第19話 おっさん、初めての廃坑探索
「あーさーにゃー、ヨシダっち、おーきーるーにゃー」
朝っぱらから俺の寝袋に跨って叫ぶのは誰だ?
「ヨシダっち、廃坑いくにゃー、おーきーるーにゃー」
「起きるにゃって、起きるのか、起きないのかどっちにゃ?」
案の定、キャトーリーヌが俺の上に跨って、にゃーにゃーさけんでる。うるせーにゃ。
「あふ、どうしたんだ、今日はえらい早いじゃないか?」
「ふ、にゃーの夜番は最後だったにゃ、にゃから寝てないにょにゃ、ハイテンションにゃ」
寝てない自慢のドヤ顔は置いといて、俺の歓迎会の翌朝はゾンビみたくなってたからおかしいと思ってたけど、朝まで起きてたのか。通りでテンション高いはずだ。
「なんだい、朝から騒がしいね」
「にゃ、フレアにゃ、おっはっよーにゃ」
「全く、今日は廃坑の探査だからね、早く準備しなよ」
フレアはそう言って、俺とキャトリーヌを交互に見る。その目には若干の呆れと、リーダーとしての厳しさが混じっていた。
「にゃはは、フレアは真面目にゃー。ヨシダっちはおこしたし、こんどは火をおこすにゃ」
キャトリーヌは俺の上からぴょんと飛び降りると、昨日の焚き火後へ向かって行く。寝てないテンションは伊達じゃないな、その小さな体のどこにそんな元気が残っているんだか。後、俺と火おこしを同列に語るな。
「おはようさん、ヨシダはん……えっと、昨夜はゆっくり休めはりましたか?」
キャトリーヌと、入れ替わりに現れた瑠奈は、なんか顔が少し赤いし、視線は若干泳いでるし、心無しかもじもじしてる様な?
「お、おう、ゆっくり休ませてもらったぜ、瑠奈さんに貰った疲労回復薬で体調もバッチリだ」
なんか、昨日あんな話をしたからか、ちょっと気恥ずかしいな。
「そ、それやったらよかったわ、ほなウチは馬車から食料を出して朝食の準備するさかい、ほなまた後でな」
あー、初々しいぜ、こんな俺にも今日のような日が訪れるとは、人生分からんものだな(二回目だけど)
そんな瑠奈とのやり取りをしてると、背中に感じる視線に気付く。なんかフレアがジト目で見ているような……
「おっす! フレア、昨日はお疲れ!」
「…………」
「ん? フレア? どうかしたか?」
「いや、昨晩、瑠奈となんかあったのか?」
なんだろ? フレアの機嫌が少し悪いような? 気のせいかな?
「いや、夜番の交代の引き継ぎの時に少し話しただけだ、別に大した事は無かったが?」
「……ふーん、そっか……ヨシダも今日は廃坑の探索だからね、しっかり準備するんだよ」
なんかフレアにしては、歯切れが悪いというか、なんと言うか、なんか一人で次の夜番のくじ引きがなんとかブツブツ言いながら去って行ってしまった……
そうこうしていると、朝食の準備も済み、皆も揃ったので食べ始める。
「さて、皆、食べながらで良い、聞いてくれ」
食事が一段落したフレアが立ち上がり、全員を見渡した。その声には先ほどの歯切れの悪さはなく、いつもの快活さに加えてリーダーとしての決意が滲んでいる。
「今回の任務は廃坑奥に有ろう、ダンジョン核の破壊だ。廃坑の中は未知の領域だ。どんな危険が潜んでいるか分からない。くれぐれも油断しないように。そして、必ず全員で無事に帰ってくるよ!」
「「「おう!」」」
「にゃー!」
俺たちも力強く応じる。
朝日が昇り始め野営地を照らし始めた頃、他の冒険者パーティも続々と準備を終え集結する。どの冒険者達も生気に溢れ、気を張っている。
「いよいよだな、初のダンジョンアタックだドキドキするぜ」
興奮と緊張の極致で、俺もテンション上げて馬車に乗り込む。今日も鬼灯が御者台に陣取りスレイプニルの手綱を預かる。
「それじゃあ、野郎ども、廃坑へ向けて出発!!」
