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受験令嬢の戦い~中学受験真っただ中に思い出したのは、前世の記憶でした~  作者: 杜来 リノ


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10/12

勝負の日と真実

 

 月日は流れて、あっというまに二月になった。


 今日は、受験本番の日。


 受験会場までは、お父さんが車で送ってくれた。


 校門の前に、色々な塾の先生たちが生徒を激励している姿が見える。その中には、私の塾の先生もいた。


「青井さん、がんばって!」

「はい。ありがとうございます」


 先生たち、いったいどれだけ朝早くから来てくれてるんだろう。それが仕事、と言われたらそうなんだろうだけど、とってもありがたいなぁ、って思う。


「お父さん、いってきます」

「夏芽、落ち着いてな」

「うん。お父さん、ありがとう」


 ちなみにお母さんは家で待ってる。なんか『お母さんのほうが緊張してる。吐きそう』って真っ青な顔になってた。というわけで、入試の見送りには来ていない。


 ただ、豪華なお昼ご飯を作って待ってる、って言ってくれた。なんだろう。すごく楽しみ。ご飯が楽しみ、と思えるくらいだから、今、かなりリラックスできてると思う。


「うん、いける。大丈夫」


 なんだか、足取りが軽い。私は受験会場の、校舎の入口へ向かった。入口には、在校生たちがずらりと並んでいる。かけてくれる、応援の言葉がすごくうれしい。


 絶対に、この人たちの後輩になるんだ。


 そう、強く思う。


「ん?」


 入口の隅っこのほうに、制服を着た金髪の男子高校生が一人立っているのが見えた。


 どうしよう。


 気づかなかったふりをして通りすぎる? 悩みながら腕時計を見ると、まだ少し時間があった。これなら、少し話す時間はある。私はその人に駆け足で近寄った。


「おはようございます。セイさん、応援に来てくれたんですか?」

「おはよ。まあ、教え子の受験だからな。でも夏芽ちゃん、ほんとうによかったの?」

「なにがですか?」

「今の実力なら星鳳、かなりいい線いってると思うよ? なんで第一志望を桜帝にしたわけ?」


 ──そう。私は今日、ずっと目指していた星鳳ではなく、桜帝の試験を受けに来ている。志望校を決める直前に、悩みに悩んで桜帝に変えた。


「うーん、やっぱり私じゃ星鳳はギリギリかなって思ったんです。それに、自分でもよくわからないんですけど、“行きたい”って気持ちがなくなっちゃったというか」

「そういえば、ちゃんと聞いたことなかったかも。夏芽ちゃんが星鳳に行きたかった理由って? ここらでいちばん偏差値が高いから?」

「最初は、そうです。あとは、あれです、ほら“承認欲求“ってやつですかね」

「ま、認められたいって気持ちはモチベーションになるな」

「途中から“し”がかよってるって理由もあったんですけど、それもどうでもよくなってきちゃって」

「推し、ね。そっか。まあ、いいんじゃね」


 セイさんは、いつものようにへらっと笑った。その顔を見ながら、私は、ずーっと言おうと思っていたことを、言った。


「セイさん、一つ訊いてもいいですか?」

「え、このタイミングで? 別にいいけど、なに?」


 私は周りをきょろきょろとしたあと、聖さんの金髪とカラコンが入った緑の目をそっと指さした。


「どうして、金髪と緑の目にしたんですか?」

「……え、今? それ今、訊くこと?」


 セイさんは見たこともないくらい、驚いた顔をしている。うん、逆の立場だったら私もびっくりする。

 それから、『えっ、この人、疲れてるのかな』って、心配すると思う。


 でも、今だからこそ、なの。


 今だから、なにもかも知ってすっきりしておきたいの。


「ずっと気になってたんです。だって、元々そんなキャラじゃなかったですよね?」

「え、キャラ?」

「もしかして、アレですか? 私が……」


 言葉を止めて、大きく深呼吸をする。そして、できるだけなんでもないことのように言う。


「……私が、お爺さんかと思った、って言ったからですか?」


 緑のカラコンを入れた両目が、みるみるうちにまん丸になっていく。おもしろい顔になってる、とちょっとだけ笑った。


「やっぱり、そうだったんですね」


 あぁ、よかった。これでなにもかもすっきりした。今度こそ、胸の中に引っかかるものはなにもない。


「……すごいですね。いつから気づいていたんですか?」


 セイさんの雰囲気がふっと変わった。けれど私は、別に驚いたりしない。


「いつからだと思います?」

「わからないから、訊いているんです。意地悪しないでくださいよ。……エルルーナ嬢」


