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第36話 おっさん、宿とカジノと金貨100枚

 ソルバルドを出てしばらく走ると、馬車はトーマスさんを助けた時に俺が作った街道のクレーターを迂回し、暫く走る。

 すると、俺がこの世界に初めて降り立った草原が見え始める。相変わらずスライム達がピョンピョン跳ねる平和な景色が広がる。


「なんか、凄く懐かしい気がするな」


 つい一週間ほど前の事なのに、何故か凄く懐かしく感じて、つい独り言が漏れる。


「なんだ? ヨシダは此処を知っているのか?」


 フレアが意外そうに、そう質問する。


「ああ、この草原が俺のこの世界での始まりの場所だ。俺が元の世界で死んで、偶然女神様に転生させて貰って降り立った場所が、この草原だったと言う訳さ」


「なんや、凄い重い話やのにヨシダはんが言うと、近所に散歩に行って来るは、くらいにしか聞こえへんわ」


「え? 俺の発言そんなに軽い感じする?」


「はは、それもあるけどアンタの場合、あんな規格外の凄い力をホイホイ使って、俺なんかやっちゃいました? みたいな顔してるからな、アンタにとっちゃ取るに足らない事、って感じに見えるんだよ」


 うーん、褒められてる? よく分からんがそう言うことにしとこう。


 そんな平和で、たわいも無い話をしながら、馬車は凸凹とした街道を王都へ向かい走り続けるのだった……




********




 ……ソルバルドを出て4,5日程は野宿をしたり、小さな村で宿を借りたりしながら、日がな一日馬車に揺られる、そんな長閑な旅もそろそろ飽きた頃に、大きめの街が見えた。


「ようこそ、幸運と札喰いの街、グラブザカードへ。こちらで身分証の提示をお願いしています」


 街門には衛兵が立ち、出入りの管理をしている。俺達の乗る馬車はSランク冒険者に見合う、華美ではないが質実剛健で、結構高価なもので、それを見た衛兵達の態度も露骨に違う。

 フレアがドアを開き寄ってきた衛兵に対応する。


「ご苦労様、Sランクパーティの余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーのリーダー、フレアとその一行だ」


 まだSランクパーティと名乗るのが面映いのか、フレアは少し頬を赤くして、衛兵達とやり取りをしている。

 俺達も新しく発行された冒険者証を提示して、身分の確認を済ませる。Sランクの冒険者パーティなど普段は殆どお目にかかれないのか、衛兵達の対応も何処か浮き足だった様子が、見ていて面白かった。


 だ〜が、しかし、だが、しかし。浮き足立ちっぷりならば俺達も負けてはいない。

 この、一見ソルバルドの半分程度の大きさの街、グラブザカード。王都への街道沿いの街の中でも最も人気が有り、その名前が表すとおりカードゲームの発祥の地。しかしてその実態は、一大カジノアミューズメントなのだ!


 街の入り口にはVIP専用口も有り、何処ぞのお貴族様や大店の商人達の出入りがひっきりなしの盛況っぷり、これはワクワクが止まらないぜ。


 身分証の確認も無事済んでグラブザカードの街へ入る。カジノ街らしく立派な建物が数多く建ち並ぶ。昼間だと言うのにネオンの看板のような魔道具がそこかしこに設置されており、ド派手な雰囲気を演出している。


「すげーな、俺の元の世界と比べても遜色ない派手さだな」


 俺の元の世界は電気の力で色々ものが有ったが、この世界では魔法の力を利用して更に上を行く物が存在したりする。例えば飛び出すネオン看板とかがそうで、所謂ホログラム的な表現がされている。


