第37話 おっさん、カジノデビュー
俺達は『グラブザカード』の街で一番のカジノ&リゾート『フォーチュン・クエスト』へとやってきた。
中に入ると、そこはまさに絢爛豪華な別世界だった。魔道具のシャンデリアが煌めき、赤い絨毯がどこまでも続く。カードゲームのテーブルでは静かな熱気が渦巻き、スロットマシンのような魔道具からはけたたましいファンファーレが鳴り響いている。
「さて、どのゲームで勝負する? アタシは腕っぷしには自信があるが、カードはからっきしでね」
「うむ。肉を賭けるなら、誰にも負けん」
「ウチは見てるだけでええわ……」
「じゃあ、鬼灯はにゃーとスロット逝くにゃ、一攫千金にゃ」
オイオイ、逝くのかよ。大丈夫なのか? スロットとか一番運頼みの奴じゃね?
「それじゃあこれだけ渡しとくけど、アンタ達……全部スったら、暫くご飯は肉無しだからね?」
フレアの肉無しの脅しに、青い顔して高速で首を縦に振る二人。まあ、ビギナーズラックを期待して待ちますか。
キャトリーヌ&鬼灯組と別れた俺達は、一番ルールが分かりやすい事と、配当が"ウィナー・テイク・オール"即ち、プレイヤーの掛け金を勝者が総取り、更にブラックジャックで即決1.5倍の元の世界とは違うルールが決め手で。俺たちはブラックジャック(にそっくりなゲーム)のテーブルに着くことになった。
俺たちがテーブルに着くと、ちょうどディーラーの交代時間だったらしい。前の無骨な男性ディーラーが下がると、代わって現れたのは──金髪の美女。妖艶な微笑み、スラリと伸びた足、完璧なスタイルで非の打ち所がない。
「いだだだ」
間髪入れずに瑠奈に脇腹をつねられ、思わず声を上げてしまう。今から鼻の下を伸ばす所なんですがね? そんな様子を女性ディーラーはクスクスと笑いながら見ている。
恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じながら、先ずは様子見だと俺はパーティ資金の中から銀貨数枚をチップに替え、最低額をベットして数ゲームほど流れを観察する。
(2、5、3、4……ふむ、+1、+1、+1、+1……トータル+4か。ディーラーの交代時にリシャッフルされているから、トゥルーだと誤差程度……まあ、元の世界のカジノでやったら速攻出禁だがな)
俺はSTGマニアだが、勿論話題のゲームもちゃんとプレイしていて、押さえるべき所は的確に押さえてある。勿論このブラックジャックも有名格闘ゲーム"Heaven or Hell"のスピンオフ、通称エロバレーのカジノで鍛えたこの腕が、火を吹くぜ!
(……おお、結構良い感じの配札が続く)
ディーラーと一瞬視線が合う、俺にウィンクをすると何事も無かったようにゲームを続ける。
「いだだだ」
今度は逆の脇腹に激痛が走る。今度はフレアに思いっきりつねられ、またもや美人ディーラーに笑われる。俺が悪いのか?