フレアの号令一下、冒険者パーティを乗せた十数台の馬車が一斉に動き出す。
********
30分ほど馬車に揺られると、使われなくなって100年は経つと言われる古い廃坑が見え始める。幸い昨日の作戦でスタンピードは収まり、廃坑周辺に魔物の影は殆ど見られない。
馬車を降り、廃坑の入り口に立つ。ぽっかりと開いた黒い入口は、まるで巨大な獣が口を開けて獲物を待ち構えているかのようだ。
中に入ると、時折コウモリが飛び交う羽音や、水滴の滴る音、廃坑奥からはヒヤリとした空気が流れ出し、内部からは微かにカビやすえた悪臭が混じり漂ってくる。
「よし、ここが旧ミスリル廃坑の入り口だ。これより内部の探索を開始する」
フレアが改めて全員を見渡し、最終確認をする。
「この廃坑は使われなくなって100年は経っている。その間人の手は入らず荒れ放題、しかも中は複雑に入り組み、魔物も住んでいる。どんな罠があるか分から無いし、崩落の危険性も有る。十分に注意して任務に当たるように」
「「「了解!」」」
「にゃ!」
流石はフレアだ前戦指揮も任されていて、探索班に的確な指示を飛ばし作戦に当たらせる。
「アタシ達『余燼の光の騎士団』は最奥部に有るダンジョン核の破壊が最重要任務だ、陣形は基本通り、鬼灯、アタシが前衛。キャトリーヌは斥候と遊撃、先行して罠や敵の気配を探ってくれ。ヨシダと瑠奈は後衛だ。各自、周囲への警戒を怠るな。少しでも異常を感じたらすぐに報告!」
「「「「了解!」」」」
鬼灯が巨大なタワーシールドを構え、フレアが剣を抜き放つ。その二人に続いて、俺たちも坑内へと足を踏み入れた。入り口から数歩入っただけで、外の喧騒が嘘のように静まり返り、自分たちの足音と呼吸音だけが妙に大きく響く。
壁には魔道具のランプが取り付けられているが、その役目を終え沈黙し、奥の方は深い闇に包まれている。坑道は道幅3mの天井の高さも3m程で、ただ進むだけならば十分な広さが有るが、戦闘となるとかなり狭く感じる。
(うわっ、これは……STGで言うなら縦スクロールの洞窟ステージか? 敵がどこから飛び出してくるか分からないが、地形に触れてもミスにならないのは救いか?)
俺は内心でそんなことを考えながら、周囲に意識を集中する。ノーマルショットの威力が絶大で、こんな坑道内でむやみにぶっ放せば、大崩落間違いなしだろう。
「キャトリーヌ、どうだ?」
フレアが小声で尋ねる。
「んー、今のところは特に何もにゃいみたいにゃ。でも、なんだかイヤな予感がするにゃ……空気が重いっていうか……」
キャトリーヌは猫のようにしなやかな動きで先を進み、天井や壁や地面を注意深く調べている。彼女の尻尾が不安げに揺れていた。
しばらく進むと、道が左右に分かれている。
「どっちへ進む、フレア?」
鬼灯が低い声で尋ねる。
「ギルドからの情報だと、魔素濃度が高いのは本坑の奥……つまり、おそらく右だ。核の破壊が済めば危険も激減するだろう……」
フレアは少し考え込んだ後、決断した。
「よし、ここは、寄り道せずに核の破壊優先だ、右へ進もう。キャトリーヌ、頼む」
「にゃ!」
右の坑道は、緩やかに傾斜し地下へ地下へと降って行く。降るほどに、じめじめとした湿気が肌にまとわりつく。壁からは水滴が滴り落ち、地面は濡れて足元を不安にし、何処からか地下水の流れる音がかすかに聞こえてくる。
(此処じゃ分身を出すにしても、フレンドリーファイアの危険が高すぎるな、ミサイルは地形追従だが爆発がなあ……レーザーなら貫通力は有るが爆発しないしワンチャン有か? ただ一戦毎にパワーアップがリセットされるのがネックだな……参ったな八方塞がりか……)
昨日の戦闘後のスキルゲージは[?]のフォースフィールドを示してるのを確認しつつ、攻撃方法を思案するが如何にも芳しく無い。
