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第46話 おっさん、初めての王都

 王都への旅は順調に続く。謎の監視者、カジノ都市での攻防、豪華スイートルームでの宿泊など、僅か3週間程の旅の間に目まぐるしく訪れたイベントの数々をこなし、やっと見えて参りました憧れの都、王都。


「ヨシダ、見えてきたぞ。あれがこの国の中心、無敵の城塞、王都バキュラスだ」


 御者台の鬼灯が声を掛けてくる。俺は馬車のキャビンから御者台へ出て、その街の巨大さに息を呑む。


「で、デカ過ぎワロタ、ははは」


 目の前に遮るものはなく、巨大なパノラマを横一文字に切り裂く様に伸びる城壁、二重、三重とそれは折り重なり、小高い丘のテッペンに鎮座まします王城が見える。


「オイオイ、凄いな、何重スクロールしてんだよ? 背景(BG)面幾つ必要なんだよ」


 幾重にも重なる城壁、白く聳える壮麗な王城、その美麗な風景を前に飛び出したのが、なんともシュールな例え。しかし浮かれ切った俺の目には、馬車の移動に合わせて少しずつ独立してスクロールをするその様は、まるでシューティングゲームの背景(BG)面の様に映る。


「いやまてよ、これは背景(BG)面の優先度切り替えと、スプライトの併用による、ソフトウェア処理か?」


 目の前に広がる風景、新しい街への期待、そこに待っている未知のドラマ、俺のシューティング脳は冴え渡り、全ての事象を変換して出力する、即ち……


「絶好調〜〜!!」


「ま〜た始まったにゃ、ヨシダっちのイミフなやつにゃ」


 狭い御者台へ無理やり体を捩じ込んで、同じく王都を見てはしゃいでいたキャトリーヌが、呆れた様に呟く。


「いやいや、何処がイミフなんだよ、ここにデン!っと、"シューティングマスター吉田!!"とかタイトル入れれば、まんまファンタジーSTGのタイトル画面だろうよ?」


 俺のシューティング脳は王都へ到着した興奮で、フルブーストのクロックアップ状態で、今にも熱暴走しそうな勢いである。


「スッパァ〜〜ン!!」


 俺とキャトリーヌが御者台でワチャワチャやっていると、突然、小気味いい音と共に後頭部を叩かれる。


「アンタ達、もう直ぐ入城だよ! 準備出来てるのかい?」


 後ろを振り向くと、額に青筋作って怒るフレアが、怒鳴り散らす。


「いって〜、なんだよいきなり」


「そーにゃ、フレアだって嬉しそうにゃ、そわそわしてるのにゃ」


「そーだ、そーだ、もっと言ってやれキャトリーヌ」


 頭をどつかれた俺とキャトリーヌは、二人でブーイングだ。


「…………なんか言ったかい?」


「「いいえ、何も有りません」」


「全く、これじゃ子守だよ」


 ヤレヤレと大袈裟にため息をつくフレア。別にちょっとぐらいはしゃいでいいじゃん? 俺とキャトリーヌがブー垂れる。


「まあ、ええやん。はしゃげる時にはしゃいどき、王都のギルドに着いたら竜災の夜の真相やら、謎の襲撃者の事やらで遊ぶ時間なんてあれへんのやから」


「そうだ、旅の疲れを癒した後は、またハードワークだ」


 瑠奈と鬼灯の頼れる援軍を得た俺達は、フレアに逆襲のドヤ顔を決める。


「流石、瑠奈と鬼灯は分かってるな、4対1だぞ? フレア」


「そーにゃ、4対1でフレアの負けにゃ、ざまーにゃ」


 流石に4対1では旗色が悪く、渋々折れる事にしたフレア。


「分かった、でも入城の準備と報告はキッチリやってからだよ?」


「「「「おおー!」」」」


 迫り来る城門を前に一致団結する俺たち。鬼が出るか蛇が出るか? 魑魅魍魎が跋扈する王都で、波乱の幕開けが俺たちを待っている……



********



 巨大な城門に近付くにつれ馬車は速度を落とし、入城待ちの列の後ろで停止する。


 門の両脇には、お仕着せの鎧に身を包んだ衛兵と思しき兵士たちが、直立不動で控えている。

 ソルバルドやグラブザカードの衛兵は、街の住人の職業と言う様な緩い感じがしたが、此処では明らかに練度も装備も違う、軍人然とした猛者達が、言葉通りに街を守っている。


「馬車から降りて身分を証明するものを提示せよ!」


 慌ただしく往来のある巨大な城門前で、隊長らしき人物が、鋭くも冷静な声で告げる。その眼光は、俺たち一人一人の力量を値踏みしているかのようだ。


(うわ、動きがキレッキレだ、しかもシンクロしてる。こりゃガチの軍人だな。下手にちょっかい出した日にゃ、手痛い打ち返し(カウンター)が来るタイプだな)


