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受験令嬢の戦い~中学受験真っただ中に思い出したのは、前世の記憶でした~  作者: 杜来 リノ


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9/12

仲良くお勉強

 

 日曜日。


 セイさんは玲寧を見てものすごくびっくりした顔をしていた。


 玲寧が美人すぎるから驚いたんだと思う。それはわかるけど、私と玲寧を見くらべるように目を動かすのだけはやめて欲しい。だってものすごく、私に失礼だから。


「……あの子、マジで小六?」


 なにが言いたいのかすぐにわかる。なーんか、ヤな感じ。


「マジです。っていうか、なんで制服着てるんですか? 日曜日なのに」

「いや、なんか先生っぽい感じを出してみようと思ってさ」

「それで制服? 家庭教師って、むしろ私服じゃないですか?」

「まあまあ。で、今泉さんだっけ? 小六であの大人っぽさはすごいな。あれでランドセル背負ってるの? うーん、想像つかないわ」

「玲寧の学校は高学年になるとランドセルじゃなくてもいいらしいですよ。女子は手提げバッグかリュックが多いみたいです」

「へぇー……」


 セイさんは、手提げバッグからノートや筆箱を取り出す玲寧をじっと見ていた。まあ、可愛い子を見ちゃう気持ちはわかる。私だって、帰り道でおしゃれな子がいるとつい目で追っちゃうし。


 でも、セイさんは高校生。


 いちおう、私たちと同じ“未成年”ってやつ。だけど、小学生からすると高校生はすごく大人に見える。そんな高校生が小学生をガン見してるのは、正直ちょっと、うん、微妙。


「学校が違うのに、ここまで仲よくなれるのもすごいな」

「塾で近くの席になることが多かったから」

「へぇ。向こうから話しかけてきたの?」

「向こうからっていうか、私も玲寧も前のほうの真ん中の席が好きで。そのへんって男子が座ること多いんですよ。それで、女子二人でくっついて座ってたら自然と仲よくなっただけです」

「ふーん」


 セイさんは気のない返事をしながらも、やっぱり玲寧を見てる。なに? そんなに気になる?


「夏芽ー? 準備できたよ!」


 玲寧に呼ばれて、私はバッとそっちに振り返った。


「? なにしてんの?」

「あ、ごめん! すぐ準備するね。聖さん、始めてもらってもいいですか?」


 もう、セイさんのことは放っておこう。さすがに私んちで変なことはしないだろうし、聖さんはそういうタイプじゃない。


 ……と信じたい。


「はいはい。じゃあ今日は、俺が桜帝を受験したときの入試問題から、いくつかピックアップしてきた。これ、やってみようか」


 セイさんが渡してくれた冊子には、算数・国語・理科の問題がそれぞれ五問ずつ載っている。


「あの、高見沢さん。私も夏芽も、第一志望は星鳳なんですけど……」

「うん、知ってるよ?」

「私立は学校ごとに問題のクセがありますし、桜帝と星鳳ってカラーがかなりちがいますから桜帝の問題を解いても、その……」


 玲寧はそこで言葉を止めた。


『あまり意味がないのでは』と言いたかったのだと思う。でも、さすがにそこは口に出せなかったみたい。


「たしかに私立中はそれぞれにカラーがある。でもね、問題をよーく見ると、わりと共通点も多い」

「共通点?」

「そう。たとえば、ある学校では基礎、別の学校では応用問題として出される、とか」


 セイさんは、指先で机を軽くトントンと叩きながら続ける。


「理科なんて分かりやすいよ。桜帝はかならず“絵を描く”問題が出る。動物の模様や植物の葉っぱとか」

「あ、ほんとだ。聖さんのときはトウモロコシの発芽を描いたんですね」

「そうそう。で、星鳳は星の動きとか気象データみたいな“変化を読みとる問題”をよく出す。じゃあ、この二つの違いってなんだと思う?」

「……絵で説明するか、文字や数字で説明するかの違いだけ、です」

「そのとおり」


 私は玲寧と目を合わせた。なんだろう、私たち今、ちょっぴり感動してる。


「やっぱり、中学受験を経験した人の話って説得力あるね」

「うん。なんか、一気に考え方が広がったって感じ」


 これはお世辞なんかじゃない。むしろ、なんで今まで桜帝の過去問を解くように言ってくれなかったんだろう。


「セイさん、もっとはやく教えてくれればよかったのに」

「物事には“ベストなタイミング”ってものがあるから。もし今日が夏芽ちゃん一人の授業でも、この冊子は渡すつもりだったよ」

「ほんとですかー? 玲寧が美人だから、特別に用意したんじゃなくて?」


 言ったあとで、すぐに後悔した。


 玲寧とリザベルは別人。ちゃんとわかってる。わかってるはずなのに、私の中の『エルルーナ』がまだどこかで許せない気持ちを捨てきれていない。


「そんなわけないだろ? 今泉さんとは今日初めて会ったのに、美人かどうかなんてわかるわけない」

「うっ! た、たしかに」

「どうでもいいこと言ってるヒマあったら問題を解いて。はい、時間を測るよー。まずは国語ね」


 セイさんは腕時計をちらっと見せて、ほら、と手をふった。


「わ、急ごう、夏芽」

「う、うん。そうだね」


 まさかタイムトライアル形式とは思っていなかった。急いで冊子を開き、問題文を読んでいく。


「なるほどー。セイさんが言いたかったこと、よくわかった気がする」

「わたしも。なんかこれ、星鳳の過去問より難しくない?」

「うん、難しい。けど、国語は桜帝の問題のほうがおもしろいね」


 いつもより、すらすらと問題文を読める気がする。


「国語の次は理科。それが終わったら、いちど休憩しよう。算数は少し時間かけるから」

「はい! お願します」


 玲寧は国語の問題文を横に置き、いい姿勢でビシッと手をあげ元気よく返事をした。やる気に満ちた玲寧の声を聞くと、なんだか私までやる気が出てきた気がする。


「お、お願いしまーす……」


 といっても、熱血っぽい返事をするのは私のキャラじゃない。


 それでも空気を乱すのはよくないよね、とひとまずそっと右手をあげておいた。


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