第62話 キャトリーヌ、VS サムライ
バードビューに映るサムライに付かず離れず気配を置いて行くキャトリーヌ、離れを出ると館の裏手の林を目指して逃げる演出をする。ここまで誘導して見失えば暫く時間が稼げるはずだ、幸い巡回の警備にも合わず誘導出来てる。
(林が目前にゃ、そろそろ仕上げにゃ)
仕上げの段階だと判断した彼女は、付かず離れず置いていた気配を一気に林へ飛ばす。まるで瞬間移動した様に点で気配を置いて行く。
「く、林へ逃げられると厄介だ、鬼ごっこは終いだ、悪く思うなよ、『紫電脚』」
サムライのスキルだろうか、まるで雷の如く直線的な移動でキャトリーヌの置く気配に瞬く間に迫るサムライ。これには彼女も面食らってしまう。
(にゃにゃ、突然早くなったにゃ、にゃーの視線に追い付かれるにゃ)
気配がある筈の所に誰も居ないとなれば、陽動だと看破される可能性が有る。しかもあの瞬間移動とも言える程の圧倒的な移動速度ならば、直ぐに離れに戻って来るのは容易に想像出来る。
(ヤバいにゃ、追い付かれそうにゃ、どうするにゃ……)
辛うじてサムライとの鬼ごっこは続いていた、追い付かれそうになると、集中を切って新たな場所に気配を置く事で彼を翻弄しているが、心眼の感知能力と紫電脚ですぐさま追い付かれる。
意識の集中をオンオフするのは思ったよりも時間が掛かり、彼女の精神を著しく消耗させる。
(いっそ集中したまま動かす方が楽にゃ、そろそろ限界にゃ)
「ちょこまかと逃げおって、しかし大分緩慢な動きになったでござるな、そろそろ限界も近いと見える」
彼の言葉通り徐々に限界に近づくキャトリーヌ、その疲弊した精神で辿り着いたのは……
(にゃー、ふこーへーにゃ、にゃーだけしんどいにゃ、許さないにゃ)
逆ギレしていた。
(絶対びびらしてやるにゃ、そのヨユーが命取りにゃ)
もう訳が分からない思考で、逆恨みする彼女は一つの作戦を思い付く。記憶させた敷地の見取り図をバードビューの映像に重ねると、サムライの位置を記憶する。そして強く集中すると視線を高速で動かす。
「なん……だと、何故これ程の気配が有る、十人、いやもっと多い、更に増えて行くでござる」
サムライの心眼に映る夥しい数の気配、その数は増え続ける。十、二十、とどんどんと増えて行く。
ただ視線を高速で動かすだけならば、サムライには素早く移動してると感じるだけだ、しかし逆ギレした彼女は斜め上の作戦を実行する。
(まだまだいくにゃ、びびってお漏らしするがいいにゃ)
逆ギレした彼女はそう考えながら、さらに気配を増やして行く。
普通なら無数の気配を置いて行くのは、素早く視線を移動させ、集中を一瞬オンオフし、また移動する動作を繰り返さねばならない。しかし時間が掛かり精神力を消耗するこの戦法は、序盤ならまだしも、疲労した状態では使えない。
そこで彼女が思い付いたのが、スキルの方をオンオフする方法だ、これならば集中状態で視線を動かすので、時間と疲労が軽減されるのだ。
「何だこれは、まだ増えるのか」
留まるところを知らず、増え続ける気配に焦りを感じ始めたサムライは、最大の警戒心と心眼で捉え続けるが、少なく無い焦りを感じ始めていた。
(全てが本物では無かろうが、さしもの某とてこの数では少々部が悪いか? このカラクリを看破せねば迂闊に手は出せぬ……)
追われる者と追う者、立場が逆転した瞬間であった。
(ソロソロ仕上げにゃ、覚悟するにゃ)
悪い顔でそう内心で語ると、スキルをオフにして全ての気配を消す。
(さあ、その超感覚で食らうが良いにゃ)
バードビューを起動しサムライの位置を確認すると、一つ息を吐く。
(いっけー)
そう言うと、サムライ自身に狙いを付けて最大限の気配をぶつける。
「ぐは、よ、よもや……某自身に、気配をぶつけてこよう……とは」
無数の気配が一瞬で全て消え、心眼の感度を最大限に上げて警戒したのが仇となった。まるで超高感度のセンサーに一気に膨大なノイズをぶつけたが如く、彼は昏倒したのだった。
「やったにゃ、倒せるとは思って無かったけど、なんか倒れてるにゃ、後はみんなに報告にゃ」
ヨシダのスキルを看破し窮地に陥れた強敵を下し、気が抜けだのか一人そう語ると、さっそくスカートの中に隠したマジックポーチから通信の魔導具を取り出して起動する。
「皆んな、ちょっと時間掛かったけど今から映像送るにゃ、しっかり見てくれにゃ」
キャトリーヌは魔導具の起動を確認すると、まずは音声で仲間に連絡すると、続いてバードビューで取引の様子を皆に送る。
取引に参加した数人の貴族の家宰や商人、取引素材の目録や、顧客名簿など様々な証拠をエレノアを含めたパーティメンバーと共有する。
「(良くやった、キャトリーヌ、情報の記録はアタシ達がやるから、アンタはもう少しそのまま映し続けてくれ)」
(分かったにゃー、このまま暫くここにいるにゃ)
「(キャトリーヌさんエレノアです、ご苦労様ですわ、それで、もう少しテーブルに寄ることは出来ませんの?)」
(やってみるにゃ、むむ、どうにゃ?)
「(有難うございます、これで、素材や顧客リスト、取引予定と場所なども解りましたわ、それから今日参加した方々のお家も)」
「(それにしても良くやったな、キャトリーヌ、バッチリ記録してるからもう少しの我慢だ)」
(ヨシダっち、スキルリンカーが、超役に立ったにゃ、前に瑠奈に聞いたサムライが居たけど、にゃーがやっつけたにゃ、どうにゃ? 凄いにゃ?)
「(マジかよ! バードビューでサムライ倒したの? 意味不明じゃね? でもよくやった、帰ったら肉で乾杯しなきゃな)」
(宴にゃ、宴にゃ、肉で乾杯にゃー)
そんなヨシダ達のやり取りはおろか、密談が筒抜けとなっているなどつゆとも知らず秘密の会合は続く。
サムライが部屋を出てしばらく経つも、よほどその実力を信頼しているのか、はたまた儲ける事で頭が一杯なのか、自分達の運命の行き着く先など思いもしない彼らは、欲に浮かされた亡者のように醜い姿を晒し続ける……
一方、キャトリーヌの大活躍により必要な情報を入手し、夜会も無事にこなしたヨシダ達は、慣れない任務で強いられた極度の緊張のせいか、帰りの馬車で泥のように眠ってしまったのだった……




