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第54話 おっさん、スキルリンカーを登録する

 さて、マナー講習の卒業試験も無事こなし、やっとリンクデバイスの検証に専念できるようになった。


「これで、おぬしらも後願の憂いなく検証できよう。で、誰で試す? やはり言い出したワシかの? おぬしもワシとリンクしたかろう」


 何故か艶っぽくシナを作りながらそう言う。冗談とも本気とも取れる発言だが、その度にレーザー照射される身にもなってくれ。


「それはそれで魅力的だが、これから潜入調査の任務が有るし、パーティメンバーの誰かにしようと思う」


 俺は即答した。これは本心だ。それに、この悪戯好きな上官がこれ以上調子に乗るのを防ぐ意味合いも大きい。


「それに、最初にウインドウが見えたのはキャトリーヌだ。まずは、一番最初にトリガーを引いたキャトリーヌに登録をしてみて。何が起こるかを確認したい」


「にゃーが一番?」


 俺がそう提案すると、キャトリーヌはぱちくりと目を瞬かせた。特に不安そうな様子はない。むしろ、自分が役に立てるかもしれないという期待に満ちた顔だ。


「ああ。もちろん、キャトリーヌが嫌じゃなければ、だが」


「ううん、やるにゃ! ヨシダっちの役に立ちたいにゃ!」


 元気よく手を挙げてくれたキャトリーヌに、俺は安堵の息を漏らす。よし、方針は決まった。


「じゃあ、もう一度このモスキートスティックR5を持ってみてくれ」


「わかったにゃー」


『リンクデバイスの新しい所有者が、確認されました。スキルリンカーとして登録しますか?』


 再び現れた青いウインドウは、先ほどと変わらずスキルリンカーの登録を促すメッセージが表示される。

 これを登録してしまうと、何かとんでもない事に巻き込んでしまうのではと思うと、『OK』ボタンを押す手が震える。


 チートスキルとは言え、便利なスキルが無条件で使い放題とは思えない。だがそのデメリットがわから無い現状、試すしか方法がないのも事実だ。


「えーい、ままよ!」


 俺は結論が出無いままウインドウの『OK』ボタンをタップする。


『個体名、キャトリーヌを識別しました。これよりスキルリンカーの登録および、スキルのリンク設定を行います。宜しいですか?『OK』『Cancel』』


 意を決して押したのに、最終確認有るんかい。まあ、出来たUIなら当たり前だが、あの女神様のスキルだから警戒してたが……


「勿論『OK』だ」


 一回スカされて、逆に腹が座った気する俺は、躊躇なく『OK』ボタンをタップする。


『スキルリンカーとして登録されると、対象者は『理の外』へ再配置されますが、宜しいですか?』


 またもや確認事項……だが今度のは意味が違う。俺と同じこの世界の理の外に生きる者となってしまうらしい。転生者の俺自身は然程困りはしなかった、死んで生き返ってラッキーぐらいだが、この世界に住むキャトリーヌは如何なんだ?


 登録の手が止まってしまう。……如何する? 彼女は日本語が読め無いんだ、勝手に進めることも出来る、だがそれで良いのか? 確かに許可は取った、だけどこの仕様は想定外にも過ぎる。

 下手をすれば彼女の存在そのものに、影響を与えてしまうのではないのか? 大体理の外とは如何言う事なんだ……理の内と外何が変わる……


「ヨシダがなんか固まってるが、大丈夫なのか」


「せや、ヨシダはん顔が真っ青やで? なんかあったん」


 仲間達の心配する声が聞こえるが、それどころでは無い。

 彼女に許可を取ればいい一番簡単な方法だ、だがそれは彼女に責任を丸投げしてるだけでは無いのか? 自分が選んだわけでは無いと言う、言い訳が欲しいだけじゃ無いのか?


