第48話 おっさん、美人マスターにタゲられる
「さて早速じゃが、中々面白い経緯をしとるなおぬしは、まず女神様の使いで、この世界の法則を無視した面白い魔法じゃと?」
早速タリシアの尋問が始まる。海千山千の強者が相手では流石の俺もタジタジだ。後、鬼灯に匹敵するメロンがヤバい。
「にわかには信じられん内容じゃが、あのハルクが冗談でこの様な親書を持たすわけも無い、か?」
俺の視線などお構い無しで尋問は続く。なんなら見せ付けてる感まで有る。
タリシアは腕を組み、その豊かな胸をさらに強調させながら、俺を射貫くような視線で値踏みする。その目は、俺という存在の真贋、そして利用価値までも見定めようとしているかのようだ。
「じゃが、ワシとて全ギルドを束ねるグランドマスター。親書一枚で『はい、そうですか』と納得する訳にはいかんのじゃ。――ヨシダと言ったか? おぬしのその『面白い魔法』とやらを、この場で見せてみよ」
やはり、そう来るか。
この手の実力主義者には、実物を見せるのが一番早い。俺は仲間たちの方をちらりと見る。フレアたちは固唾を飲んで俺とタリシアを交互に見ている。下手に規格外の力を見せれば、王都のど真ん中で危険人物認定されかねない。かと言って、しょぼい結果ではこのグラマラスなグランドマスター(略してグラマス)は納得しないだろう。
「……あの、親書に何が書かれていたか分かりませんが、俺のスキルは、ソルバルドの冒険者ギルドの二重結界を破壊してますけど、此処でやっても?」
俺はギルマスとの模擬戦を思い出しながら、余り派手にらやかさない為の言い訳をしたつもりだったのだが、如何やらこの人のスイッチを入れてしまった様だ。
「ほう、おぬし言うたの? その言葉忘れるで無いぞ、後でハッタリでしたでは泣いても許さんからの」
グラマスの眉は吊り上がり、鴟目虎吻のボスモードへと豹変した。その眼光は敵を貫く極太レーザーか、はたまた鬼哭啾々の弾幕地獄か、いずれにせよ俺はこの極悪ステージを、攻略せざる終えなくなった訳だ。
(ヤバい、地雷踏んだか? もう弁済は勘弁して欲しかっただけだったのに)
そう思っても後の祭りだ、既に立ち上がり、着いて来いと歩き出す始末だ。今更言い訳しても許して貰えそうにも無いので、大人しく彼女の後を着いて行く。
その後ろ姿に、たわわなメロンも魅力的だが、瑞々しい桃もまた格別だったと言う事を報告しておこう。
「さて、ここなら遠慮なく披露してもらって構わんぞ、おぬしの力を」
そう言って振り返ったタリシアに連れて来られたのは、ギルドの裏手に有る、グランドの様な場所だった。
一周300mのトラックが取れそうな程の広さが有る訓練場の、そこかしこに冒険者達がおり、鍛錬を行っている。
「そうじゃの、まずはあのゴーレム相手に試してみるとするかの」
そう言って顎をしゃくった先に見えたのが、鬼灯と同じぐらい大柄なゴーレムだ。
「……えっと、直接タリシア様が俺の相手をされるのでは無いのですね?」
執務室の剣幕から、どっかの筋肉ゴリラの様に自らが確かめてやると、嬉々として言うのかと思っていたので、いささか拍子抜けだ。
「たわけ! ワシをハルクの様なバトルジャンキーと一緒にするな。そもそもワシとやりたいのなら、そのゴーレムぐらい軽くあしらって見せよ」
彼女の言葉に少々カチンと来た俺が、ムッとしていると彼女は付け加える。
「ただし、あのゴーレムはAランクはもとより、王都のSランク冒険者達の訓練相手もしとる。一筋縄ではいかんぞ?」
なるほどね、田舎冒険者の総合Sランクのパーティなど、たかが知れてる。実力を試してやるだけ有り難く思えと、そう言うわけか?