 俺が脳内で兵士のパラメータを分析していると、フレアが堂々と一歩前に出る。


「Sランク冒険者パーティ、『余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダー』。ソルバルドギルドのマスター、ハルク・ブルーガーの命により、ギルド本部へ報告に参った。これが我々の身分証と、ギルドマスターからの親書だ」


 フレアが懐から取り出した真新しいSランクの冒険者証と、封蝋のされた手紙を差し出す。隊長はそれを受け取ると、Sランクの文字に一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻して手紙の封蝋を確認する。

「勇猛で鳴らした『鉄塊のハルク』殿の印か……確かに受理した。我々はSランク冒険者の来訪を歓迎する。王都での滞在、実りあるものにならんことを願う」


 お堅い口調は変わらないが、その声には先程までなかった敬意が確かに含まれていた。どうやらあの筋肉ゴリラの勇名は、この王都まで届いているらしい。


「通行を許可する」


 隊長の言葉を受け、槍を持ち、進路を塞ぐ様に立っていた二人の衛兵が傍に避ける。敬礼をする衛兵達を横目に、目の前に聳える巨大な門を潜り、俺達は遂に王都バキュラスの内部へと足を踏み入れた。


「すっげえ……」


 思わず声が漏れる。どこまでも続く広大な石畳の道。整然と立ち並ぶ白亜の美しい建物。行き交う人々の服装も洗練されており、時折すれ違う豪華な馬車は、貴族のものだろう。活気がありながらも、どこか気品が漂う空気は、これまでの街とは全くの別物だ。


「まずはギルド本部へ向かうよ。場所は下層中央区画、一番高い時計塔が目印だ」


 王都は三層に分けられ、第一階層は庶民の住む下層と呼ばれる一番広い区画だ。

 第二階層は中層と呼ばれ、下級貴族や騎士層、大店の商人立ちの住まう高級住宅街が並ぶ。

 第三層は高層と呼ばれ、上級貴族や侯爵などの住居が居並ぶ、超高級住宅街だ。

 その更に上にあるのが、この国の頂点、王侯貴族の住まう王城が聳える。


 フレアの指示で、俺たちは再び馬車に乗り込み、王都の中枢を目指す。窓の外に流れる壮麗な景色に皆が目を奪われる中、俺はこれからの出来事に胸を躍らせていた。

 暫く馬車に揺られ、俺たちは目的地である冒険者ギルド本部に到着した。


「……ここが、本部」


 ソルバルドのギルドが屈強な冒険者たちの集う「砦」だとしたら、目の前の建物は、さながら神殿か王宮だ。巨大な大理石の柱が何本も天を支え、磨き上げられた扉には精巧な彫刻が施されている。その威容に、俺たちもゴクリと喉を鳴らした。


 中に入ると、その広さと豪華さに再び圧倒される。天井は遥か高く、床には一点の曇りもない紋章が描かれている。依頼票が貼られた掲示板も、電子掲示板のような魔道具になっており、情報がリアルタイムで更新されているようだった。


「あの、すみません。ソルバルドのギルドから参りました、『余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダー』と申します。ギルドマスターのタリシア・セントリー様にお取次ぎ願いたいのですが」


 フレアが受付カウンターにいた、眼鏡を掛けた知的な雰囲気の女性職員に声をかける。職員は俺たちを値踏みするように一瞥すると、にこりともせずに応じた。


「ギルドマスターに御用ですか? アポイントメントはおありでしょうか。現在、マスターは多忙を極めておりますので、アポイントメントの無い方は…」


「危急の要件で、ソルバドルの冒険者ギルド、ギルドマスターのハルク・ブルーガーから親書を預かっております」


 フレアが事務的な対応を遮り、毅然とした態度で手紙をカウンターに置く。職員は訝しげに手紙に視線を落としたが、ハルクの名の入った封蝋を見た途端、その顔色が変わった。


「こ、これはハルク様からの親書…! た、大変失礼いたしました! アポイントなど不要でございます! 直ちにマスター、タリシア様へお繋ぎいたしますので、どうぞこちらでお待ちください!」


 さっきまでの氷のような態度が嘘のように、慌てふためきながら奥へと消えていく職員。その見事な手のひら返しに、俺とキャトリーヌは顔を見合わせてニヤリと笑った。


 どうやら、俺たちの王都での最初のクエストは、このギルドマスターへの謁見から始まるらしい。一体どんな人物が待っているのやら……俺は案内された執務室のドアの向こうに待ち受ける、未知なる出会いに思いを馳せるのだった。


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