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第44話 おっさん、後始末と消えたカジノディーラー

 戦闘を終えた街は結構な被害が出ており、俺はギルドの二重結界の賠償に加えてカジノの損害まで負わなければならないのかと、一瞬身構えていたが、どうやら騒ぎを聞きつけた彼らは、襲撃の詳細と俺達への感謝を述べる為にやってきた様で、ほっと一安心だ。


 街の代表らしき貴族やカジノの支配人達へ、今回の襲撃の顛末を詳しく説明する我らがリーダーフレア。流石ソルバルドの街のエースパーティのリーダーともなると貴族との折衝など御手のものだ。


 俺がそんな事を考えていると、フレアと貴族の会話が聞こえてくる。


「――ええ、その様にギルドには報告しておきます。皆様の迅速な対応に感謝いたしますわ、ロード・アッシュギネ」


「正直申しますと『余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダー』と言う冒険者パーティは初耳でしたが、Sランクの名は伊達ではないですな。街の被害を最小限に食い止め、たった5人であの巨大な怪物を討伐してくださるとは……。この御恩は決して忘れませぬ」


 アッシュギネと名乗ったダンディーな貴族は、深々と頭を下げた。カジノの支配人も隣で青い顔をしながらも、何度も頭を下げている。どうやら、俺の心配は杞憂に終わったようだ。弁償どころか、英雄として扱われている。


「つきましては、ささやかではございますが、今回の討伐の報奨金と、慰労の意を込めて、現在ご宿泊中のダイヤの部屋を2日程延長させていただきます」


「まあ、よろしいのですか?」


「もちろんですとも! 街の英雄をもてなすのは、領主代行たる私の務め。それにジャックポットルームに滞在中の二組のVIPに何か有ろうものなら……それを思ば安いものです。ささ、今宵はお疲れでしょう。ゆっくりとお休みください」


 アッシュギネ卿の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。疲労困憊の身体には、あまりにも魅力的な提案だった。

 ダイヤの部屋に戻ってきた俺達は、戦闘後の興奮状態もあって、暫くは休憩しつつ、先程の怪物の襲撃を振り返る。


「はぁ〜、生き返るにゃ〜」


 キャトリーヌは一番大きなソファに飛び込んで、幸せそうにゴロゴロしている。

 鬼灯はというと、深夜だと言うのにルームサービスで肉を頼んでいた、ほんとブレないよな。


「しかし、とんだ災難だったね。見たことも無い怪物が現れたかと思ったら、さらに合体をするなんて、聞いたこともなかったよ」


 フレアが部屋に備え付けのバーラウンジから高級そうなワインを取り出しながら言う。俺も隣に腰掛け、グラスを受け取った。


「ああ、お約束の展開ってやつだ。お陰で新しいスキルセットの試撃ちが出来たが……なあ、フレア」


「ん、なんだい?」


「あのガーゴイルの出現、タイミングが良すぎないか?」


 俺の言葉に、フレアはワインを口に運ぶ手を止め、真剣な眼差しを俺に向けた。


「……ヨシダもそう思うかい。アタシも気になっていたんだ。まるで、アタシたちがここに来るのを待っていたかのような……」


「せやな、きっとヨシダはんに色目つこた、あの女ディーラーが裏で糸引いてたんや」


 瑠奈は妖艶な女性ディーラーが余程気に入らなかったのか、すでに犯人だと決め打ちしてかかる。


「そうだね、アタシ達がブラックジャックのテーブルに着いた途端、これ見よがしに交代してたからね、今思えば偶然とは思えなかった」


 瑠奈の言葉を肯定する様に、彼女の行動を語るフレア。そう言われるとあのディーラー、まるで最初から俺達がターゲットで有るかの様に接触してきた。偶々の偶然にしては出来すぎている。


