第43話 おっさん、怪獣大決戦
轟音と共に巨影が立ち上がり、俺たちは言葉を失った。それはただの巨大なガーゴイルではなかった。
砕けた十数体のガーゴイルの残骸が、悪意に導かれるように集まり、巨大な姿を形作っていた。
よく見れば、翼や不揃いな手足がそのまま残る異様な造りが、そのおぞましさを際立たせていた。
「雑魚が合体して巨大ボスになるとは、こりゃまたシューティングに良くある演出だな」
俺の呟きに、フレアが鋭く反応する。
「ヨシダ、何か知ってるのかい?」
「ああ、こういうデカブツには大抵、弱点を起点に集まっている。だからそれ以外をいくら攻撃しても再生する。まずは暴れられても厄介だ、フレアと鬼灯は出来るだけ足止めをしてくれ」
「任せろ!、行くよ鬼灯」
「承知!」
俺が矢継ぎ早に指示を出すと、仲間たちは即座に動いた。Sランクパーティとしての練度の高さが窺える。
「キャトリーヌは二人のサポートとヘイトコントロールを頼む」
「オッケーにゃ、それでヨシダっちはなにするにゃ?」
「俺か?俺は奴の弱点を探すのさ」
スペースファンタジーの仕様なら、アレで分かるはずだ。俺のシューティング脳にビビッと来た。
「にゃー、悪い顔してるにゃ、なんか企んでるのにゃ」
「ああ、久々のスペースファンタジーだ、存分に楽しませてもらうぜ」
フレアと鬼灯が左右から巨大なキングガーゴイルに斬りかかる。鬼灯のバスターソードが巨体の脚に叩きつけられ、鈍い音と共に亀裂が入るが、すぐに石の破片が集まり再生してしまう。
「チッ、キリがないね!」
フレアの炎の剣も、分厚い石の装甲の前では決定打にならない。ガーゴイル・ロードは鬱陶しげに腕を振り払う。その一撃は、近くの建物の壁を容易く粉砕した。
「にゃーに任せるにゃ!」
キャトリーヌは破壊された建物の瓦礫を足場に、俊敏に駆け上がり、そのトリッキーな動きで巨大な敵を翻弄する。
「それじゃあ一丁、おっ始めますか」
そう言うと、俺はホーミング弾をキングガーゴイルの全身にくまなく撃ち込む。弾丸は正確に巨体に着弾するが、そのダメージは微々たるものだ。だがこれはダメージを狙った物では無い。
「コンコン、コンコンコン」
俺はキングガーゴイルに撃ち込んだ弾丸の、跳弾する音を聴きながら、軽い連射で弾をばら撒く。
「コンコン、カン!」
「そこか!」
デカブツの弱点見たり枯れ尾花、って、ちょっと違うか。一際高い音と共に跳弾する。其処がダメージポイントか。
「皆んな、こいつの弱点は恐らく頭だ、其処だけ着弾音が違うし、ヒットエフェクトが見えた」
「よし! 目標は奴の頭だ、だが、どうやって……」
奴の巨体を見上げたフレアが呟く。
キングガーゴイルは、その名に違わぬ4mはあろうかと言う巨体だ、それの頭を狙うとなると、鬼灯が巨大なバスターソードを使ってやっと届く高さにあり、直接狙うのは困難だ。
「如何したものか、クレーター落としは今のスキルじゃ無理だし、そもそも街中だからな……此処は定番の部位破壊か?」
俺のシューティング脳が今の状況を瞬時に判断して、最適解を導き出す。
「鬼灯、俺が足を狙って集中攻撃する、ダメージが蓄積して脆くなった所に一撃入れて、ぶった斬ってくれるか?」
「承知した!、いつでもいいぞ!」
鬼灯の答えを合図にして、俺はキングガーゴイルの膝関節辺りに狙いをつけて、連射を続ける。
「ドドドドドドドドドドドドドドドドッ」
唸る様な発射音上げて、奴の膝に吸い込まれていくホーミング弾、一発一発のダメージは微々たる物だが、怒涛の集中攻撃を受けて奴の膝は赤黒く変色していく。そろそろ頃合いか?
