第59話 おっさん、夜会に潜入する
スキルリンカーの一件も落ち着いて、今回のクエストは調査がメインという事で、キャトリーヌのスキルはバードビューをリンクした、もちろん視点の操作などの使用方法も習得済みだ。
エマ教官からは、潜入調査に便利な魔導具関係一式の使い方の講習も受け、いよいよ当日。
ギルドの一室で、俺たちは互いの姿を見て、息を呑んだ。
艶やかな黒のドレスを纏い、赤い髪がより一層映えるフレア。パステルピンクのドレスが意外なほど似合っている、はにかみ気味の瑠奈。シックな黒のドレスを見事に着こなし、大人の雰囲気を漂わせる鬼灯。そして、パステルイエローのドレスで嬉しそうに尻尾を揺らすキャトリーヌ。
全員、エマ教官の地獄の特訓の成果か、あるいは高価なドレスの力か、いつもとは別人のように洗練されて見えた。
「……ヨシダも、中々様になってるじゃないか」
フレアに言われ、俺は自分の姿を鏡で見る。雪のように白いタキシードは、着慣れないせいか少し気恥ずかしいが、確かに不思議と背筋が伸びる思いがした。
「おぬしら、準備はすんだようじゃな、今日は協力者との顔合わせと最終打ち合わせ、夕方には夜会へ出発じゃ、気合い入れて行くのじゃ」
「「「「「オウッ!」」」」」
気合い十分な俺たちは、馬車に乗り込みバキュラスの街上層、白亜の豪邸が建ち並ぶ上級貴族街へと向けて走り出す。
お貴族様宅訪問だ、ギルドの用意してくれた馬車は豪華な物で、乗り心地も最高、目の前にはドレスアップした4人の美少女達が並び、一時のハーレム気分を満喫しながらの短い移動だった。
そして到着したのがアレスタ伯爵家、タリシアも普段とは違い伯爵家の訪問の為フォーマルな装いだ。門番に用向きを託けるとすぐさま中に招き入れられる。
流石は伯爵、上級貴族に入るだけ有ってその邸宅は凄まじくデカい、俺の住んでた実家なんぞウサギか犬小屋の如しだ。俺たちパーティメンバーはその豪華さに終始圧倒されながら、これ又豪華な客室に通された。
暫くはタリシアと伯爵ゲーム当主との挨拶などのやり取りを眺めていたが、いよいよエスコート対象と初顔合わせとなったが、よもや面識が有るは思わなかった。
「皆様、ご機嫌よう。アレスタ伯爵家が長女、エレノア・フォン・アレスタですわ」
そう挨拶をしたのは、グラブザカードの街でガーゴイル襲撃事件の時にホテルの最上階で出会った、ピンクブロンドのお嬢様だったのだ。
「まさか、協力者というのがあの時の方だったとは……先日は大変ご無礼を働き失礼いたしました、何卒打首だけはご勘弁を、平にご容赦を」
「ようこそ、タリシア様、Sランク冒険者パーティ、余燼の光の騎士団の皆様、そして……ヨシダ様、その節は街を守って下さり感謝いたします」
あの時のピンクブロンドのお嬢様が、伯爵家のご令嬢で有らせられるとは……急いでたし二度と会うことも無いだろうとイキってたが、ご本人様を目の前にすると平身低頭、調子乗ってすみませんと謝り倒す。
「はい、私でした。タリシア様からお話を伺った時、すぐに皆様のことだと分かりましたもの。ふふふ、ヨシダ様は今日も愉快です事。またお会いできて嬉しいですわ、ヨシダ様」
優雅に微笑む彼女に、俺たちは顔を見合わせる。まさかこんな形で再会するとは。合縁奇縁とは言ったもので、面識の有る方が確かにやりやすい。
「こちらこそ、驚きました。まさかアレスタ伯爵家のお嬢様だったとは」
「ええ、あ、あの時は領地視察の帰りで、たまたま、偶然カジノのホテルに泊まっておりましたの。さ、さあ、時間もありませんし。改めて作戦の確認を致しましょう」
