第28話 おっさん、凱旋する
俺達は見事スタンピードを阻止し、ダンジョン核の破壊に成功した。黒幕と思しき仮面の紳士は、取り逃してしまったが、取り敢えず依頼は完遂された訳だ。
廃坑の外へ出ると、陽は沈み掛け、空は橙色から紫色へのグラデーションに染まり、星々が瞬き始めていた。
冒険者達は一様に疲れた様子ではあるが、その顔は大規模作戦を完遂した充実感で満ち溢れ、おたがいの健闘と無事を讃え合い、それぞれの馬車に乗り込み、一路ソルバルドの街へ向けて出発する……
……一定のリズムを刻み、心地よく揺れる馬車に、疲れが出たのだろう皆んな寝てしまった。
瑠奈は俺の隣で肩に持たれたまま、静かな寝息を立てている。キャトリーヌはだらし無い格好のまま眠り、涎を垂らしながら時折ニャーニャー言っている。おやつを食べる夢でも見ているのだろうか……大規模な任務を殆ど被害もなく終えた達成感と、心地よい疲労感で馬車内は満たされている……
「皆、ソルバルドの街が見えた」
暫く走り続けていると、御者台で手綱を預かる鬼灯が知らせてくれる。
「すまんな鬼灯、押し付けてしまって」
静かに目を閉じて休んでいたフレアが鬼灯に労いの言葉を掛ける。
「否、帰還までが任務だ」
言葉短に答える鬼灯、御者台の向こうにはソルバルドの街が見え始める。
街へ近づくにつれ篝火や、魔道具の光が見えてくる。俺達が出発した南門にはスタンピードで撃ち漏らした魔物達に備え、街の護衛を任された沢山の衛兵や冒険者達の姿が見える。
俺たちの帰還に皆が手を振って迎えてくれる。門の近くに設営された天幕からは、頭二つ三つ抜けるほどの巨体が現れる……
「(如何しました? 貴方がた人間に正義が有ると、勘違いでもしてましたか? それともハルクの衝撃的な過去に言葉も出ませんか?)」
一瞬脳裏に浮かぶ、仮面の紳士の言葉……時間は有るんだ、後でじっくりと言い訳を聞こうじゃ無いか。
俺達はほんの少しの蟠りを感じながら、南門に集まった大勢の野郎どもに手荒い歓迎を受けるのだった……




