第16話 おっさん、無双完了
「す〜ご〜い〜にゃ〜、ヨシダっち、ちょ〜すげーにゃ!」
そう叫びながいきなり背中におぶさって来る、おんぶお化け、じゃ無かったキャトリーヌ。
「うわっとっとっ、キャトリーヌか、どうよ? コレが俺のジョブ、シューティングマスターの力だ!」
「ヨシダッちすごいにゃ、すご過ぎるにゃ、敵さん溢れてたにょに、ぜーんぶ消えちゃったにゃ」
そう言うキャトリーヌを背負って振り向くと、他のメンバーも此方に駆け寄って来る。
「ヨシダ、アンタ凄いな、いきなり一人で迎え打つとか言い出した時は、コイツ頭おかしくなったのかと思ったもんだが、この結果を見れば、成程一人でやると言い出す訳だ。ハハハッ」
「ほんま凄いで、ヨシダはんは。せやけどこれはどないなっとるんや? 魔法にしては無詠唱やし、しかもあの連射速度……ありえへんわ」
「うむ、流石ヨシダ、良く分からんが良くやった。帰ったら肉食わせてやる」
余燼の光の騎士団のメンバーが口々に称えてくれる。他の冒険者連中は一様に口をあーんぐりと開けて顎が外れそうだ。
「はっ! 見たか、コレがギルマスも認めた俺のスキルだ、伊達にシューティングマスターなんてジョブを名乗っちゃいないぜ!」
俺はキャトリーヌを背負ったまま、胸を張ってドヤ顔を決める。まあ、実際は女神様の気まぐれで授かったスキルと、若返った肉体のおかげなんだが、ここは威張らせてもらおう。
「しかし、ヨシダ。お前のその『面白い魔法』、一体どういう原理なんだ? 魔力を感じないどころか、まるで別系統の力としか思えんのだが」
フレアが真剣な眼差しで問いかけてくる。他のメンバーも興味津々といった顔で俺の言葉を待っている。
(うーん、どう説明したものか……まさかシューティングゲームのシステムです、なんて言える訳もないし)
「あーと、それはだな……魔法と言うか、俺のユニークスキルとでも言っておこうか。恐らく魔力とは違うエネルギー体系で……と言うか俺も良く分からん、気付いたら使える様になってた」
前のめりで聞いていた面々はガクッとズッコケる。そうは言っても、俺も解らん以上どう説明しろと。
「ふむ、ユニークスキルか、ギルマスの金剛身やフレアの烈火剣の様なものか? だが、その威力はヤバイ。まさか、あの数の魔物をたった30秒で削り切るとは……」
鬼灯が腕を組み、感心したように唸る。その言葉に、他の冒険者たちもざわめき始める。先程まで呆気に取られていた者たちも、徐々に状況を理解し始めたようだ。
「おい、今の見たかよ…」
「ああ、あの新人、マジとんでもねえぞ」
「何なんだよ……あの攻撃力はよ……破壊神の化身か?」
遠巻きに見ていた他の冒険者たちからも、驚嘆と興奮の入り混じった声が聞こえてくる。特に、先程まで俺を小馬鹿にしていたヴァルムートとかいう貴族のボンボンは、驚きすぎて顔面蒼白でわなわなと震えていると思ったのも束の間、俺の評価が高いと分かると。
「そうであろう、そうであろう、アチキのお陰で貴様の能力も皆に知れ渡ったであろう。ヨシダといったか?貴様が望むなら、栄光の我が冒険者パーティ『ヴァルムート精鋭団』の一員に加えてやらん事も無いであるぞ。」
先程までの嫌味な態度は一変して、掌クルックルのお貴族様。
(それにしても『ヴァルムート精鋭団』……あれ? 何処かで聞いた……様な……)
「あー、思い出した、『ヴァルムート精鋭団』って、トーマスさんの護衛を失敗したCランク冒険者じゃ無いか!」
「な、なな、しっ、失敬な、失敗などしてはおらんわ、偶々、べっ、別の群れに見つかって追われておった癖に、依頼料を値切るとは、これだから下賤な商人は……ま、まあ、今回は貴様の働きに免じてこれくらいにしてやるである」
散々引っ掻き回した挙句、ボロが出たら尻尾巻いて何処かに行く『ヴァルムート精鋭団』達。面倒臭い奴らが居なくなりほっと一息。
(もっとも、これで少しは俺の実力を認めさせただろ。これで今後の作戦行動もやりやすくなるはずだ)
「まあ、百聞は一見に如かず、ってことだ。俺の力が必要なら、いつでも声をかけてくれ」