「……舐められたものだな」
これでもあの竜災の夜のドラゴンと思しき、仮面の紳士を退けたパーティだ。だったら見せてやんよ、シューティングスキルの真骨頂をよ。そう決断した俺は素早くスキルセットをバルムンクに変更する。
「ではヨシダよ、準備は出来たかの?」
タリシアが余裕綽々と言った風情で俺に確認を取る。その高く伸びた鼻をへし折ってやりたいが、その前に念押ししとく。
「あの、一応確認ですが、全力出しても良いんですよね? 王都に来ていきなり借金地獄は御免ですからね」
「お主も大概しつこいの、分かった分かった、弁償など無用じゃ全力でやって見せよ。まあ、その心配は必要なかろうがの」
(よっしゃー! 言質とった! それじゃあ遠慮なくぶちかましてやるぜ)
内心のガッツポーズはおくびにも出さず、デカブツの前にいつものアケコン操作で構えを取る。
「いつでも良いですよ、始めてください」
後顧の憂いも無くなり、すこぶる上機嫌でタリシアにそう促す。
「何やらご機嫌の様じゃが、その珍妙な構えで相手をするつもりかの? まあ、止めはせんがの」
前にギルマスと模擬戦した時と同じ反応で、もう慣れっこだ。と言うか半ば諦め混じりで答える。
「ええ、これが俺のスタイルなんで、気にせずお願いします」
「ふむ、それでは始めるかの、双方準備は良いな?……それでは初めっ!」
タリシアは開始の合図をすると、ゴーレムに魔力を飛ばす。訓練用ゴーレムは起動サインを受けると、低い唸りを上げながらゆっくりと此方へ向けて戦闘行動を開始する。
「そのゴーレムは近接戦闘訓練用で、Sランクの訓練にも耐えうる耐久性とパワーを誇る。倒せとは言わん、精々健闘して見せよ」
ズシン……ズシン……と重量感の有る音を響かせて巨体が此方に迫る。
「オイオイ、本当にあの速さで訓練になるのか? アレじゃ的にして下さいと言わんばかりじゃないか」
ゴーレムはその巨体に違わず動きが遅い。はっきり言って廃坑で遭遇した亜竜の方がデカかいうえに素早かった。
「あの程度なら俺のチート抜きでも、フレア達だけでヤレるだろ?」
事実、亜竜戦では彼女達が前衛として亜竜の動きを封じてくれていた。彼女達と乗り越えて来た修羅場に比べれば、なんて事は無い至極簡単な事に思えた。
「如何したのじゃ、怖気付いたかの?」
タリシアの挑発を聞き流しながら試しに2、3発打ち込む。バルムンクのノーマルショットを受けたゴーレムは着弾するたび、その威力に大きくバランスを崩して、今にもぶっ倒れそうだった。
「拍子抜けだな、破壊するまでもない……か」
そう呟くと、ゴーレムの足元にノーマルショットを叩き込み巨大なクレーターをつくる。一瞬のうちに足場を失ったゴーレムはクレーターの底で惨めにバタついているだけだった。
「ふう、こんなもんですかね?」
この時の俺の笑顔は、人生史上最高の笑顔だったと思う。ドヤ!
タリシアは驚愕に染まった顔をゆっくりと上げ、やがて、その口元に獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべた。
「ほう……これは、確かに面白い。ハルクの奴、とんでもない『切り札』を隠し持っておったわい。――気に入ったぞ、ヨシダとやら。お主のその力、もっと詳しく見せてもらおうか」
先程までの疑いの色とは違う、純粋な好奇心と独占欲に満ちた瞳。
「オイオイ、もっと見せろって、これで終わりじゃ無いのかよ」
まずい、別のスイッチを入れてしまった。
俺は完全に興味の対象としてロックオンされて、面倒なことになる予感しかしない。背中に流れる冷たい汗を感じながら、内心で天を仰いだのだった。




