第42話 おっさん、石の翼と真夜中の戦闘
金髪を風に靡かせ、妖艶な微笑みを湛えて、街の外壁の上に立つ、一人の女。
「ヨシダさん、早く出て来ないかしら。折角このルスタフィナが誘ってあげたのに断るなんて、意地悪なんだから」
燃え盛る街を見ながら一人呟く。
彼女が呟いてる間も、石の魔物達は容赦なく街を攻撃している。
「ルスタフィナ、あくまでも味見だ。引き際を間違えるなよ?」
ルスタフィナと呼ばれた女の隣に突如現れた、黒づくめの貴婦人然とした女。街への襲撃を味見と称し、ルスタフィナと言う女に釘を刺す。
「あら、プライデッツァさん、件のヨシダさん、貴女の言ってた通り魔力も感じ無いし、見た目にも強そうではないわ。ここで終わらせてしまっても良いんじゃ無いの?」
「……彼の方に逆らうのか? 私達は監視をしろと命じられている。これは絶対だ。戦闘力なら我らを軽く凌ぐジェットでさえ、手傷を負ってあのザマだ。急ぐ必要は無い、言われた事だけをやれ」
「わ、分かったわよ、分かったからそう怖い顔をしないでよ」
怪しくも美しい女が二人、街壁の上で不穏なやり取りをしている頃、ヨシダ達は豪華絢爛なスイートルームから一転、パーティは戦闘準備を整えリビングに再集合した。
フレアの「出撃!」の号令一下、俺たちは部屋から出ると魔道エレベーターに向かってる全力で走る。
そこに、同じフロアの宿泊客か、歳の頃は15-16、ピンクブロンドが美しい何処かの貴族の子女らしき人物が、侍女を数名連れて飛び出して来た。
全力で急いでいた俺は、危うくぶつかりそうになる。
「うおっとっと」
すんでの所で回避し激突は免れる。
「おい、あんた達、下は魔物の襲撃で大事だ、外に出るよりは高層階の此処の方が安全だと思うから、部屋で大人しく隠れてろ」
俺は急いでた事もあって、相手も碌に確認せずに命令する。するとお付きの侍女たちが目を三角に吊り上げて俺に、猛抗議してくる。
「ちょっと貴方、このお方が何方か知っての無礼かしら?」
侍女の一人にそう凄まれるが、こっちも急いでる。
「何処の誰だか知らないけど、死にたくなければ大人しく言うこと聞いとけ」
何処ぞの貴族の坊ちゃん嬢ちゃんの相手してる暇はなく、ついイラッとしてやってしまった、反省も後悔もしてない。
「おい、ヨシダ、何してるエレベーター来るぞ?」
フレアが呼ぶ声が聞こえる。
「分かってる、今行く」
俺の剣幕に「ひっ」と小さく悲鳴を上げる彼女達を尻目に、走り去ろうとすると、ピンクブロンドのお嬢様が、侍女の前に出て俺に問いかける。
「貴方がたは下へ降りてどうなさるおつもりですの?」
「そりゃ、魔物退治をしに行くに決まってるだろ? こう見えて俺達はSランク冒険者パーティの余燼の光の騎士団だ、安心して任せとけ」
俺は、ドヤ顔でそう答えると、仲間の元へと走り去る。
「ヨシダ、置いてくぞ」
「悪い悪い、何処ぞのお嬢様とぶつかりそうになって、つい、いつもの口調でツッコミ入れたら、お付きの侍女達から総攻撃喰らいそうになってな、ハハハ」
そう言いながら、笑って誤魔化す。
「全く、そんなんほっといて来たらよかったんや」
「だから、悪かったって。ほらエレベーター来たぞ」
そうこうしてると魔道エレベーター到着したので、一気に地上へと向かう。
「Sランク冒険者パーティ、余燼の光の騎士団のヨシダ様……覚えましたわ」
地上一階、エレベーターの扉が開くと、昼間の喧騒と華やかさは見る影もなく、人々の悲鳴と轟音が響き渡る戦場へと変貌していた。
「ひどい……なんてことを」
瑠奈が言葉を失う。街のあちこちで火の手が上がり、石造りのガーゴイルたちが建物を破壊し、逃げ惑う人々に襲いかかっていた。
「Sランクパーティ『余燼の光の騎士団』、これより街の防衛戦を、開始する。各自、民間人の安全を最優先しつつ、怪物を迎撃せよ!」
フレアの鋭い声が響き、俺たちは一斉に駆け出した。
「うむ、肉の恨み、晴らす!」
鬼灯が巨大なバスターソードを振りかぶり、一体のガーゴイルを粉々に砕く。
「にゃーの安眠を妨害した罪は、"死刑"なのにゃ」
キャトリーヌは猫のような身軽さで壁を駆け上がり、短剣でガーゴイルの翼の付け根を的確に切り裂いていく。
「これ以上、好きにはさせへん!」
瑠奈は祝詞を唱え、負傷した者たちに治癒の光をかける。フレアはリーダーとして前線に立ち、炎をまとった剣で次々と敵を切り伏せていった。
(さて、俺の番だな!)