俺がそう言うと、フレアはニヤリと笑った。
「ああ、もちろん頼りにさせてもらうさ、ヨシダ。……いや、シューティングマスター殿、かな?」
「はは、呼びやすい方でいいぜ、リーダー」
フレアとの間に、確かな信頼関係が生まれたのを感じる。他のメンバーも、先程までの好奇の目とは違う、尊敬と期待の眼差しを向けてくれている。
「さて、ヨシダのおかげで先鋒はだいぶ片付いたが、これで全てが片付いたわけでは無い。皆んな、気を引き締めていくぞ!」
フレアが号令をかけると、パーティーメンバーだけでなく、周囲の冒険者たちも「おう!」と力強く応じた。俺の戦いが、彼らの士気も高めたようだ。
「所でキャトリーヌ、可愛い女の子を背負うのは嬉しいのだが、そろそろ降りてくれか?」
「にゃっ!? そんにゃーヨシダっち、にゃーが可愛いにゃんて……そんなホントの事をいうにゃんて〜」
なんかモジモジしながらクネクネしてたけど、俺の背中からひらりと飛び降りる。その身軽さは猫獣人の流石はシーフといったところか。
(よし、これで第1ウェーブはクリアだ)
俺は気持ちを切り替え、アケコンを握り直すイメージで再び構えを取る。
狭窄部の向こう、土煙が晴れ始めた先には、新たな魔物の群れが蠢いているのが見えた。先程よりも勢いを増した魔物達の群れが迫り来る。
「第二波、来るぞ! 全員、戦闘準備!」
フレアの鋭い声が飛ぶ。
余燼の光の騎士団のメンバーはそれぞれの武器を構え、臨戦態勢に入る。
第二ウェーブからは俺が先行して魔物の数を間引きつつ、進行スピードを遅らせ、後ろに等間隔に並んで詰めている十数組の冒険者パーティが、残りを仕留める形に落ち着いた。
これは他の冒険者達が活躍出来る、出来ないでは無く、第一波の時に見せた必殺『ラピッドファイヤー・エクストリーム』の惨状を見て、頼むからやめてくれ、渓谷の地形が変わってしまうと、懇願された為だ。
第二ウェーブが始まり余燼の光の騎士団の戦闘を初めてこの目にしたが、獅子奮迅の戦いぶりは流石、ギルド最強パーティだ。
その戦闘は鬼灯がその体躯と膂力を存分に発揮し、敵を受け止め、巨大な剣で一刀両断にし、前線を支える。
鬼灯が静なら、動のフレアは鬼灯が一身に集めたヘイトを上手く利用しながら、炎を纏った剣で敵を切り裂き、薙ぎ倒していく。その圧倒的なスピードと手数はこのパーティの攻撃の要だ。
一方キャトリーヌは種族特性とシーフのスキルを存分に発揮しながら神出鬼没な不意打ちや騙し討ちで、フレアや鬼灯にヘイトをなすり付けてヘイトコントロールをしつつ自身も確実に敵を倒して行く。
瑠奈は後衛ラインから、強化と回復を担う祝詞と、弱体と攻撃を担う禍詞の二系統を巧みに使い分け、強化弱体のフルセットを入れ終えると、戦況を見ながら、適度に攻撃を繰り出している様だ。
殲滅スピードも去る事ながら、兎に角四人の連携が巧い。鬼灯以外は殆ど被弾が無い為、回復役の瑠奈に余裕が産まれその結果、継戦能力がずば抜けて高い。これがAランク冒険者の戦いかと思う反面、その連携に自分の姿が無いのが寂しくも有った。
そうして俺やフレア達余燼の光の騎士団の面々や、その他の冒険者パーティにより安定して戦は継続する。
……
…………
第三ウェーブ、第四ウェーブと敵を殲滅し続ける……長時間の作戦で回を追うごとに疲労が蓄積し、散発的では有るがミスが出始める。
「やば、撃ち漏らした!」
だが、そんな物は慣れた物だとカバーに入ってくれる冒険者達、すまんなと片手を上げれば、良いって事よ!と返してくれる。最初は俺の能力に懐疑的で有った者達も、今ではこの作戦を担う仲間だ、戦友だと答えてくれる様になった。
嬉しかった、俺の存在が皆の役に立ててる事が……皆が俺を認めてくれた事が……
いつしか辺りが夕日で赤く染まり始める頃、ようやくスタンピードの解除が宣言された。
「ふう、取り敢えずはひと段落か? 皆んなお疲れ!」
フレアの一言にやっと張り詰めた空気が弛緩し始める…………鬼灯じゃ無いが腹減った、肉食いてえ〜〜