「ああ……アタシ達も初めて寄ったが、中に入るととんでも無く、ド派手だな」


「にゃーも早くカジノしたいにゃ」


「ウチは、賭け事はそない興味あれへんけど、それを抜いても別世界やな」


「うむ、宿も高級、どんな肉と出会えるか楽しみだ」


 Sランク冒険者と入り口でドヤってた俺達も、街の中に入るとその豪華さに、完全におのぼりさん状態だ。


「なあ、こう言う所の宿って予約とか必要無いのか? 此処に来て街の隅っこで野宿とか、流石にそれは無いからな?」


「……知らん、アタシも初めて寄ったからな。幸いまだ日は高い、リーダークエスト発動だ! 手分けして今夜の宿を確保するよ、この間の大規模作戦で宿代は心配無い。ではミッション開始!」


「「「おー!」」」


「はあ……そない簡単に見つかるんかな? 街の隅っこやのうて、街壁の外やとかシャレにならんで」


 フレアの号令一下、俺たちはひとまず解散し、このド派手な街で宿を探すという、なんとも地味なクエストを開始した。

 Sランクパーティになったのだ、どうせなら一番豪華な宿に泊まってやろうじゃないか。俺たちは内心でそう示し合わせ、街でひときわ目立つ、巨大な竜の彫刻がエントランスを飾る最高級ホテルへと向かった。


「ごきげんよう。Sランク冒険者パーティ『余燼の光の騎士団』一行だが、今夜泊まれる部屋は空いているかね?」


 フレアが胸を張り、これ以上ないほどのドヤ顔で受付のコンシェルジュに尋ねる。Sランクという言葉に、コンシェルジュの顔が一瞬引き締まったが、すぐに申し訳なさそうな表情に変わった。


「これはこれは、高名な『余燼の光の騎士団』の皆様。誠に申し訳ございません。あいにく、今夜は全ての部屋が予約で埋まっておりまして……」


「なんっ……だと!?」


 フレアのドヤ顔が、まるでフリーズしたかのように固まる。


「そ、そんなはずは……アタシたちはSランクだぞ? VIP用の部屋くらい一つや二つ……」


「大変申し訳ございません。当ホテルは三ヶ月前から予約で満室となっておりまして……」


 あっさりと、しかし丁寧に断られ、俺たちはすごすごとホテルを後にした。その後も二軒、三軒と高級そうな宿を回ったが、答えはどこも同じ。「予約で満室です」の一点張り。


「ど、どうなってんだい、この街は……!」


 大通りの中央で、フレアが頭を抱えてしゃがみ込む。その姿は、ギルド最強のSランクパーティリーダーの威厳など微塵も感じられなかった。


「せやからゆうたのに……こんな人気の街、ふらっと来て泊まれるわけおまへん」


「お腹すいたにゃー……お肉ー……」


「うむ。肉が食えれば、野宿でも良い」


 瑠奈は呆れ、キャトリーヌと鬼灯は既に宿探しを諦めている。ダメだこのパーティ、早くもクエスト失敗の気配が濃厚だ。


「こうなったら仕方ない。今夜はカジノで夜を明かして、明日の朝一番でこの街を出るしか……」


 フレアが苦肉の策を口にした、その時だった。


「にゃにゃ! それなら、カジノで勝って、すごーいお部屋をゲットすればいいにゃ!」


 キャトリーヌが、何かを閃いたように叫んだ。


「どういうことだ?」


「あそこの一番大きなカジノ『フォーチュン・クエスト』には、一晩で金貨100枚以上勝った人だけが泊まれる、伝説のジャックポットルームがあるって話してるしとがいたにゃ!」


 キャトリーヌが指差す先には、天を突くようにそびえ立つ、巨大な塔を模したカジノがあった。その最上階が、淡い黄金色の光を放っている。あれが噂のジャックポットルームか。


「金貨100枚……!?」


「面白そうじゃないか。やってやろうぜ、リーダー」


 俺がニヤリと笑って焚きつけると、フレアの瞳に再び闘志の火が宿った。


「……よし、決まりだ! 今夜の宿は、あの『フォーチュン・クエスト』の最上階! リーダークエスト、目標変更だ! 全員、アタシに続け!」


 こうして俺たちは、半ばヤケクソ気味に、街で最も大きく、そして最も勝ちにくいと評判のカジノへと足を踏み入れることになったのだ。


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