表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

第2話 おっさん、初めての異世界、初めての戦闘

 『ノーマルショット』の試射が思ったよりもヤバイ威力で、その場からトンズラこいた俺だが、街に向かう街道で自分の足に違和感を感じてその場に立ち止まる。


「クッソ、足の裏がめっちゃ痛い。転生特典のスキルも良いが、先ずは靴くれよ」


 改めて自分の格好(そうび)を見てみると、部屋着のジャージ上下と、裸足、ジャージの下には推しのトランクスとTシャツのみで、自室からいきなり放り出された感じだ。

 中世ナーロッパ風の世界じゃ街道は砂利道で、都会育ちのヤワなアンヨにゃちょっと刺激が強すぎる。とは言え、明るいうちに街まで辿りつかねば、いきなり『ゲームオーバー』も有り得るし、痛いもへったくれも無いか。


「異世界転生したまでは良かったんだがなぁ……」


 訳の分からん使命は負うわ、靴も履かずに放り出されるわ、オマケに俺の生き甲斐のSTGは二度とプレイ出来ないと来たもんだ。愚痴っても始まらんが、黙ってても終わる訳でなし、不平不満(ブツクサ)言いながら街道を進む。


「まだ1キロは有るか? あ〜自転車でも良いからどっか無いのか?」


 文句も出尽くし、ただひたすらに遠くに見える街を目指して歩くのも飽きてきた頃、突然、馬の嘶きが聞こえたかと思うと、背後からけたたましい音と共にモーレツなスピードで迫ってくる馬車が一台。


「すわっ! 何事か?」


 振り向いた俺の視界に飛び込んで来たのは、1頭の腹の辺りが赤く光る?オオカミらしきモンスターを先頭に、5〜6頭の群に追い立てられる馬車が砂塵を巻き上げ此方に向かってくる。


「オイイイイイ? このままだと俺んとこまでモンスターを引っ張って(トレインして)来るんじゃね? MMORPGで言う所のMPKか?」


 何方にせよモンスターに襲われて『THE END』は確定的に明らかだ。俺が奴らに美味しく頂かれてる中あの馬車は悠々街に辿り着いて、めでたしめでたし。

 って終わってどーする、女神様の都合は如何でもいいが生きたまま食われる趣味は無い。幸にして俺は遠隔攻撃者シューティングマスターだ、()られる前に()る、このアドバンテージをみすみす逃す手は無い。


「相手が人じゃ無いのが……せめてもの救いか」

 

 自分にそう言い聞かせつつ構えを取る。側から見れば、ふざけてるのかと殴り飛ばされそうだが、"念じて"射つとなると、シューティングゲーマーとしてはこのスタイルが一番しっくり来るのだ。


「試射の時は気付かなかったが、ターゲットマークが出てたんだな」


 構えを取ると、視界に浮き出たターゲットマークを、左手をジョイスティックよろしく動かしながら念じると、其れに連動して動くターゲットマーク。


「FPSのエイム操作に似ているが、さにあらず。コレは早過ぎた名作『コスモ・ラスター』だな」


 2Dだろうが、擬似3Dだろうが、STGと名の付くものなら何でも御座れだ。華麗なスティック捌きでモンスターの群にターゲットマークを合わせる(ロックオン)、後は右手の人差し指でショットボタンを押し込む要領で『ノーマルショット』と念じると、軽い発射音と共に弾がモンスターの群に着弾。


 ドッゴォ〜〜ン!


 眩ゆい光が目に刺さり、遅れて激しい爆発音が鼓膜を叩く。哀れモンスターの群れは消し飛んでしまい、それと同時にモンスター5頭分のスコア500が加算され、さらに赤い敵を倒したからかパワーアップゲージが1つチャージされている。


「やっぱ、ヤベーわ、モンスターと一緒に街道の一部も消し飛んでしまったぞw」


 俺が初戦闘、初勝利の歓喜に震えていると、爆走していた馬車も徐々にスピードを落とし此方に向かって来る。二頭立ての幌馬車(カバードワゴン)と呼ばれるタイプのそれは、御者台には手綱を握る男が一人、此方に手を挙げやって来る。何処かの商会だろうか、幌には意匠が施され荷物が満載されている様に見える。


 俺は街道から少し離れて馬車に道を譲る。そのまま通り過ぎれと念じたが、その思いも虚しく俺の目の前で停車するのだった。オイオイ何でスルーしないかな? コミニュケーション出来るかどうか先ずは街で様子見を、とか考えてたのに、いきなり本番ですか? 内心焦りまくりの俺などガン無視で、幌の中にいた身なりと恰幅の良い、如何にも商人といった感じの男が和かに現れる。


