第49話 おっさん、スカウトされる
昨年末より掲載しておりました拙作おっさんSTGですが、今週より月、水、土曜日19:00更新に変更させて頂きます。
よろしくお願いします。
その後、散々タリシアにアレやコレやとやらされて、クタクタで帰ってきた執務室。流石は海千山千の怪物だ、お見それしました。
「さてヨシダよ、おぬしの出自と実力も、先の魔法の実演でこの世の理から外れた物じゃと実証された訳じゃ。おぬしらが5人で総合Sランクなのも納得のいく物じゃと分かった、それはワシも認めよう」
そこで一旦言葉を切ったタリシアの顔は、先程までの好奇心に溢れた子供の様な表情から一変、初めて対峙した時の冷徹なグランドマスターの顔に戻る。
「ヨシダよ、ワシのモノになる気は無いか?」
突然の話で暫く脳がフリーズする。
「はい?」
一瞬性的なお誘いか?と勘違いしそうになったが、どうやら俺をスカウトしていると言う事だと分かる。
「あの、それは俺たちパーティでの話でしょうか?」
俺は、今までのやり取りから、そんな周りくどいやり方はしないだろうと思いつつも、パーティの利益を最大限に考えて、問い直す。
「いや、おぬしだけじゃ。他のメンバーも良く鍛えられては居ろうが、王都での実力では上の下、と言った所かの? 悪くは無いが喉から手が出るほどでも無い」
俺の問いに、至極あっさりとした調子で返すタリシア。
だが、その言葉でフレア達の視線が8本のレーザーの様に突き刺さるのが分かる。余燼の光の騎士団では新参者の俺が、彼女達との共闘で埋めて来た溝を、一瞬で掘り返すスプレッドボムの様な言葉に硬直する。
「いや、でも、俺なんか昨日今日冒険者になった初心者だし、彼女達の方が冒険者としての経験も豊富なのに、何故俺なんですか?」
全くとんでも無いこと言い出すな、このグラマーは。折角馴染んで来てコレからって時に何ちゅう爆弾落とすんだよ。
「む、そこを聞くのかおぬしは。ハルクから聞かされて居らんのか? しょうがない奴じゃのう」
やれやれと言った調子で、その理由を語り始めるタリシア。
「まずは、その無詠唱で魔力に依存せん連射能力じゃの。経験云々無くとも固定砲台として絶大な威力を発揮出来るのが、最大の理由じゃ」
針の筵状態の俺を、むしろ(筵だけに)楽しむ様な感じで説明を続ける。
「次に戦闘力云々もじゃが、そのセンスじゃな。あのゴーレムをアッサリと無力化して見せた戦術、あれには正直ワシも驚きを隠せなんだわ」
先ほどの模擬戦を思い出してか、新しいオモチャを目の前にした子供の様な、軽い興奮状態で捲し立てる。
「最初は、グズグスと出来ない言い訳を言っておるのかと思っておったが、あれ程までにアッサリ無力化されては、ワシも降参するしかなかったぞ?」
「は、はあ、それは恐縮です」
下手な返事でもしてみろ、どっから持ってかれるか分かったもんじゃ無い。俺は無難な返答を返しながらこの状況をどう収めるか思案するのだが。
「どうじゃ? ワシのモノになれば、さらなる高みを見せてやれるぞ。王都バキュラスに所属する超一流の冒険者パーティと一緒に頂を目指してみんかの」
顔を寄せ耳元で囁く悪魔の様な美女、なんか8本のレーザーが太くなってる様な気がするんですけど? いちいち色っぽいのがまた困る。
だけど、俺の答えは決まっている。
「過分な評価は恐縮ですが、俺はこの5人で上を目指そうと思います。折角ですがその話は無かった事にして貰えませんか?」
タリシアの色香にも惑わされず、毅然とした態度で辞退を申し出る俺。後頭部に刺さるレーザーも、温かな視線に変わった様でほっと一安心だ。
「ほう、仲間を見限る様な真似はせんか」
フレア達4人に振り向き視線に答えていると、背後でタリシアがボソリと呟いた。
「あの、何か言いましたか?」
聞き取れなかった俺はタリシアに尋ねたが。
「いや別に……そうか、残念じゃな。無理強いも出来んし今日の所は引き下がるかの」
彼女は何故か満足そうな、それでいて少し寂しそうな、そんな複雑な微笑みを浮かべ答えたのであった。
「では今回の報告は確かに受領した、遠路遥々の報告御苦労であった。報酬代わりに宿舎の部屋を2〜3日貸してやるで、王都見物でもしてソルバルドへ戻るが良い」
タリシアの言葉に『余燼の光の騎士団』のメンバー全員が首を傾げ、頭上に"?"マークを浮かべる。
ちょっと待て、俺達はソルバルドの冒険者ギルドから、竜災の夜の調査を依頼されている、ハイそうですかと帰れるか。
「タリシア様、報告への報酬は大変有り難りのですが、我々はソルバルドの冒険者ギルドより、今回のスタンピード事件と竜災の夜の調査を、ギルドからの指名依頼として受けております」
後ろでやり取りを見ていたフレアが、前に一歩踏み出しパーティの総意をタリシアにぶつける。
「そうじゃな、おぬしらが持って来た報告書にも、その様に書いてあったのう」
「では、我々の王都滞在と、調査の許可を頂けると言う事でしょうか」
その剣幕に押された訳でも無く、拍子抜けするほどアッサリとフレアの言葉を肯定するタリシアに畳み掛ける。
「そうじゃの、おぬしらがソルバルドのギルドの指名で調査するのは、やぶさかではないがの」
フレアにアッサリと許可を出す彼女だが、先程までの妖艶な笑みは失せ、冷徹なグランドマスターの表情で、そう答える。
「やったなヨシダ、タリシア様の許可も得たし、休暇を挟んで調査が出来るぞ」
フレアは竜災の夜の調査が認められたと思い、テンション上がってるけど……正直、タリシアの言葉は、前世で見てた政治家達の言葉によく似ている。
「タリシア様、"やぶさかではない"の後に、"ただし"なんて続きがが有ったりしませんよね?」
やぶさかではない、記憶に無い、検討します、etc……政治家の常套句だろ? 特にタリシアは油断ならない雰囲気が有る、用心し過ぎはないだろう。
「ほお」
俺の言葉にタリシアは、僅かに目を見開き短く漏らす。
(こやつ、ワシの言葉の含意に気付きおった、仲間達は疑問すら持たんのに……模擬戦での型破りな戦術と言い、ハルクの言う異世界人とやらは、このレベルで庶民か?)
「なあヨシダよ、ワシのモノにならんか?」
タリシアが驚きの表情から再びスカウトの言葉を放つ。先程の悪戯な感じは鳴りを潜め、今度は少々マジな気がする。
「それは、先程お答えした通り俺はこのパーティでやっていくので、無かった事にとお答えしたはずですが?」
「いや、パーティでの活動はそのままで良い、ワシの男になれ。それなら問題無かろう?」
…………なんじゃそりゃー、どっからそんな結論に辿り着く? この人フリーダム過ぎるだろ!