オイオイ、お嬢様がカジノでGO、YOUしてたりするんじゃ無いだろな。ちょっと言い訳っぽい感じがしたが、エレノア嬢に促され、俺たちは豪華な紋章が描かれた伯爵家の馬車に乗り込んだ。
俺は彼女の隣にエスコート役として座り、フレアたちは向かい側の席で護衛の体勢を取る。中は魔道具で揺れが吸収されているのか、驚くほど快適だった。
「まず、今宵の夜会の主催者、ヴォーダ・フォン・スネア男爵……その三男が、ソルバルドで冒険者をしてらっしゃるヴァルムートですわね」
「ええ、まぁ、色々と存じております」
フレアが苦虫を噛み潰したような顔で頷く。あの時の鬱憤はまだ晴れていないようだ。
「スネア男爵家は最近、羽振りが良いと噂になっております。その資金源の一つが、ご禁制品の闇取引……特に、ドラゴンの素材ではないかと睨んでいるのです」
「ドラゴンの素材……」
「はい、とは言え、スネア男爵だけでは到底その様な大それた事は出来ないでしょう。この夜会も寄親であるジャイアル伯爵の名前で開かれていますし、彼が裏で糸を引いてると見て間違い無いと思いますわ」
15年前の「竜災の夜」以降、王命により取引が厳しく制限されている代物だ。それを扱うとなれば、相当な裏があるはずだ。
「私の役目は、皆様が動きやすいように、貴族たちの注意を引きつけておくこと。ヨシダ様には、そのためのエスコートをお願いしますわ。貴族の従兄弟、という設定でしたわね」
「はい。エマ教官に叩き込まれたマナー、どこまで通用するか分かりませんが……」
俺が苦笑すると、エレノアはくすりと笑った。
「大丈夫ですわ。今のヨシダ様は、立派な貴公子に見えますもの」
バキュラスの街中層、高級住宅街をしばらく進むと、やがて馬車は速度を落とし、煌びやかな光に包まれた屋敷の前で停止した。スネア男爵邸だ。屋敷の前には着飾った貴族たちを乗せた馬車が列をなしている。
男爵とは言え貴族のメンツと招待客に恥をかかさない為にもかなりの豪邸だが、そのセンスは成金趣味と言わざる負えないこれ見よがしなもので、金に物を言わせたなりふり構わぬ感じだ。
「着いたか、キャトリーヌ早速だがスキルで辺りを探査してくれ」
「任せるにゃ! むむむ、バードビュー起動にゃ!」
キャトリーヌが目を閉じると、彼女の意識は鳥の様に羽ばたく。上空から見た屋敷の全体像、警備の配置、招待客の流れその全てのビジョンが魔導具を通じて俺達全員の脳に共感される。
確認が終わった彼女はゆっくりと閉じた目を開くと、今見た状況を語る。
「……庭園の奥、離れへの道だけ警備が厚いみたいにゃ」
「そこが怪しいな。後で調査するポイントだ」
フレアが冷静に指示を出す。俺は深呼吸を一つすると、エレノアに手を差し出した。
「参りましょうか、お嬢様」
「ええ、お願いしますわ、ヨシダ様」
俺のエスコートで馬車を降り、招待状を執事に渡す。重厚な扉が開かれると、眩い光と喧騒が俺たちを包み込んだ。高い天井には巨大なシャンデリアが輝き、広大なホールでは優雅な音楽に合わせて貴族たちが談笑している。
「表向きは新作演劇の披露宴、か」
「ええ。皆様、くれぐれもご用心を」
俺とエレノアが社交の輪に足を踏み入れると同時に、各人決められた配置に付く。瑠奈は俺たちの護衛件侍女として一緒に合同する。フレアと鬼灯は部屋の外で他の貴族の護衛達と待機だ。最後に本日の主役キャトリーヌはシーフスキルと魔導具、そして新しくスキルリンカーとして手に入れたバードビューを駆使して任務に着く。
俺たちは、社交会という未知の戦場で戦いが、今、始まった。




