第55話 エンバーライトオーダー、運命に争う者たち
結局は俺自身で如何するかを決めるしかないと言うわけか、全くあの女神様は何しに出てきたんだか。お陰で気持ちの整理が付いたじゃないか。
そうだな、幸い女神様との対話で、理の外への再配置が如何言った物かの理解はできたし、彼女たちの協力無くしてこの異世界での目的達成は不可能だ。誠心誠意お願いするしか無いか。
腹は決まった。覚悟を決め、仲間たちが待つホールへと意識を戻す。俺の深刻な顔つきに、何かを察したのか、パーティのみんなも、そしてタリシアも、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「みんな、急にすまない。少し女神様と会話してた。勿論リンクデバイスとスキルリンカーの事でだ。その事でどうしても話しておかなければならないことがある」
俺は一度言葉を切り、仲間たち一人ひとりの顔を見渡す。
「さっきの『スキルリンカー』のことだ。あれは、ただ俺のスキルを共有できるだけの便利な機能じゃなかった」
ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が静かなホールに響く。俺は、女神から聞いた話を、包み隠さず、誠心誠意、語り始めた。
スキルリンカーとして登録された者は、この世界の理、運命を司る『運命の輪』から外れる存在になること。
それは、魔王のような存在が持つかもしれない運命改変の力から、その身を守るための唯一の手段であること。
しかし、それは同時に、本来あったはずの平穏な未来を捨て、俺と共に死と隣り合わせの過酷な運命を歩むことになるかもしれない、ということ。
「……つまり、スキルリンクは、みんなを俺の戦いに、俺の運命に、無理やり巻き込んでしまうことになる。もしかしたら、俺と出会わなければ、みんなはもっと安全で、もっと幸せな人生を送れたのかもしれない。その可能性を、俺が奪うことになるんだ」
全てを話し終えた俺は、深く頭を下げた。
「だから、これは強制じゃない。みんなの人生を左右する重大な決断だ。断ってくれても、俺は誰も責めない。それでも、俺は……俺は、みんなの力が必要なんだ。どうか、俺と一緒に戦ってほしい」
重い沈黙が、ホールを支配する。誰もが、俺の言葉の重さを理解し、自分の未来と天秤にかけているのが分かった。
最初にその沈黙を破ったのは、意外にもキャトリーヌだった。
「にゃーは、難しいことはよく分かんないにゃ」
彼女はそう言うと、俺の前にとてとてと歩み寄り、俺のタキシードの袖をきゅっと掴んだ。
「でも、ヨシダっちがいなくなったら、にゃーは悲しいにゃ。それに、フレアや瑠奈、鬼灯と離れ離れになるのも絶対に嫌にゃ。みんなと一緒にいられるなら、運命がどうとか、にゃーは気にしないにゃ! だから、にゃーはやるにゃ!」
「キャトリーヌ……」
真っ直ぐな瞳に、胸が熱くなる。続いて、フレアが一歩前に出た。その表情は、パーティのリーダーとしての覚悟に満ちていた。
「よく言ったねキャトリーヌ、ヨシダ、アタシもアンタに協力するよ」
「……おい、そんなに簡単に結論を出してもいいのか? 四人で話し合ってからでも良いんだぞ?」
フレアの間髪入れない決定に、逆に俺の方が戸惑ってしまう。協力して貰えるのは勿論嬉しい。だが、フレアのそれはノリや勢いで決めた様に俺には見えた。
「何言ってんだい、アンタがこのパーティに参加した日の歓迎会の夜、竜災の夜の話をしたのを覚えているかい?」
「ああ、勿論だ、忘れるわけが無い」
忘れるわけが無い、この王都への旅もそれが目的と言っても良いぐらいだ。彼女の力になると誓ったんだからな。
「ふふ、アンタの事だから忘れてた! とか言うと思ったけど、まあそれは良いさ。肝心なのは女神様から聞いたと言ったさっきの話の内容だよ」
「運命の輪の外や内の話か?」
「そうだ、女神様の言うにはアタシ達の人生は決まってるそうじゃ無いか?」
「ああ、決められた筋書き通りの人生を辿るという事になるな」
「それじゃあ何かい? あの竜災の夜の出来事もギルマスや街の人達の犠牲も、全て予定調和の出来事だったと言うことかい?」
……それは考えても見なかった、彼女達の運命の改変をしてしまう事で頭が一杯だったが、彼女にとって忘れられない悲劇も、決められた筋書きの一節であると言う事か。
「ふざけるなっ!」
ドンと床を踏み鳴らし、フレアは叫ぶ。眉を怒らせ顔を紅潮させ、その表情はもどかしさや、やるせなさで酷く歪む。
「竜災の夜の出来事も、残された者の狂った人生も……全ての理不尽な暴力から護れるだけの力を手に入れると誓って立ち上げた『余燼の光の騎士団』に込められた想いすらも、全てが偽物だったと言うことか!」
彼女の背負った壮絶な過去、心の傷と同じ出来事を起こさせない為の誓いと、その証余燼の光の騎士団、その全てが決められたシナリオをトレースするだけの茶番だったと、その人生や運命は全て無意味だったと、そう突き付けられた彼女に否やは無かった。
「ふざけるなっ! 筋書きの決められた人生なんかクソ喰らえだ。だったらアタシは、その理不尽な運命とやらに抗ってやる。それが、『余燼の光の騎士団』だっ!」
全くフレアらしい俺の為では無く、竜災の夜の様な理不尽な運命に争う為、そしてその時に誓った想いの為、理の外で戦うと言うのだ。眩しいくらいに真っ直ぐに。
「ああ、俺も『余燼の光の騎士団』の一員だ、フレアの誓いにつきあってやる。言ったろ? 使える奴だって証明すると」
俺はスタンピード戦の時に、力を認めさせる為一人で迎え撃った時を思い出しながらそう答えてやる。
「私は……フレアに拾ってもらって、このパーティに居場所をもらった。みんなを守ることが私の役目だ、そして存在意義でも有る」
彼女は自分の大きな拳を握りしめ、それを見つめたまま切り出す。
「私の生い立ちや、母から受け継いだ力が定められた運命と言うのならば受け入れよう」
そこで言葉を切った鬼灯は、その拳に更に力を込め、顔を上げる。
「だが、皆が決められた道から外れ、運命に抗う荒野を行くのなら、私はその盾となり先陣を切って理の外を突き進む。ヨシダ、お前だけの戦いじゃない。これは、私たち全員の戦いだ」
フレアに続き鬼灯までもがこのパーティの戦いだと認識して、当然の様にスキルリンカーとなっても良いといってくれたが、瑠奈は……
「ウチは……少し考えさせてくれへんか……」
なんだか複雑な表情でそう呟くと、部屋を出て行ってしまった。やはりこのスキルはただ事では無いことを実感させられると共に、瑠奈の言葉がとても気になった。
「なあ、どうしたんだ瑠奈は、なんか様子が変じゃなかったか?」
「そうだね、あの子の場合はアタシ達みたいに過去云々よりも、信仰的に何か有るのかもね」
そう推測するフレアの言葉にハッとする。そう言えば彼女はヒーラーと言うカテゴリの括りだが、ジョブは巫女さんなんだよな。そりゃ、女神様と運命に抗うと言うのが承服できない可能性もあるか?
「ヨシダッち、瑠奈、ドレスのまま出て行ったにゃ、追っかけた方が良いかにゃ?」
「そうだな、俺のスキルリンカーの事で思う所が有るのかもしれないし、少し話をしてみるから、俺に任せてもらっても良いか?」
そう言うと俺は、瑠奈を追って部屋を出たのだった……