 俺は決断でき無いまま、グルグルと思考の渦に巻き込まれ抜け出せなくなっていた。いくら考えても答えは出ない⸻いや出せなかった。この重い決断を彼女に押し付けるようなことはしたく無い。


 彼女に問えば恐らく同意してくれるだろう。その答えの意味も分からず俺のためだと言い、スキルリンカーとなってくれるだろう……


「(あらあら、なんだからお悩みね、ヨシダ)」


 いきなり人の葛藤をぶち壊す能天気に響く、このリバーブのエフェクト付きの、美声はまさか。


「(呼ばれて無いのに、じゃじゃじゃ、じゃ〜ん、女神様です)」


(なんだろう……ツボから出てくる魔人のアニメ番組が頭に浮かぶんですが?)


「(また、変な事考えてるんでしょ? 今回は貴方のお悩みに答えようかと思ったのに)」


(え、それはマジですか?)


「(ええ、マジよ)」


(というか、このスキルリンカーの条件は何なんですか?理の外へ再配置とは?)


「(う〜ん、そうねぇ、前にこの世界はアカシックレコード的なもの⸻私たちは運命の輪ウィールオブフォーチュンと呼んでるけど、それに沿ってると言う話はしたわよね?」


(はい、この世界の人々はその運命の輪に沿って人生が決められてるとかですよね?)


「(そう、それ、スキルリンカーになるとその輪から外れてしまうの)」


(それが如何言った意味を持つのですか?)


「(貴方が理の外の存在なのは説明したわよね? そして貴方の倒すべき魔王も同じく理の外の存在だと言うことも)」


(はい、それは覚えてます)


「(スキルリンカーは貴方のお供の様な存在になるの、例えば運命の輪の強制力に沿った人生を歩んでるじゃない? その人生を書き替えられてしまったら如何なるでしょう?)」


(それは、その人の運命が変わってしまうと言うことですか?)


「(ピンポンピンポンピンポ〜ン、よく出来ました。魔王はもしかするとその力を与えられているかもしれ無いの)」


(え? 人の人生を書き変える能力が有るかもと、そう言うことですか?)


「(そう、そうすると貴方の仲間で有る余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーのメンバー達が敵対する、最悪死を選ぶ様な人生に書き変えられたら?)」


(それは……ダメです、絶対ダメ)


「(そこで因果律から切り離し、運命改変から守る⸻書き換えができ無い貴方と同じ立ち位置に、仲間を置くのが本来の目的なの、スキルの共有はオマケね)」


(あの、それでスキルリンカーとして登録すると彼女達は何が変わるのですか)


「(身体的には何も変わら無いわ。ただ、これから歩くであろう彼女達の未来を、貴方が変えてしまうことになるわね)」


(えっ……と、例えば如何言うこと?)


「(うーん、そうね、例えば、貴方と出会わなかった彼女達はこの先冒険者として過ごし、そこそこの地位と名誉を手にして、その後結婚引退して幸せに暮らしてたかも知れないわね)」


(はい、それが一般的な人生と言えますね)


「(そう、だけど貴方と出会い、魔王討伐の供となった彼女達を待ち受けるのは、死と隣り合わせの過酷な運命かも知れないし、魔王討伐を成し遂げた英雄となるかも知れない)」


(その中には使命半ばで力尽きる可能性も……)


「(有るかも知れないわね、貴方はそれを彼女達に伝える勇気が有るかしら? そして運命を共にする覚悟が有るのかしら?)」


(それは……)


「(大きな力には、それ相応の責任が伴うと言うことなのよ。ヨシダ、貴方の責任感の強い所はいい所よ、でも、彼女達の選択もまた彼女達の意思で有り責任で有ることも忘れないで)」


(それで良いのでしょうか?)


「(さあ? それは分からないけど、全ての責任が自分に有ると思うのはとても傲慢だと思うの。全て投げ打って決断する時はいずれ来るわ、でも今がその時かしら? 仲間達の意思は必要無いのかしら?)」


(そうです……ね、今この瞬間に決る必然性は無いですね、ただのスキルの共有が、思ったよりも重い決断を強いたもんだから焦った様ですね。仲間達と考えてみます)


「(それが良いと思うわ、私が言いたかったのはそれだけ。じゃあそろそろ帰るわね、バイバ〜イ)」


 良くあるラノベの、良くあるパワーアップイベントかと思ったら、とんでもないヘビーな内容で視野が狭窄したが……そうだな、まずは俺の仲間に聞いてみるか。


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