「鬼灯、今だっ、デカいの一発ぶち込んでくれ!」
「了、はああー、砕け散れっ!」
鬼灯の巨大なバスターソードが、俺の連続攻撃で熱せられて赤黒く変色した膝関節に炸裂する。
「バッキィーンンンンッ!」
連射でダメージが蓄積されたところへ、鬼灯渾身のバスターソードが叩きつけられ、その巨木を思わせる太い足が斬り飛ばされる。
「ズ、ズゥ〜〜ン…………」
片足が不意に無くなり、バランスを大きく崩したキングガーゴイルは、砂塵を盛大に舞上げ、その巨体を大地に横たわらせる。
だがキングガーゴイルの再生能力は健在で、斬り飛ばされた足や破片がすぐさま切り口へと集まり始める。
「皆んな油断は禁物だよ、もう再生が始まってる、頭に一斉攻撃するよ!」
地面でのたうつキングガーゴイルの再生能力を目の当たりにしたフレアが、的確に指示を飛ばす。
「はあぁ! くたばっちまいなっ」
「ふん! 大人しく堕ちろ」
フレアは剣に最大級の炎を宿らせ、鬼灯は冷気を迸らせバスターソードを大きく振りかぶる。二人の一撃が、同時にキングガーゴイルの頭部を狙う。
「「うおおおおおっ!」」
二人の渾身の一撃が、倒れた巨体の頭部に凄まじいダメージを叩き込む。他の部位とは明らかにダメージの入り方が違う、しかも頭部の再生は行われなかったのだ。
「頭が再生され無いと言うことは、恐らくそこを核にして、無数の破片が寄り集まったゴーレムの様な物なのだろう、今がチャンスだ、一気に叩くぞ」
「「「「おおー!」」」」
「パーティで勝ち取ったこのチャンス、不意になんて、してらんないからね、キャトリーヌ、レベル2連携行けるね?」
「分かったにゃー」
「鬼灯、トス役、任せたよ?」
「うむ、任された」
前衛3人がすぐさま、連携の体制に入る。
「いくにゃ、レベル2連携陣、発動にゃ!」
キャトリーヌの言葉と共に、スクロールがガーゴイルロードの頭に投げられる。
すぐさま頭部を囲む円形の魔法陣と、それの外周に二つの小さな丸い魔法陣が、フレアと鬼灯の足元に現れる。
鬼灯の足元の魔法陣が強く光を放ち、間髪入れずにスキルを叩き込む。
「ふん! 『凍魄・霜夜斬』」
最高のタイミングで、最高の攻撃を繰り出す鬼灯、ガーゴイルロードの頭部が、ダメージの蓄積により赤みを帯びていく。
続くフレアの足元が光輝く! 瞬間、裂帛の気合いと共に必殺技を繰り出す。
「はあぁ! 必殺!『烈火剣』」
鬼灯とは逆属性のフレアの烈火剣で、ガーゴイルロードの頭部は、真っ赤に染まる。
「効いてる、効いてる」
だが、瑠奈を抜いたレベル2連携ではダメージが足らず、トドメを刺すには至らなかった。
キングガーゴイルはその巨体を再び立ち上がらせようとしている。俺と鬼灯の連携で斬り飛ばされた足は、今の僅かな時間で再生されつつ有る。
ゆっくりと立ちあがろうとろうとする巨大な敵、周りには満身創痍で尚、闘志を燃やし武器を構える仲間たち。
その光景を見回した俺は、左手のモスキートスティックR5を腰のベルト通しに引っ掛けると、おもむろにアケコン操作で構えを取る。
「やっぱり、本気の連射はこのスタイルじゃなくちゃな」
不敵に笑い、ターゲットマークを操作してガーゴイルロードの頭部に合わせる。
「いくぜ! 必殺、ラピッドファイヤー・エクストリーム!!」
自慢の必殺技を高らかに叫び、本気の連射で赤く染まる奴の頭部に数え切れない弾丸を叩き込む!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
16連射x2フィンガー、秒間32連射の必殺技がガーゴイルロードの頭部を蹂躙する。
未だ立ち上がれずにいる奴は、レーザーの如く一条の光の筋となった超連射になす術なく喰らい続ける。
赤く染まったその頭は、見る見るうちに黒く変色し、その蓄積したダメージが頂点まで達した時、盛大な爆裂音と共に、ただの石飛礫となり派手に吹っ飛ぶ。
「ドッカ〜〜〜〜ン!!」
頭部を失い制御不能となった巨大なスタチューは、ボロボロと崩れ去り瓦礫の山と化したのだった。
「……はぁ、はぁ……やった、か」
俺たちは、その場にへたり込む。街は静けさを取り戻し、隠れていた人々が恐る恐る顔を出し始め、やがて俺たちを称える歓声へと変わっていった。
「やったな、ヨシダ!」
「せやな、大手柄や!」
仲間たちが駆け寄ってくる。俺も安堵の笑みを浮かべたが、先ほどの戦闘跡に目をやって、その笑顔が引きつった。
「あ……」
キングガーゴイルとの戦闘で大立ち回りを披露した結果、とあるカジノの派手なネオンサインや、いくつかの建物の壁が粉砕されていた。
「……ちょっと、やり過ぎたか?」
俺のテヘペロに仲間たちの笑顔が溢れる。
「まあ、良いんじゃないかい? アタシ達は街の危機を救った英雄だし?」
「にゃー達はえーゆーにゃ、大丈夫にゃ」
「うむ、スイートルームで寝直す」
「それにしても、この騒ぎ、あのカジノディーラーの差し金ちゃうやろな?」
真夜中の戦闘は終わり、勝利の歓声の中、カジノの支配人らしき人物と、街の衛兵たちが、明らかに俺たちのいる方向、そしてその先にある破壊の跡を見ながら、慌ただしくこちらへ向かってくるのが見えた。
俺たちのSランクとしての初任務は、どうやら後始末までが一つのセットになりそうだった。




