第21話 おっさん、ボス戦に挑む
亜竜の咆哮に坑道全体が揺れる。その圧倒的なプレッシャーは生物に根源的な恐怖を植え付ける。
特にキャトリーヌの様な獣人は、本能的に感じ取ったのだろう、尻尾はピンと伸び、その毛は逆立っている。
「オイオイ、マジかよ亜竜とはいえ、竜種の端くれだろ? んなもん連れてくるなよ、全く……」
恐怖に飲まれそうになるが、得意の軽口で自身を奮い立たせる。ぶっちゃけ、冗談でも言って開き直らなきゃ、やってらん無いぜ。
「うむ、全くだ、少しは空気読め」
普段は寡黙な鬼灯でさえ、愚痴りたくなる程か? 状況は最悪じゃねーか。
「アンタ達、軽口叩く余裕が有るなら大丈夫だね? 瑠奈、有りったけのバフを前衛に、攻撃はいい回復に専念しな」
「了解や、フレア」
「鬼灯、あれは未知の個体だよ、ハナっからガチ固定じゃ無く、アタシとタゲ回しだ、良いね?」
「うむ、了解だ!」
「キャトリーヌは敵の見極めと、サポート全般、イケるね?」
「ま、まかしとけーにゃ!」
亜竜、しかも未知の個体との戦闘でも、周りに的確な指示を出して行くフレア、流石はAランクパーティのリーダーだ肝が座ってるぜ!
「最後にヨシダ!」
「おう、なんだ?」
「此処ならアンタの本領が出せるだろ?」
ニヤリと凶悪な笑みを見せるフレア、分かってるさ、マジでやってやる。
「ああ、あのスカしたヤローとデカいトカゲに、"わからせ"てやろうぜ!!」
「よく言った、ヨシダ、余燼の光の騎士団、戦闘開始!!」
フレアの力強い号令が、広大なドームに響き渡った。
刹那、亜竜が地軸を揺るがすような咆哮と共に、その巨体を躍らせた。狙いは、先陣を切るフレアと鬼灯。巨大な顎が開かれ、灼熱のブレスが濁流のように二人へと迫る!
「鬼灯、右! アタシは左から仕掛ける!」
「うむ!」
フレアの鋭い指示と同時に、鬼灯は巨大なタワーシールドを構え、ブレスの奔流の右半分を真正面から受け止める。シールドに刻まれた魔法陣が淡く輝き、ブレスの威力を軽減するが、それでも凄まじい熱量と衝撃が鬼灯の巨体を押し下げる。
その隙に、フレアはブレスを掠めるように左へと回避し、炎を纏った剣を構え、亜竜の側面へと疾駆する。
「キャトリーヌ!」
「にゃー! こっちにゃ、デカブツ!」
キャトリーヌは身軽に岩から岩へと飛び移り、亜竜の注意を引くように短剣を投げつけ、その注意をフレアから逸らす。硬い鱗に弾かれるが、その狙いは陽動だ。
「フレア、鬼灯、キャトリーヌ、皆に天恵あれ!」
瑠奈の祝詞が響き渡り、前衛の二人に淡い光の加護が降り注ぐ。彼女は戦況を冷静に見据え、的確に回復と強化の準備を整えていた。
そして俺は――この広大な空間で、水を得た魚のように躍動する。
「最初っから飛ばして行くぜ、キャトリーヌ下がってくれ」
飛んだり跳ねたりと、トリッキーな動きで、亜竜を翻弄していたキャトリーヌに射線上から退避の指示を出す。
「わーかったにゃー」
俺の言葉にすぐさま反応して、ヒラリと避ける。フレアと鬼灯は亜竜を挟んで左右に展開している。射線上はオールクリアだ。
「ノーマルショット発射、オラオラオラオラ〜」
最初から全力全開の16連射でぶっ放す。
オォォォォン〜〜
全弾命中、苦悶の雄叫びを上げる亜竜…………硝煙が晴れ亜竜の姿が現れる……