「……ウチのヨシダに色目使うとはあのディーラー許せないね」
フレアの目に、嫉妬の炎が燃え上がる。
「いや、目的変わってるから。先ずは此処で勝たなきゃだろ?」
「フレアよう言うた、ウチもあのディーラーは許されへんわ」
駄目だこりゃ、俺が頑張らなきゃ……
気を取り直しゲームを続行するが、やけに俺の所には良い札が集まる。勿論他の客の動向でバーストする事も有るが、割と安定して勝ててる。此処は一気に捲るため防御型のグッドマン法(勝ったらベットを少しづつ増やし、負けたら元に戻す)から超攻撃型のパーレー法(勝ったら掛け金を2倍に増やす)に変更する。
「どうだ、ヨシダ? アンタに何か策はあるのかい?」
「ああ。ブラックジャックってのは確率勝負だ、俺の世界ではその計算を元に必勝法が確立されている。配札運も良いし、一気に勝負に出ようと思う」
(更にカウンティングも並行してやってるしな)
俺は不敵に笑う。まさに、STGでボスの攻撃パターンを完全に見切り、一方的に撃ち込む、あの感覚だ。
「ただし、やるならデカくいくぜ。中途半端に勝ってディーラー変更とかで運が途切れてしまうと意味がない。有り金全部、次の一回の勝負に賭ける」
「……面白い。アンタを信じるよ」
フレアは俺の目を見て、力強く頷いた。
俺は一度席を立ち、残りの有り金全てをチップに替える。その額、金貨30枚。俺達のパーティ資金のほぼ全財産だ。
チップの山をテーブルに積み上げると、周りのライバル達も浮き足立つ。
「さて、皆々様、次のウェーブへと行こうじゃないか」
俺は、ポーカーフェイス(ブラックジャックだけど)で視線を巡らせライバル達を煽ってやる。
それが終わると、アーケードの筐体に座る様に精神を集中し、静かにカードが配られるのを待った。この勝負、負ける気はしなかった。
金貨30枚。俺たちの全財産が、テーブルの中央に小山のように積まれている。それに触発されたのか他の三人のライバル達のベットしたチップも渦高く積まれる。周囲のギャラリーは息を呑み、周りのライバル達が、射るような視線を俺に向けてくる。
だが、知ったことか。STGで言えば、雑魚を集めてBOMで一層のパターンだ、俺に釣られてベット額を増やしたのが運の尽きだな。
「では、カードを配ります」
ギャラリーが固唾を飲んで見守る一種異様な空間に、ディーラーの声が、静かに響く。ライバル共は俺をただの金持ちのカモだと思っていたのだろう。だが、こっちには地球で得たブラックジャック必勝法が有る、カンじゃ勝てない事を身をもって教えてやるよ。
ディーラーはプレイヤーを見回した後、流麗な動作でカードを配り始める。俺の手札は『A』と『A』、ブラックジャックでは、非常に悩ましいと言うか、最悪の手札だ。
「1と1、もしくは1と11か、無難にヒットするか、スプリットに掛けるか……どちらにせよブラックジャックは無くなった訳だが」
後ろのフレアと瑠奈が固唾を飲んで見守る中、ディーラーが表向きにしたカードは『10』、伏せたカードが『A』なら俺達は問答無用で文無しだ。
現在10ゲーム目、恐らく6デッキ分は有ったシューもリシャッフルまで後僅か、カウントは+12、手札は『A』のスプリット……此処が勝負どころだ!
俺が手札を前に思考を巡らせていると、右隣の貴族風の若者から「ヒット」と声が上がる。声に釣られてカードを見ると『7』、『4』に加えて『8』の合計『19』、俺と目が合った貴族風の若者はドヤ顔で俺を見やる。
オイオイ、いきなり『19』とかハードルぶち上げてくるじゃ無いか、これでいよいよ悩ましくなってきた。現状、俺は合計『12』普通にヒットするなら悪くは無い数字だ、だがスプリットにして二つに分ければチャンスは2倍だけど……
「なんや、悩んでる様やけどその『A』2枚はあかんのん?」
「いや、スプリット出来れば最強の手札だ」
「だったらそのスプリットやらで、行けば良いじゃ無いか。何が問題なんだ?」
「ああ、スプリットすれば同じ数字の手札を二つに分けて、1回のゲームで2回勝負ができる。更に手札が『A』なら倍率ドン!だ、しかし掛け金が追加で必要になる」
「「追加の掛け金?」」
フレアと瑠奈が綺麗にハモる。ギャンブルに馴染みがなければ、最初にベットしてハイおしまい、と思うのも無理ないか。
「そんで、幾らいるん? まさかとは思うんやけど……」
「ああ、そのまさかだ、追加で金貨30枚、必要だ」
テーブルに渦高く積まれたチップの山、勝てば総取り負ければ文無し、括る腹には金貨無し……さて、どうしたものか。