 時間があればクイズみたいにしたかったけど、今はそんなに時間があるわけじゃない。だから、さっさと正解を教えてあげた。


「セイさんが、うちでロールキャベツを食べた日から、です」

「え……」


 セイさんの目が、少しだけ動いた。


「その前の日に私、“前世”のことを思い出したんです。だからかな。家の前に座ってるセイさんを見たとき、あれ? この人、なんか知ってる気がする、って」

「あー……。じゃあ、割と早い段階で気づいていたんですね」


 セイさんは、ちょっと悔しそうに金髪をぐしゃぐしゃとかき回している。


「いえ、そのときはまだ、気のせいかな? くらいでしたよ。そうだって思ったのは、玲寧を連れてきた、あの特別授業の日です」

「……なるほどね」

「だってセイさん、玲寧のことばっかり見てたじゃないですか。美人だからかな? って思ったんですけど」

「いや、あれは」

「でも、なんか目が冷たかった。私たちがどうして仲よくなったのか、とか気にしてるし、そのときにわかったんです」

「……彼女は聖女どころか、ただの悪女でしたから」


 セイさん、いや、前世で私の処刑命令を出した処刑人さんは、苦い顔で言った。


「心配は嬉しいですけど、玲寧はリザベルの記憶はないみたいですよ。いや、みたいっていうか、ないと思います」

「そうですね。僕もそう思います。しっかり観察をしていましたからね」


 しっかり観察、か。だからあんなにじっと見ていたんだね。


「昔も今も、色々と気を遣ってもらってすみません」

「いえいえ」

「その、処刑人さんとは私が処刑されるときにはじめて会ったわけだからなかなか気づかなくて」

「僕はもう少し前からエルルーナ嬢のことを知っていましたよ」

「えっ!? ほんとですか?」


 いつ? どこで?


「はい。貴女がよくメイドと来ていたチョコレートショップの二階に住んでたんで」

「あのお店の二階!?」


 そこのチョコレートは、フロストさまとのお茶会の日にはかならず買いに行っていた。


「そうだったんですか……」

「そうだったんです。それに、リザベルのことを見張るのはあたりまえでしょう。王子にも貴女のお友だちにも、彼女は嘘ばかりついていた」


 私は笑って首を振る。


「もういいんです」

「いや、でも」


 本当に、もういいの。


 処刑のときはこの世に私の味方なんていない、って思いこんでた。けど、こうして処刑人さんが私を心配してくれていたのがわかったから、それだけで“エルルーナ”は救われた。


「私は青井夏芽。で、今泉玲寧は私の友だち。セイさんも処刑人さんじゃありません」

「……はい」

「私は、大事なことをちゃんとわかるようになったんです」


 だからもう、前のことは考えない。


「そうですか。貴女がいいなら、僕がなにも言うことはないですね」

「はい。ありがとうございました。じゃあ、いってきます」


 セイさんにぺこりとおじぎをしてから、急ぎ足で校内に入った。


「おはよう! がんばってね!」

「学校で待ってるからね!」


 入試会場の教室へ向かう廊下にも、先輩たちがたくさん並んでいた。先輩たちに挨拶を返しながら、受験表をとり出し受験番号を確認する。


「あ、スマホの電源落としとかなきゃ……ん?」


 いつのまにか、メッセージが一件入っていた。


「お母さんかな?」


 教室に入り、自分の席に座ってからメッセージを見る。


『絶対に合格しますから、落ち着いてくださいね』



 これは『高見沢聖』からなのか『処刑人』からなのか、どっちなんだろう。どっちにしても、“彼”はとても面倒見がよくて、そして。


「過保護な人だなー……」


 半笑いになりながら、スマホの電源をオフにして鞄の中に放りこむ。そして筆箱の用意をしていたとき、ふと思った。


 過去の私は、フロストさまに好きになってもらうことばかり考えていた。どうやったらあの方が笑ってくれるか、私を、私だけを愛してくれるか。フロストさまのことしか考えていなかった私には、友だちなんて一人もいなかったような気がする。


 いや、気がする、じゃなくていなかった。


 チョコレートショップへ買い物に行ったとき、もっと心に余裕をもって、周りをしっかり見ていたら。


 そうしたら、“彼”の存在に気づけたかもしれないのに。


「ま、今さらよね」


 もう終わったことを気にしてもしかたがない。今、考えなきゃいけないのは前に好きだった人のことじゃない。


 目の前の、中学受験だ。


 私は桜帝だけでいく覚悟を決めたから、併願高を受ける予定はない。今日、明日、それから明後日。


 チャンスは、三回きり。


「……絶対、勝つ」


 私は、今を生きる。


 そして、勝利を必ず手にしてみせる。


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