「オイオイ、マジかよ。」
Aランク魔導士の集中砲火を防ぐ、ギルド自慢の二重結界を打ち砕いた俺の16連射を耐えぬき、そこに現れる亜竜。勿論ダメージは負っているが、いささかも弱った様子では無い。
「ヨシダ、短期決戦は無理だ! ヘイトを稼がない様に撃ち込んで弱らせてくれ」
俺のノーマルショットを耐えた恐ろしい鱗の防御力に、フレアが作戦の通達をしてくる。
「了解だ……クッソ、パワーアップ出来ればこんなクソトカゲ秒で丸焼きにしてやるのに」
此処までの道中STGスキルを使えず、パワーアップも出来ないまま亜竜戦に突入。しかも相手はお供も連れずの単騎でパワーアップカプセルの取得も出来ない。俺は殆どの力を封印したまま戦わなければならない。
勿論ノーマルショットを連射し続ければ、亜竜にもダメージは与えられるだろが、後衛ラインには瑠奈もいる、無闇にヘイトを稼ぐと巻き添えにする恐れもあり、自重するしかない。
俺が歯噛みをしている間も、フレアと鬼灯の攻防は続く。
亜竜はその巨体と有り余る力に任せ、体当たりやテールスイングなどを繰り出し大暴れだ、鬼灯ですらそのパワーの前に苦戦している。フレアは言わずもがなだ。
(……ん?、そうか、何も直接ダメージを与えるばかりが脳じゃ無い)
俺の頭に一つの作戦が閃く、要は連射が出来て、コッチに来なきゃ良いわけだ。
「フレア、もう一度俺にやらせてくれ、合図したら射線上から大きく退避してくれ、キャトリーヌもだ」
「ヨシダ、何か企んでるね? オッケーだ、鬼灯、キャトリーヌも良いね」
「うむ」
「了解にゃ」
「ヨシダ、こっちはいつでもオッケーだ、合図を頼む」
前衛陣の準備ができた様だな、こっからはタイミングが命だ、敵の動きを見極めろ……亜竜がテールスイングのモーションに入った、今だ!
「前衛全員退避〜〜」
俺の合図にフレア達が大きく退避する。亜竜はテールスイング中でクルクル回ってる。
「よっしゃ!いくぜ、アタタタタタタタタタタタタタ〜」
疾風怒濤の16連射を亜竜の手前の床にぶち込み続ける。人工物を思わせる磨かれた床にノーマルショットを撃ち込む着弾音が響き渡り、穿ち、破壊する………………
…………
……
立ちこめる煙が晴れると、巨大なクレーターが現れ、そこに有るはずの亜竜の姿が消えている。
「やったのかい?」
恐る恐る確認するフレア、周りのみんなも訳が分からない様だ。確かに亜竜の姿は見えなくなった。
「あー、ここにゃ、ここにいるにゃ〜」
如何やらキャトリーヌが気づいた様だ。クレーターの底に落ちてひっくり返ってる亜竜を見つけ、キャトリーヌが大はしゃぎだ。
「さてと、散々好き放題したんだ、覚悟は出来ているだろうな? クソトカゲがっ!」
「あ〜、ヨシダっちが悪い顔してるにゃ」
俺はクレーターの底でひっくり返りジタバタ踠いてる亜竜の土手っ腹にノーマルショットをぶち込み続ける。
「オラオラオラオラ〜」
流石の亜竜も腹側の防御力は低く、俺の怒りの16連射に呆気なく撃沈し、デカい魔石を残し、その肉体は魔力へ昇華しコアへ吸収される。
「力は強いが、ちょっとばかり頭が悪かった様だな」
コレでクソトカゲに"わからせ"終了だ、後はあのスカした紳士だな。だが、件の紳士は焦る風もなく佇んでいる。




