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第29話 おっさん、吉田良樹の事件簿

「(良くやったわね、ヨシダ)」


 いきなり人の迷惑も省みず脳内に響く、このリバーブのエフェクト付きの、美声はまさか。


「(そうです、貴方の女神様です)」


(なんだろう……八時に全員集合して見る、伝説のお笑い番組が頭に浮かぶんですが?)


「(また、変な事考えてるんでしょ? 折角褒めに来てあげたのに)」


(お褒め頂けるという事は……もしかして、任務完了ですか?)


「(アホかー任務完了どころか、手先を取り逃してるじゃ無いのよ)」


(ですよねー、でも、手先という事は、仮面の紳士は女神様が言ってた魔王と関係ある者なんですか?)


「(そうね、そうなるわね)」


 俺の問いにアッサリと答える女神様。という事は奴の正体や居場所も……


「(知らないわよ)」


(へ?)


「(だから、仮面の男の正体も居場所も知らないわよ)」


 なんだよ、思考が読めてるのか? 以前任務に失敗したら俺が(・・)如何なるか聞いた時はガン無視だったのに……思考は読めても空気は読めないのな。


「(なにか言ったかしら?)」


(いえ、思っただけです。でも女神なんだから、この世界の住人の事は全て把握しているのかと思ってたんだけど)


「(知らないわよ、例えば貴方だって足元のアリンコの生活なんて気にしないでしょ? それと一緒よ)」


(いや、でも貴女この世界の管理者じゃ無いんですか?)


「(そうだけど……貴方オタクよね、だったらアカシックレコードって知ってるわよね?)」


(え、あ、それはもう俺は優秀ですから、その辺も履修済みです、はい)


「(それなら話が早いわ、要するに普通の人の人生のストーリーは全てそこに書いてあって、それをトレースするだけなの。見てる必要無いの。OK?」


(それじゃあ、俺たちの人生はゲームのムービーシーンみたいな物だと?)


「(そうね、ただし、貴方や、貴方が倒すべき魔王は、その理の外に居るのね、だから好き勝手されると困る訳。それは貴方も同じよ、わかる?)」


(へ、俺もですか?)


「(そうよ、貴方も理の外から来てる訳、そして貴方に関わる者達は貴方の影響を受け、少しづつそのストーリーが書き変わっちゃう訳、わかる?」


(はあ、俺も含めて、神様でもコントロール出来ないイレギュラーな存在、即ちバグってヨッシーって事ですか?)


「(ピンポン、ピンポン、ピンポ〜ン、せーかいでーす、という事で、今回は未然にそのイレギュラーを防いでくれたので、ご褒美を用意しました、ステータス画面を見てみてね)」


(おお!太っ腹)


「(本当に今回は良くやってくれました、今後も励みなさいよ?では、バイバ〜イ)」


 フレアがギルマスに今回の任務の報告をしている間に、いきなり現れて、言いたいことだけ言って消えてしまった……我儘というか、フリーダムと言うか……


 まあ、それは置いといて、こっからが本番だ。この筋肉ゴリラの過去を洗いざらい吐いてもらわなければな。

 大体、スキンヘッドにアイパッチ、オマケに強面で、絶対一人や二人は()ってる顔だ、余罪もたんまりだろう。


 そんなくだらない事を考えている間に報告は終わり、いよいよと言うタイミングだが、如何にもフレア達の様子がおかしい。何か切り出そうとして、逡巡していると言うか、命の恩人で親代わりみたいな人だ、戸惑うのも仕方ない。


「どうしたフレア、顔が青いぞ?」


 フレアの態度に見かねたギルマスが、口を開く。アンタの事ですけどね? それをアンタが言うと益々言いづらくなるのでは?


「あ、いや、なんでも無い……」


 口籠るフレア、普段の快活さはなりを潜め、怒られた子供のような有様だ。


(まあ、そうなるよな、此処は少しマイルドに攻めてみますか? 年の功より亀の甲って言うじゃん?)