その時だった。
「にゃっ! フレア、前方に何かいるにゃ!」
キャトリーヌが鋭く声を上げる! ほぼ同時に、闇の奥からガサガサという不気味な音と共に、暗闇に複数の影が蠢くのが見えた。
「来たか! 全員、戦闘用意!」
フレアの号令と共に、空気が一気に張り詰める。はたして闇から現れたのは、体長1.5mは有る巨大な蜘蛛型のモンスターだった。黒い甲殻には不気味な赤い紋が有り、無数の複眼が赤い光を放つ。それが三匹、壁や天井を這いながら素早い動きでこちらに迫ってきた。
「うげっ、デカい蜘蛛かよ! スパイダーネットとか吐いてきそうなヤツだな!」
俺はとっさに構えを取り、一番手前の蜘蛛にターゲットを合わせて、ノーマルショットを発射しそうになり、そこで踏みとどまる。
(危ない、危ない、此処でこんな物ぶっ放したら生き埋め確定だったわ)
俺が一瞬躊躇している間に、フレア達が戦闘を開始する。
「鬼灯、行くぞ!」
「うむ!」
鬼灯が雄叫びと共にシールドを構え、突進してきた一匹の蜘蛛の攻撃を受け止める。ガキーン! と金属同士を打ち付ける様な硬質な音が坑道内をこだまする。その猛烈な体当たりは鬼灯の巨体を僅かに揺らすのみで、余裕で受け止め踏みとどまる。
フレアはその隙を逃さず、炎を纏った剣で別の蜘蛛に斬りかかる。
(ヤバイ、上から残り一匹が忍び寄る!)
残る一匹、天井から糸を吐きかけようとしていた蜘蛛に気付くと反射的に叫ぶ!
「キャトリーヌ、天井だっ!」
三匹目の動きにキャトーリーヌがすぐさま対応し、投げナイフで応戦する。他の二匹も、フレアの剣技と鬼灯の膂力であっという間に沈黙し、遅れて残り一匹もキャトリーヌが止めをさす。
「ふぅ、まずは小手調べってとこか」
フレアが剣を振るい、付着した体液を飛ばしながら言う。
「ヨシダ、ナイスだ、あの位置取りは厄介だったからな」
「ああ、敵の見極めなら任せとけ、ただ攻撃は威力の調節が出来ないから、期待しないでくれよ」
「ふむ、確かにあの威力のまま此処でぶっ放されたら、坑道は大崩落だろうね……」
恐らくは昨日の渓谷の惨状を思い出したのだろう、第一ウェーブ後のクレーターだらけの景色は、此処は火星か? と勘違いしてしまう程の酷い有様だったからな。
「そうなると、全く攻撃の手段が無いのも考え物だな、自衛すら出来ないのはチョットな……」
「わかったにゃ! にゃーが凄いの貸してやるにゃ」
そう言いながら、バックポーチの中をゴソゴソ漁り始めるキャトリーヌ。
「うー、これはポーションにゃ……こっちは連携陣のスクロールにゃ……あ、おやつがあったにゃ……」
オイオイ、武器貸してくれるんじゃ無いのかよ。てか、そこに入るのか? 一抹の不安を感じながらしばらく待っていると。
「ジャジャーン、マシーン・ボウ、にゃ〜」
青いネコちゃんロボよろしく、バックポーチから取り出したのは矢筒とクロスボウを合体させて、シングルアクションで発射が可能なマシンボウだ。
「なんで、そんなでかい物がバックポーチに入るんだよ!」
「にゃ? マジックポーチは異空間収納付きにゃ、こんぐらいヨユーにゃ」
「おう、マジックアイテムでしたか、恐れ入りました」
「うむ、わかればいーにゃ」
なんか小芝居の後にキャトリーヌがマシンボウの使い方を説明してくれたが、ニャーニャー言ってて、いまいちよく分からんかったが、コレで攻撃手段が一応確保できた訳だ。しかも得意のレンジ武器でだ。
「よし、ヨシダの攻撃手段も確保できたし先を急ぐぞ。こんな奴らがうろついてるってことは、この先はもっとヤバいのがいるかもしれないからな」
フレアの言葉に、俺たちは再び気を引き締め、闇に包まれた廃坑の奥へと進んでいくのだった……




