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第30話 おっさん、おっさんの名にかけて!

「どうした、ヨシダ! 藪から棒に大声を出して」


 俺の突然の叫びに、ギルドマスターが怪訝な顔で此方を見る。フレア達も、何事かと俺の一挙手一投足に注目している。


「今回の黒幕と思しき仮面の紳士は、俺との戦いの最中こう言ったんだ」


『私達は深い山の奥で、外との交流もなく平和に暮らしていたのです。そこにある日突然現れたのが冒険者(アナタ)達人間だったのです。事件は男たちが出払っていた時に起こりました。人間どもは我々の住処を襲い、子供たちを拐い女達は殺され蹂躙された……その時、冒険者達を率いて居たのが他でも無い、『鉄塊のハルク』この街の冒険者ギルドのギルドマスターです』


 ダンジョン最奥で遭遇した仮面の紳士、俺との戦いの時奴はこう言った。だが、ギルマスのおっさんも又真実を述べている様にしか感じなかった。


「…………」


 俺が仮面の紳士が告げた衝撃の事実をそのまま伝えると、腕組みをしたまま渋い顔をするギルマス。


「アンタを疑う様な真似をしたのは謝る、しかし、いきなりお前が犯人だ!とも言えず、周りくどい聴き方になってしまった」


「そうか……で、ワシの容疑は晴れたかの?」


「確証はない。だが、何方の話も嘘をついている様には聴こえなかった。多分何方も真実なのだろう……」


 ギルマスに俺の正直な考えを話す。恐らくは仮面の紳士の正体は人ならざる物だろう。ギルマスはその同胞達と住処を襲った張本人なのは間違いないはずだ。だが、人と同等以上の知性を持ち、かつ人に似た姿形であれ程の力を持つ者…………そんな存在がいるだろうか?


 例え仮面の紳士の言う彼の方とやらが力を与えたとして、あれ程になるだろうか? ダンジョンで遭遇した亜竜、もしもあの魔物に仮面の紳士の様な力を与えても、あれ程の魔力を行使する、高度な知能は持ち得ないのではなかろうか?


 奴は恐らく、元々高い知能を持っていたはずだ、でなければそもそも仲間達の記憶自体が存在しないだろう……


 高度な知能を持ち、複雑な魔法式を操り、身体能力も高く、地獄の様な業火にも耐性が有る……そんな存在……有るのか?

 一瞬そう思うが、『ロングストーン戦記』や『雨の大陸』などの古典ラノベも履修済みの俺の脳裏には、有る一つの可能性が浮かんでいた。


「確かにあの魔物なら有り得る。が、奴は人型だそんな荒唐無稽な事が有るのか?」


 皆がじっと俺を見つめている。暫く思考の海に沈み、突然の独り言。しかも意味不明なだ、みんなも怪訝に思うのも当たり前か?


「なあ、ヨシダ。アンタ奴に心当たりがあるのか? 何だか知ってそうな独り言だったが?」


 うっ、声に出てたか。ヒキニート時代は良く独り言を呟きながらSTGしてたからな。ヤバイな変な奴だと思われたかも知れない。

 まあ、それはそれとして。このまま話しても、俺の心当たりの根拠が乏しいままでは、到底受け入れては貰えないかもだな。しょうがない……


「うーん、その前に奴との戦闘中に、奴が俺のことを何て言っていたか聞こえたか?」


「あ、女神のしとって言ってたにゃー、にゃーのキャトリーヌイヤーは1キロ先のオヤツを食べる音も聞こえるにゃ」


 一キロ先の音が聞こえるのは凄いが、食いしん坊なだけでは?じゃなくて、やっぱり聞こえてたか。


「じゃあ、そっちから話そうか……」


 そう始めると皆んなの顔が引き締まる。ただ瑠奈だけは……何だろう悲痛な面持ちにも見える。


「仮面の紳士が言う通り、実は俺はこの世界の人間では無い、女神様の気まぐれでこの世界に転生させられた、異世界人だ」


「にゃ、ニャンだってー、ヨシダっちスッゲーにゃ、カッコいいにゃ、でも異世界人ってなんにゃ?」


 おい!全員ズッコケてるだろが、俺のシリアス返せ、全く。


「まあ、アレだ、天界に在わす、この世界の美しき管理者で在らせられる女神様の、パシリだ」


「「「「「じー」」」」」


 いや、全員ジト目でみんでも良いやろ?