「なあ、ギルマスのおっさん、派手な金色の仮面付けた執事みたいな知り合い、居る? 片腕に肩口からの黄金の爪を付けた奴」


 俺の問いにピクリと跳ねるフレア、俺の方をじっと見つめてる。まあ、任せとけと目で訴え掛ける。


「分かった、任せる」


 そう言って俯いてしまう。自分で断罪しなくても、そりゃ堪えるか?だが、これだけはハッキリとしなければならない。


「うーん……知らんな、大体その様な派手な奴なら、忘れる訳なかろう?」


「そりゃそうだ」


 暫く頭を捻っていたが、アッサリと否定するギルマス。強張っていたフレア達も緊張から解かれる。その安堵の反応を見ても嘘はなさそうだ。まあ、如何みても演技派には見えないし、そんな小器用なタイプじゃ無いだろ、脳筋だし。

 だが、そうなると仮面の紳士の真に迫るセリフが嘘と言う事になるが、その様にはとてもじゃ無いが見えなかった……


「で、その派手な仮面の者が如何したんだ?」


「その派手な出立の人物が、廃坑奥で遭遇した今回の件の黒幕なんだよ」


「ほう、フレアの報告にも有った奴か? して、ワシの知り合いかどうかを問うのは何故じゃ?」


 やっぱり、そこ気になるよね? だけど……


「その前に、も一つ聞きたい事が有るんだ、アンタギルマスだろ?大きな事件や事故なんかも耳に入るよな?」


「うん?、そりゃまあ、色々と情報源も持っとるし、聞きとう無いことも、知りとう無いことも入って来るが、それが関係あるのか?」


「まあ、もう少し付き合ってくれ。でだ、いつでも良い、例えば冒険者の集団が何処かの街か村を襲い、殺戮や破壊をした様な事件は無かったか?」


 俺も質問にフレア達もじっとギルマスの顔を見つめ答えを待つ。


「いや、そこまで大きな事件は聞いた事がない。冒険者の犯罪ならばギルドの管轄だ、ワシの耳に入らん訳が無い」


 ギルマスは即答する。俺はギルマスの様子を用心深く観察していたが、あれだけの事をしでかし、それを問われて顔色一つ変えずに平然とNOと言い切るのはサイコパスぐらいだろう。恐らくギルマスの発言に嘘は無い……が、何か忘れてる様な? そう言えば子供達は連れ去られた(・・・・・・・・・・)と言っていたな。何故だ。


「おっさん、さっきの質問だけど、もう少し良いか?」


「ああ、構わんぞ」


「じゃあ、さっきの質問の続きで、子供達が攫われた様な事件は無かったか?」


「うーん、冒険者が破壊と殺戮をし、子供達は連れ去られたと言うことか?」


「そうだ」


「連れ去られたのは子供だけか?女は?」


「いや、女達は殺されたらしい」


「うーん、それはちょっと信じられんな、子供達だけ連れ去り奴隷かなんかにするのか?女も売るなりなんなり出来るはずなのにか?」


 そう言われてみれば、なんか少し変だな。何故攫われたのが子供だけなのか?男は出払っていたらしいし、女達も売るなり、自分のモノにするなり有るはずだが……何故だ? 考えろヨシダ、伊達におっさんやってた訳じゃ無いだろ…………


「オイ……」


 質問するだけして、ダンマリ決め込む俺にギルマスが焦れて声をかける。


「オイ、ヨシダ無視するな。キサマ質問するだけしておいて放置とは良い身分だな? 流石、英雄様は違うな、オイ?」


 スキンヘッドに青筋立てまくりのゴリラが、ジロリと此方を睨み、たっぷりの皮肉をこめる。うん? 英雄、俺の事か? 皮肉るのは構わんが、俺が英雄は無いだろ。そう思った俺は聞き返す。


「英雄って、俺の事か? 俺はフレア達の手伝いをしてただけだろ?」


「おいおい、スタンピードでは数百単位で魔物を殲滅し、廃坑奥ではフレア達が(コア)を破壊する間、敵の黒幕を抑えておったらしいでは無いか? 此れを英雄と言わずして何が英雄か?」


 ギルマスの言葉を反芻する。数百単位での魔物を殲滅……俺が……英雄……殺戮、蹂躙された仮面の紳士の言葉……赤い瞳、縦長の虹彩…………フラッシュバックする仮面の紳士の言葉。


『ですが、殺めたのは貴方ですよ。ヨシダ殿』


「そうかっ! いやまさか」


 いきなり立ち上がり声を上げる俺にギルマスを始め一同が注目する。


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