先ずはついでに買った、片手コントローラーのモスキートスティックR5を召喚するが、召喚されたそれを見た俺は、重大な欠点がある事に気がつく。
「オイオイ、安いとは思ったけどR5の名前通り、右手仕様かよ」
大多数のコントローラーは左手で十字キー、右手でトリガーボタンの仕様だが、このR5はそれが逆になる。コンパクトな片手コントローラーなので、無理やり左手で持つことも可能だが、若干の違和感は否めない。
「まあ、せっかく買ったんだ、少し違和感有るけど使ってみるか」
俺はそう結論づけ、今度は新しいスキルセットを発動させる為に集中する。
……スペースファンタジー、ステージ1。何処までも続く緑の大地、迫り来る巨大な敵の数々……集中力が高まるにつれ、疾走感溢れるBGMが脳内で再生される。
バルムンクのような派手なエフェクトはないが、俺の周囲の空間がわずかに揺らめき、見えない力が収束するのを感じる。
「welcome to the space fantasy」
新たなスキルを獲得した俺を、少しノイズ混じりの合成音声が歓迎してくれる。
「Get ready!」
すかさず俺は、力の入ったボイスで叫ぶっ!
いつものアケコン操作は封印し、左手に持ったモスキートスティックR5で空中を滑空する、ガーゴイルの編隊に狙いを定める。
「ガーゴイルの滑らかな拡大縮小回転、あれはハードウェアで処理してるな」
いつにも増して、絶好調のシューティングフィルターが、意味不明な独り言を吐き出させる。
新しいスキルにノリノリで呟き、新しいガジェットで無数の弾丸をばら撒く。発射された弾丸はガーゴイルの編隊に吸い寄せられる様な軌道を描き、次々と硬い石の体を木っ端みじんに打ち砕く。
どう言った力が働いているかは分からないが、ちゃんとゲームの仕様に則った挙動が再現される。
「威力は申し分ない、それに弾丸がホーミングするから、モスキートスティックR5のラフな狙いで当たるのはメリットデカいな」
左手の親指でエイム、人差し指と中指でグリップ部のトリガー操作ができ。これで連射速度はおちるが自由に動きながらの攻撃が可能となった。
素早い移動で攻撃を避け、移動しながらの攻撃で一体、また一体と、ガーゴイルを地面に落としていく。
試しにワザと狙いを外して壊れた外壁に打ち込んだが、弾丸は跳弾して空の彼方に消え去った。
「よっしゃ! これなら街中で移動しながら攻撃しても被害を最小にして戦える!」
俺が安堵の息を漏らしたその時、街の外壁の上で、二人の人影がこちらを見下ろしていた。
「あら、あれがヨシダさんの魔法なのかしら? ジェットの報告とは随分と違って見えるのだけれど? でも、全く魔力を感じないのに、あの威力と球数はかなり厄介な感じね」
金髪の妖艶なディーラー、ルスタフィナが面白そうに目を細める。その隣には、黒づくめの貴婦人、プライデッツァが静かに佇んでいた。
「ああ、しかも移動しながら百発百中のあの精度、街中での戦闘を想定しているな。やはり、ただの偶然でジェットを追い詰めた訳ではなさそうだ」
「ここで仕留めてしまった方が良いんじゃない?」とルスタフィナが言うと、プライデッツァは冷たく首を横に振った。
「味見はここまでだ、ルスタフィナ。あの方の命令は『監視』。深入りはするなとジェットの件で学んだはずだ」
「もう、分かったわよ。じゃあねヨシダさん、私のサプライズ楽しんでいってね」
ルスタフィナはヨシダに向けて投げキッスを飛ばすと、プライデッツァの後を追う様に闇に溶けて消えた……
彼女たちの存在に気づかないまま、俺たちは目の前の脅威に集中していた。仲間たちとの連携は完璧で、Sランクパーティとしての実力を遺憾なく発揮する。
俺の機動射撃と仲間たちの圧倒的な戦闘力で、十数体いたガーゴイルは見る見るうちに数を減らしていった。
「よし、制圧完了だ!」
フレアが勝利を宣言したその時、石塊となったガーゴイルの破片が、見る見るうちに一つに集まっていく。ひときわ大きな地響きと共に巨大な影が立ち上るのが見えた。
「なんだ……あれは……」
それは、今まで相手にしてきたガーゴイルたちを遥かに凌ぐ大きさの、巨大なキングガーゴイルだった。その咆哮が、街全体を震わせる。
「せっかくのスイートルームでの一夜を台無しにしてくれた落とし前、きっちりつけさせてもらうで!」
瑠奈が睨みつける。俺たち『余燼の光の騎士団』の、Sランクとしての初任務は、まだ始まったばかりだった。