「わかったわかった、正直に話すよ……俺は別の世界で病に倒れ、その天寿を半ばに死んでしまったんだ、それを哀れに思った女神様の計らいで、この地に新たな生を受け、その代わりに女神様の手伝いをする事となったんだ。それが奴の言う女神の使徒という事だ」


 嘘は言ってないよね? 本当でも無いかもだけど。そう思いながら、皆を見回す。

 ギルマスはいつものゴリラ面だ、フレアは目を見開き固まっている、鬼灯はリアクション薄いなー、キャトリーヌは……わかって無いな絶対。そして瑠奈さん、何で目に涙一杯溜めてるんですかね、話はこれからなんですけど?


「まあ、そんな訳で俺がこの世界にやって来た顛末はそんな所だ」


「……にわかには信じられん、女神様の使いか。だが、キサマのあの桁外れの魔法、聞いた事も無い多彩なスキル、そしてその出立、全てがこの世界を逸脱しとる……か」


 このゴリラ、伊達にギルマスやって無いな、俺のスキルや魔法体系が、この世界とは全くの別物だという事を良く分かってるようだ。


「まあ、そんな訳で俺はこの世界とは別の世界からやって来た訳だ、そして、俺には元の世界の記憶と知識が有る。それはこの世界でも恐らく役に立つ物だと思う。最も逆に言えば、今の俺にはそれしか無いんだけどな」


「成程、キサマのワシへの質問の仕方、理路整然としてるが、核心の部分はぼかしつつ情報を上手く引き出す手腕」


 ギルマスは合点が行ったとばかりに膝を打つ。


「それだけじゃ無いよ、大規模作戦での作戦認知度に加え、逆に提案までしてくる発想力。ただ者では無いと思っていたが、高い知性と豊富な知識の賜物だった訳だね、通りでぽっと出の新人冒険者には無い雰囲気を持ってるはずだよ」


 俺はフレアとギルマスに賞賛されまくりで、尻がこそばゆくなる。


「いや、そこまで大した事は無いが、そう言った経緯で、俺が前世で書物から得た知識の中に該当する魔物が幾つかいたと思い当たったんだ」


「にゃ? でもヨシダっちのいた所は、にゃー達と同じモンスターがいた世界にゃ?」


 おい、俺の話をちゃんと理解してたのかよ。伊達にAランクじゃ無いな、正直アホの子かと思ってたが、すまんかった。なんて内心はおくびにも出さずにキャトリーヌの疑問に答える。


「いや、俺の元いた世界にモンスターは居なかった。ただ戦争は有って、この世界の比じゃないヤバさだった、例えるなら魔導具一つで国一つが消えてしまう程のヤバさだ、幸い俺の国は平和そのものだったけどね」


「じゃあにゃんでモンスターの事が分かるにゃ?」


 う、中々鋭いな、普段のアホの子は演技だったのか? それは良いとして、俺のオタク知識を如何説明したものか……まさかラノベで読みました、とか無いし。


「まあ、俺の世界では誰でも本が読める様な世界で、様々なジャンルが有って、異世界転生記というジャンルの書物が大人気なんだよ、そこにはモンスターの記述も有ってそこからだな」


「そうなんや、ヨシダはんウチと同郷やと思えるぐらいに違和感無かったよって、最初はこんな新人あり得へんって思っててんけど、ウチとこの国もそれに載ってるん?」


 何故か、瑠奈が興味津々で質問してくる、さっきの顔はなんだったんだろうか?


「いや、『八紡ノ国(ヤツムギノクニ)がピンポイントで載ってる訳じゃ無い。俺の元いた国は日本と言って、極東に有る小さな島国なんだ」


 それを聞いた瑠奈は、はっと、息を呑む。瞳は大きく見開かれとても驚いた様子だ。


「うん、俺も最初トーマスさんに聞きた時は驚いた、そんな偶然有るのかと、俺の故郷とそっくりじゃ無いかとね」


「そう言えば……ウチの国の神話のなかに、天地開闢をした神の使いがこの地に降りて、国を収めたとなっとるんや、もしかしてヨシダはんは……」


「いやいや、無い無い、そこは全くの偶然だと思うぞ? 大体俺の使命は女神に敵対する邪神の送り込んだ、魔王なる奴の野望の阻止だからな? 全然違う」


「「「「魔王の野望? 聞いてないぞ!」」」」


「にゃ?」


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