「私はこの先の街で商会を営んでおります、トーマス・グレイと申します。この度は、魔物に追われ命が危うい所を、お救い頂き有難う御座います。」


 初めての異世界コミニュケーションに、緊張の極致にあった俺だが、耳に入って来たのは俺の理解出来る言語だった。日本語か現地語を理解してるからは分からんが、取り敢えずは意思の疎通は出来そうで安堵する。


「あ、これはご丁寧に如何もです。偶々居合わせただけですので、お気になさらずに」


「それは、偶然に感謝しなければなりませんな。そもそもあの『オクルファング』は狡猾で、街道辺りまで出る来る様な魔物では無いのですが、あのレベルの魔物の群れを魔法で一つで退治なされるとは、いずれ名のある魔法使い殿とお見受けいたします」


 ま、まさか俺が森に向けて試射したせいで、オオカミさんが激オコになって出て来たとか、じゃ無いだろーな……内心冷や汗だらけで焦った俺は、無難にやり過ごすべく謙遜しておく。


「いやいや、俺はただの通りすがりで、そんな大した魔法使いなんかじゃ有りませんから。じゃ、じゃあ、そう言うことなので、俺は失礼します」


 俺はそう言うと片腕をシュタッ!と上げ、此処から立ち去ろうとするのだが……


「いえいえ、どうかお待ち下さい。命の恩人に礼を失すようなことがあれば、グレイ商会の名折れとなりましょう」


 異世界転生あるある、商人を助けて懇意になるイベントの発生か? ただ商会名が宇宙にキャトられそうな感じはするが、この際だこのムーブに乗ってくか。


「あー、俺は吉田良樹と言う者で、その……ちょっと訳有りでして、ほら、この服とか、靴も履いてないし、コレから如何したものかと途方に暮れてた処だったんですが、もし宜しければこの国についてご教示願えますか?」


 そう言いつつ、ジャージの上着のジッパーを無駄に上げ下げしたり、裸足の足を上げて見せたりして、訳有りアピールをする。


「ほう、ヨシダヨシキ殿と仰られますか。お名前の響きが極東の島国、八紡ノ国(ヤツムギノクニ)から来た者に似てますな」


 はて? ひんがしの国や、倭の国などはよく聞く設定?だが、ヤツムギの国とは? ハトムギの親戚とか?


「ヤツムギの国ですか?」


「はい、私も東の商人から聞いた話なのですが、海を渡り遥か東に有る島国だとか。……それよりもヨシダ殿のお召し物は、何と言うか……この世の物とは思えぬ物ですな、その伸縮性に富んだ生地も去ることながら、特に上着の真ん中に有る金具の様な物を上げ下げすると二つに別れるのは、変わったカラクリですな」


 如何やらトーマスさんはジャージのジッパーに食い付いたようだ、異世界物でマヨ無双やカレー無双はよく見るが、ジッパー無双は流石に無いか?


「ああ、此れは私の国の部屋着の様な物でして、この留め具はジッパーやチャックは……商品名だったかな、あ、ファスナーだったかな? まあ、呼び名は何でも良いのですが、こんな感じで左右の歯を噛み合わせて止める物です」


 そう言いながらジッパーをゆっくりと、閉じたり開いたりして見せと、それに合わせてトーマスさんの視線が上下する。


「ほっほ〜、此れは何と言いますか、凝った細工の技術が素晴らしいですな。ただ、庶民向けに使うにはコストが掛かりそうですし、かと言って貴族層向けとなると、正直華やかさに欠けますな」


 そっか〜、ジッパー無双でウハウハはダメか。まあ、トーマスさんは初見だし、衣料品用途以外は見えて無いっぽいし、いつか別の方法を提案してみるか。


「それは置いときまして、ヨシダ殿はこれから如何なさるおつもりですかな?」


「そうですね、取り敢えずは街道の先に見える街まで行って、そこで如何するか考えようかと。まあノープランですねw」


「そうですか、分かりました! では、この不肖トーマス・グレイが命の恩人であるヨシダ殿の後楯となる事を、約束しましょうぞ。そうと決まれば、早速街へ行って今後のプランを練りましょうか?」


「それは願っても無い話です。では、早速ですが一つお願いが有るのですが……」


「分かりました、何なりと仰って下さい。この私がヨシダ殿の願いを叶えて見せましょう」


「あーでは、靴を一つお願い出来ないでしょうか?」


 トーマスさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔一笑し、力強く頷いた。


「靴……でございますか? ええ、よろんで。ですがヨシダ殿、あなたほどの力があれば、名声、富、そして新たな人生……その全てが手に入りましょう。さあ、参りましょう、ヨシダ殿。あなたの物語が、あの街から始まるのです!」


 トーマスさんは街の方向を指さしながら、目を輝かせる。俺は、これから始まる俺の物語に胸を弾ませて、馬車へ乗り込むのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