 ……それに俺達の素性を知っていた。


「彼女が何か知っている、あるいは、彼女自身がこの騒動の引き金を引いた可能性が高い。どちらにせよ俺達が狙われていると言うことは……」


「アレだね? 仮面の紳士の仲間、もしくは奴の言ってた、彼の方の手先か……」


「せやな、あないタイミングバッチリやと、ウチら監視されとる可能性も考えられへん?」


「「有り得る……か」」


 一応の状況整理は終わった、二日程滞在期間の延長が決まっているんだ、続きは明日の朝からという事で、俺たちは眠りについた。



 翌朝俺たちは、昨日の襲撃についての聞き込みを開始する。


 昼前まで聞き込みをしていた俺達は一旦ホテルへ戻り、昼食を兼ねた報告会を開く。


「みんな、何か有力な手掛かりは見つかったかい?」


 聞き込みを終えた面々が、ダイヤの部屋のリビングルームで集めた情報の共有をしているが、その成果は芳しく無かった。


「アタシは代官と昨日の話とアタシ達が知ってる情報の共有をしたけど、あのディーラーの事は分からなかったね」


「ウチは衛兵の詰所に行ってきたんやけど、あの女の様な人物の出入りの記録は無かったわ」


「にゃーは鬼灯と一緒に町中で聞き込みしたにゃ」


「うむ、私らもあのディーラーの目撃証言は得られなかった」


「俺は昨日のカジノで聞いてみたが、彼女の目撃情報は無かった」


「あれだけ目立つ雰囲気の女の情報が何一つ得られないとは、信じられないね」


 フレアがヤレヤレといった感じで、目の前の昼食に手をつけようとした時俺は続きを話す。


「ああ、そうだな。だけど何十人ものスタッフ全員が、彼女を見た覚えが無いと口を揃えて言う、かなり異常な状況は確認できたぜ」


 俺の報告に強烈な違和感を感じたフレアが、前のめりで聞き返す。


「ちょっと待ちな、それが事実ならおかしいなんてもんじゃ無いよ?」


「そうにゃ、あれだけのしとがいて、誰も気付かにゃいにゃんて嘘にゃ」


「せや、集団催眠か何らかの魔法を使わな、そうはならへんやろ?」


「ああ、俺も最初はコイツら全員グルか? と思ったが、よく話を聞いてみると、昨日今日でいきなり新人一人にディーラーを任せるなんて事はなく、研修などが有るらしい」


「そうだな、此処にはVIPも沢山訪れる、身元も分からん輩は使わないはず」


「鬼灯の言う通りカジノのスタッフも言ってた、それにガーゴイルを使って街の襲撃をさせるメリットが無いんだよな」


「ふむ、それは一理あるな。そうなるとあの女は何らかの手段を使ってカジノに潜り込み、アタシ達と接触した後は全員の記憶を消して姿をくらませた……と、そうなるか?」


 聞き込み捜査など素人同然の俺達だが、朝からの聞き込みで彼女の異常さだけは確認できた。そして、その足取りは全く分からない事も判明した訳だ。


 ……全員の報告を終えて、全く手掛かりが無いことに意気消沈した皆は、黙々と目の前の食事に手を伸ばす。


「せや、忘れとったは!」


 無言で食事をするなか、突然立ち上がり、叫ぶ瑠奈。皆が一斉に彼女に注目する。


「何だい藪から棒に、食事中だよ、行儀の悪い」


 瑠奈の奇行に、フレアが嗜めるがお構いなしで彼女は話始める。


「そんなんどうでもええやん、それよりあれや、ソルバルドの街を出発する日に、ヨシダはんが見惚れとった黒づくめの貴婦人や」


 そう言えば、そんな事もあったなと思い出す。


「よく覚えてたな、そんな細かいこと」


 そう俺が瑠奈に返すと、なぜかフレアと瑠奈の二人にジト目で見られる。俺なんかやっちゃいました?


「まあええは、それよりウチとも有ろうものが、あの違和感に気づかへんかったやなんて」


「おいおい、一体どうしたんだ?」


 頭を抱える瑠奈の姿に訳が分からず、困惑する俺達。一体何処に違和感があったんだ?


「あの黒づくめの貴婦人、あのくらいの身分の人物が街の商店に一人でいてる、なんて事有らへんのや」


「どう言うことにゃ? しとりでいちゃダメにゃ?」


「せや、あない貴族然とした淑女がお供も連れずに、一人でお買い物やなんて有りえへん、普通なら御用聞の商人が商品持ってご機嫌ようや」


「成程、そう言われて見ればそうだね、だけどそれが今関係あるのかい?」


 フレアの言葉にうなずき、皆の顔を見回し話を続ける瑠奈。


「こっからはウチの想像やねんけど、ウチらは王都への出発のあの日から、何者かに監視されとったんやないかな?」


 ……静寂がリビングルームを支配する。嘘だろ?全く気が付かなかった。そんな前から監視されていた可能性が有るのか?


「ふむ、と言う事は、あのディーラーはそんな前から、用意周到に準備していたと?」


 今日は鬼灯の長文を結構聞いた気がする、が、それはこの際置いておいて、俺達はここ一週間の旅を常に何者かの監視の下に行っていた事になる、ストーカーかよ? まじでヤバイな。


「その事なんやけど、ウチは女ディーラーと黒づくめの貴婦人は、別の人物やと、そう思うんよ」


「なあ、なんか根拠があったりするのか?」


 ただでさえ気味悪い監視者が、実は複数いましたとか笑えないにも程がある。そう考えて根拠を聞くが。


「根拠は無いんやけど、どっちも見てるウチには、同一人物やとは思へんかったんや、まあ所謂女のカン言う奴やな」


 女のカン言いたかっただけちゃうんかい! と、ツッコミたいが瑠奈の言葉には信憑性が幾つかある。


「そう考えると、辻褄が合ってくるな。あの黒づくめの貴婦人がソルバルドの街でアタシ達の情報を集めてたとすれば……」


「そうだ、カジノでブラックジャックの勝負が付いた後、接触してきた時に名前は愚か、所属パーティやSランクである事も口にしてたな」


「せやな、ウチらの事は筒抜けやとおもた方がええやろな」


「つつぬけにゃー、にゃーの女のカンがそう言ってるにゃ」


 何が楽しいのか、嬉しそうにはしゃぐキャトリーヌ。君のはどちらかと言えば野生の感だけどな。


 結局分かったのは、カジノで出会った妖艶なディーラーの姿形だけで、明確な証拠は出てこなかった。

 だけど、聞き込みと状況的に俺達を狙うものは確実に存在するであろう事と、少なくとも二人の監視者がいる可能性は考えられる。


 これから王都へ向けて旅の後半戦に差し掛かるが、俺達を付け狙う新たな存在によって、油断を許さない旅となりそうである……


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