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第57話 おっさん、スキルリンクに挑む


 これで全てのメンバーの同意を取り付けた俺は、瑠奈と共にタリシアの執務室へと帰ってきた。少し心配そうな仲間たちに上手く纏まったと説明すると(勿論瑠奈の家での話は伏せて)皆、ほっと安堵の表情に戻った。


「さて、これで瑠奈の信仰との兼ね合いも折り合いが付いたみたいだし、早速だがキャトリーヌ、スキルリンカーのテストケースとして協力してもらえるか」


 先程もいの一番に協力を申し出てくれたから、否は無いと思うが、それでもキャトリーヌと向かい合い、真摯に協力を申し出てる。


「分かったにゃー、にゃーに任せるにゃ!」


 俺の真摯な申し出に、キャトリーヌは元気よく胸を叩いて答えた。その屈託のない笑顔に、先程までの重苦しい空気が霧散していくのを感じる。本当に、このパーティのムードメーカーは彼女で間違いない。


「ありがとう、キャトリーヌ。じゃあ、もう一度これを」


 俺は覚悟を決め、キャトリーヌに再び『モスキートスティックR5』を手渡す。彼女がそれを受け取ると、目の前に再び青いウインドウが浮かび上がった。


『スキルリンカーとして登録されると、対象者は『理の外』へ再配置されますが、宜しいですか?』


 先程、俺の思考を停止させた最終警告。だが今は違う。隣には覚悟を決めた瑠奈が、そして背後にはフレアと鬼灯が、固唾を飲んで俺たちを見守っている。そして何より、キャトリーヌ自身が、その意味を理解した上で、俺を真っ直ぐに見つめ、こくりと頷いて見せた。


 もう迷いはない。俺は震える指で、ウインドウに表示された『OK』の文字を、強くタップした。


 瞬間、キャトリーヌの足元に魔法陣の様なものが現れると、身体が青白い光の粒子に包まれる。驚いて声を上げようとするフレアたちを、俺は手で制した。これは女神様の言っていた再配置のプロセスなのだろう。光は一瞬だけ強く輝くと、すっと彼女の身体に吸い込まれ、足元の魔法陣と共に消えていった。


「……にゃ? 何か、終わったのかにゃ?」


 きょとんとした顔で自分の両手を見つめるキャトリーヌ。特に身体に変化は感じられないようだ。だが、俺とキャトリーヌの目の前に浮かぶウインドウには、新しいメッセージが表示されていた。


『スキルリンカーの登録が完了しました。個体名:キャトリーヌとのリンクを確立。マスター側よりリンクするスキルを選択してください』


「……どうやら、成功したみたいだ」


「ほう、たったあれだけのやり取りで、儀式は終わりか。それで、その小娘は何か変わったのかの?」


 腕を組み、一連の流れを鋭い観察眼で見ていたタリシアが口を開く。彼女の目には、先程までのからかうような色はなく、未知の現象に対する純粋な探求心と警戒が浮かんでいた。


「ええと、ウインドウに、スキルを選択しろと出ています。……キャトリーヌ、試しに何か簡単なスキルをリンクしてみるぞ。いいか?」


「にゃ、どんとこいにゃ!」


 俺は自分のスキルウインドウを出すと、ハイライトされた新しい項目を見つける。モスキートスティックR5の下にツリー形式でキャトリーヌの名前が表示されている。


「スゲーけど、なんでアレで名前まで解るんだろな?」


 素朴な疑問を呟きながらキャトリーヌの名前をタップすると、プルダウンボックスが一つ現れ、そこから俺の持つスキルが系統別にプルダウン表示される。その中から最も基本的な『バルムンク』のノーマルショットを選択し、キャトリーヌにリンクする。


『スキル『ノーマルショット』をキャトリーヌにリンクします。リンクされたスキルはマスター側では使用出来なくなりますが、リンクしますか?』


 キャトリーヌにスキルをリンクすると、最終確認としてメッセージが表示された。如何やらリンクするとそのスキルはスキルリンカーのみが使え、マスター側では使えなくなるらしい。

 取り敢えずテストを優先する方向で、『OK』ボタンをタップする。


「よしリンク完了だ。キャトリーヌ、執務室の窓から空に人差し指を向けてみてくれ。そして、俺がいつも使ってるスキルのイメージをして、『撃て』と念じるんだ」


「うにゃ……イメージにゃ……えいっ!」


 キャトリーヌが可愛らしい掛け声と共に指を向けると、その指先から、俺が放つのと全く同じ、青白い光弾がパシュッと音を立てて飛び出し、光弾は空の彼方へと見えなくなる。いとも簡単にキャトリーヌは俺の使うSTGスキルと全く同じ物を使用したのだった。


「「「「おおっ!」」」」


 その場にいた一同が、一斉に驚きの声が上がる。


「マジかよ……本当にヨシダの魔法が使えるようになってる……」


「これはすごいわ……ウチらの戦い方が根底から変わるで」


「うむ。後衛からの援護能力が飛躍的に向上するな」


 仲間たちが興奮気味に語り合う中、一番驚愕していたのは、他ならぬタリシアだった。


「……馬鹿な。個人のユニークスキルを、他人に譲渡するなど……。インチキという言葉すら生温い。これが理の外の力か……」


 その光景にタリシアは驚きを露わにするが、その頭脳はフル回転している様で、一人納得すると呟く。


「ハルクの小僧……そう言うことか。パーティでの総合Sランクとは、奴も上手いこと考えおったのう」


 やがてその口元に獰猛な笑みを浮かべた。


「気に入ったぞ、ヨシダ。やはりおぬしはワシの目に狂いはなかったわい」


 その視線は、もはや獲物を狙う肉食獣のそれだ。俺という存在の利用価値が、彼女の中で天元突破したのが手に取るように分かる。


「どうじゃダーリン? やはりワシの男になれ。ワシとリンクすれば、この王都すら手中に収めることも夢ではあるまい?」


 再び始まった悪魔の囁きに、背後から突き刺さる仲間たちの視線がレーザーの如き熱を帯びるのを感じながら、俺はスキルリンカーという新たな力の、とてつもない可能性と、それに伴う面倒ごとの予感に、天を仰ぐしかなかった。


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