。ここで奴らを現行犯で押さえるのだ」


 それは、あまりにも大胆な作戦だった。だが、成功すれば闇取引の根を絶つことができるかもしれない。


「しかし、サムライを倒した件が発覚して無いとは思えません。非合法な取り引きゆえ表立って騒がれてはいませんが、恐らく相手も警戒しているはず。警備の数も相当なものかと」


 フレアが冷静に指摘する。勿論、密談に直接の介入はしてないが、あのサムライのような手練れが護衛中に寝てました、なんて言い訳が通る筈が無い。何者かの干渉があったと警戒はされるだろう。


「先ずは、王家への報告。そうせんと伯爵同士の私闘と取られかねない。王家のお墨付きが有れば、あとは賊の討伐だ。我らアレスタ家の兵も動かす。しかし、大っぴらに動けば感づかれるやもしれん。そこで、君たち冒険者の力が必要になる」


 伯爵の視線が、俺たち一人一人を捉える。


「君たちには、この証拠を取得する様な極めて優れたスキルを持つ者がおる。先ずは取引現場に潜入し奴らの状況の把握と共有、即時作戦立案し捕縛を開始する。我々は外で網を張り、逃げ出す者どもを捕らえる。内外からの挟撃作戦だ」


 ギルドからの依頼は、夜会への潜入調査だったはずだ。だが、事態はすでにそれを大きく超え、いつしか貴族同士の権力闘争の渦中に俺たちは立っていた。


「ふう、権謀術数渦巻く政治の中枢、魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿とは、つくづく言えて妙だな」


「……ヨシダ君と言ったかね、よく解ってるじゃないか、娘が気にいる訳だ」


「いえいえ、これはソルバルドのギルドマスターの受け売りですよ」


 偶然出会って、偶々街を守っただけなのに、そう気に入られては面映い。俺は照れ隠しに謙遜しておく。それに変に曲解されて娘はやらん! からの俺の屍を超えて行け、みたいな展開になると面倒だからな。


「ほう、ソルバルドのギルドマスターと言えば、『鉄塊のハルク』殿か、我々の世代の英雄と言えば彼が筆頭だ、その愛弟子達となれば今回の活躍も頷けるというもの」


 なんか突然雰囲気変わってない? ギルマスの話を出した途端になんかファンボーイみたいになってるんだけど、ニヒルな中年貴族はどこ行った? にしてもあの筋肉ゴリラがそこまでとは。


「そうじゃろう、そうじゃろう。ハルクはワシが育てた! そしてそこなヨシダはアタシの未来の旦那様じゃ、な、ダーリン」


 ピシッ


 タリシアが軽口を叩いた刹那、アレスタ邸の豪華な客室が絶対零度の冷凍室に変わる。

 ギルマスを育てたのに意義はないが、なんだよその後のブリブリな台詞は。それから腕を絡めてメロン押し付けんな、脳みそ沸騰するだろ。


 空気読まないお色気攻撃と、空気凍らす冷凍ビームに、熱くなったり凍えたりでもうヤバい、心無しかエレノア嬢の表情も抜け落ちてる様に見えたが、脳がバグってハニーになってたのだろう。ダーリンだけに。


「な、なんと、生ける伝説とまで言われたタリシア殿の旦那様候補とは……ヨシダ君、キミは一体何者だね」


 いや、アンタも信じるなよ、冗談に決まってるだろ。と言うかね、俺の周り強い女性しかいないの、ボスケテー


「ふふふ、ヨシダは揶揄い甲斐があるからの、ま、冗談はさて置き、おぬしら、一応ギルドからの依頼は達成しておる。此処で降りても文句は無いが如何するかの?」


 タリシアはそう言うと俺たちの顔を見回す。フレア、瑠奈、鬼灯、そしてキャトリーヌ。誰の瞳にも、恐怖や迷いの色はない。宿っているのは、悪を挫くという強い意志と、竜に繋がる事件への覚悟だ。


「……分かりました。その作戦、お受けします」


 リーダーのフレアがそう答えると、アレスタ伯爵は深く頷き、エレノア嬢は安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう存じます、皆様の勇気に心から感謝いたしますわ」


 こうして、俺たちの次なる任務が決まった。決戦は1月後。違法な闇取引の現場、古い砦が俺たちの新たな戦場となる。



********



 アレスタ邸での昨夜の情報の見聞も終わり、やっと解放された帰りの馬車……


(それにしても、マジかよサムライ倒したの? 超凄くね? 帰ったら肉で乾杯しなきゃな)


 ふと、昨夜キャトリーヌと交わした言葉を思い出す。


「……よし、作戦会議も終わったし、クエストコンプリートの打ち上げだ、一丁派手に行こうぜ!」


 俺がそう言うと、キャトリーヌの目がキランと輝いた。


「にゃにゃ!? まさか……」


「ああ。今夜は祝勝会だ。一番美味い肉を、腹一杯食わせてやる!」


「うおおおおお、肉で乾杯にゃー! 宴にゃ、宴にゃー!」


「ヨシダはん、『竜ころし』だけは飲まんといてな」


「ハハハ、全くだ、アレだけはやめとけ」


 キャトリーヌの歓声が、狭い馬車の中に響き渡たり、瑠奈は俺の歓迎会を思い出して釘を刺し、それに同意するフレア。

 それ、読んだんじゃなくて、飲まされたんですけどね、フレアさんに。


「なんじゃ、ガントの小僧はまだそんな物騒な酒を仕込んでおるのか? まったく凝りん奴らじゃのう」


 打ち上げに参加する気満々のタリシアが『竜ころし』の名前を聞いた途端に呆れた様にこぼす。そういや酒場の熊親父も鉄塊の旅団の団員だったかと思い出し話を振る。


「へぇーグラマスもあの酒知ってるんだ?」


「昔ガントが酒場を開く時に招待されての、その時に竜を倒す誓いを忘れん為じゃとかなんとか言っておったわ。ま、その後王命で御法度となったがの」


「それで、タリシア様も試されたのか」


 流石は鬼灯、伊達に余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーの守護神じゃない、俺たちの聞きたい事をズバッと聞いてくれた。


「ワシもあれはには手を出さなんだ。その時の酒は酒樽一つにコップ半分の血を混ぜたらしゅうての、ジョッキを煽った途端、大男共が漏れなく卒倒しとったわ」


 マジか? 俺が飲んだやつなんかほんの一滴と聞いてたのにあのザマ晒したのに、コップ一杯とか正直言って馬鹿だろ。

 そんな苦い思い出を思い出しつつ、俺たちは俺たちらしく英気を養い、次の戦いへと備えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