第4話
「今日の目標は十五層。マンションエリアを目指します」
「お~(パチパチ)」
「ワン!」
『…………(ゴゴゴ)』
クロエがパーティーに加わって初めてのダンジョンアタック。既に彼らは上層を危なげなく突破し一〇層の安全地帯に到達。本格的な攻略を前に休息をとりながら打ち合わせを行っていた。
リーダーであるタルトの宣言に、迷宮初心者のクロエは横でおざなりな拍手をするソルに疑問を口にした。
「十五層ってどんなエリアだっけ?」
「ん? 行ったことない?」
「うん。前のパーティーは十三層で全滅したから、それより下はギルドが公開してる情報をざっと流し見た程度」
ソルはふむ、と唇に手を当て少し考えてから口を開いた。
「一言でいえば、岩の迷宮の中に馬鹿でかい屋敷が収まってるエリアだね」
「屋敷って……人間の?」
「ああ。まあ、実際に人が住んでたわけじゃないとは思うけど、街とかで見るあの人間の屋敷」
「……何で迷宮にそんなフロアがあるの?」
地下迷宮に人工の建造物があるという不自然に首を傾げるクロエ。その疑問にソルはどう説明したものか頭をかき、結局面倒くさくなって専門家に丸投げした。
「何でって……あ~、タルト?」
「はいはい。迷宮内に建造物があることに関しては、いくつか説が存在するわ」
タルトはそうした説明を人にできること自体が楽しいのか、饒舌に語り始めた。
「一つは元々地上にあった建造物が、何らかの理由で迷宮に取り込まれたというもの。昔はこの説が有力だったけど、現地を確認した学者から長年迷宮内で人工物が朽ちることなく存在し続けているのはおかしいって反論が出て下火になったわ」
「なるほど」
「今学会で有力なのは、ダンジョンマスターが迷宮内に建造物を作り出している、というものね」
迷宮の発生については謎が多く、人類は未だ迷宮に関して一割も理解できていないと言われている。人々はそこから算出された資源を当然のように活用しているが、それが自然の産物なのか、誰かが意図的に生み出したものなのかさえ分かっていない。
有力なのは意志ある自然霊など超越存在がダンジョンマスターとして迷宮を構築したという説だが、これも明確な根拠があるわけではない。
「ん~……つまり、このエンデの迷宮を作り出したダンジョンマスターが人間で、居住用とか何か目的をもって屋敷を作ったってこと?」
クロエはそう口にしながら今一つしっくりきていない様子だった。
「……魔物がうろつく特定フロアの一部だけ? 苦しくない?」
「私もそう思うわ」
クロエの疑問にタルトは同感だと頷く。
「人間が利用するために作られたのだとしたら魔物が闊歩するフロアにポツンと建物があるのは不自然だし、そもそも使う人間がいないのはおかしな話よね」
「だよね。なら……何なんだろう?」
魔術師らしく思索にふけるクロエに、タルトは敢えて答えを口にすることなく、もったいぶるように言う。
「その調査も、今日の目的の一つね」
「というと?」
ノームの呪文遣いはその愛嬌のある顔に満面の笑みを浮かべ、今日の活動予定を口にした。
「その鍵を握る魔物──ミミックを狩るわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミミック──「ものまね」「擬態」を意味する名を持つこの魔物は、「宝箱に擬態して冒険者をおびき寄せ、近づいてきたところを襲い掛かる魔法生物」というイメージで世間一般に広く知られている。
しかし実際にはミミックが擬態するのは宝箱だけでなく、家具や小物、壁やタイルなど多種多彩。ミミックとは本来、無機物に擬態する魔法生物全般を指す言葉だった。
そしてこのミミックという魔法生物と迷宮の関りを考える上で、切っては切れない一つの疑問が存在する。
それは『自然迷宮の中で何故宝箱に擬態するのか。怪しくて普通誰も近づかないだろう』というもの。
迷宮の中に建造物があるのが不自然なら、財宝が詰まった宝箱があるのはそれ以上に不自然。仮に宝箱を見つけても近づくべきではない、というのが常識ある人間の発想だ。
しかし現実問題、ミミックに襲われて命を落とす冒険者は後を絶たない。
冒険者は非常識で馬鹿ばっか?
いや、強くは否定できないが、彼らが懲りずにミミックに引っかかるのは、迷宮内に本物の宝箱が存在するからに他ならなかった。
そう、信じがたいことだが迷宮内には財宝の入った本物の宝箱が存在する。しかし誰が、何の目的でその宝箱を設置しているのかは分かっていない。一部の学者にはダンジョンマスターが冒険者をおびき寄せる目的で設置しているのだと主張する者もいるが、そもそも迷宮に冒険者をおびき寄せる意味も分からないため、一般に宝箱の存在は迷宮における最大の謎の一つとされていた。
「【火球】」
目的地への途上。クロエが放った中級攻撃魔法により、猫ほどの大きさの大鼠の群れが一掃される。いや、数匹のうち漏らしはあったが、火と仲間の死骸を前に辛うじて生き延びた数匹も蜘蛛の子を散らすように姿を消してしまった。
「お~。やっぱ魔術師がいると便利だな~」
「ワン!」
数十匹いた大鼠が一撃で壊滅したのを見て、後ろに控えていたソルとシロが感嘆の声を漏らす。
【火球】は「これを使えてようやく魔術師は一人前」と呼ばれるレベルの呪文に過ぎず、クロエはその大げさな反応に少し照れた様子で頬を描いた。
「あはは、これぐらいは……」
「いや、謙遜することねぇって。これまではこの手の魔物の住処は避けて大回りしなきゃなんなかったんだから、すげぇ時間短縮だよ」
そう言ったソルの表情には新入りへの気遣いや誇張はなく、シンプルに便利になったと喜んでいるのが見て取れた。また同様に、アリーゼの鎧の籠手がポンとクロエの背中に添えられる。
『…………(ヴヴ)』
「へ? なに?」
「きっと喜んでるのよ。アリーゼはああいう鎧の隙間から潜り込んできそうな小さな魔物が大の苦手だから」
杖を抱えてうふふと微笑むノームの呪文遣いに、クロエはこれまで聞きそびれていた疑問を口にする。
「そういえば、タルトが呪文使ってるところって見たことないけど、結局僧侶系なの?」
それはクロエからすると何てことのない軽い疑問。
言葉以上の深い意味はなく、ソルが「魔術師がいると便利」と発言したことから、タルトはきっと僧侶系の呪文使いなのだろうな、と確認しただけのつもりだった。
『…………』
しかしその疑問に何故かパーティー──正確にはタルト以外の三人──は一瞬硬直する。
そしてその反応にクロエが違和感を覚えるより早く、タルトはサラリと答えを口にした。
「僧侶系っていうか、司祭ね」
「…………あ~」
納得と微妙な気まずさがクロエの心に満ちた。
司祭とは魔術師や僧侶の上級職。成長すればあらゆる呪文を習得可能な上、鑑定能力まで保有する万能の賢者だ。
ただそのポテンシャルの高さと引き換えに恐ろしく成長速度が遅く、一人前と呼ばれるレベルに達するまでには最低でも十年単位の修行が必要とされている。そのため、他の魔法職を極めた後に転職した者は別として、生来の司祭は冒険者から敬遠される傾向があった。
先日聞いたタルトの年齢は六十二歳。
ノームの成人年齢が五〇歳であることを考えれば、タルトはまだ初級呪文しか使えないと考えるのが自然だろう。
「あらあら」
微妙な空気を壊すように、タルトが口元に手を当ててクスクスと笑う。
「変な空気にさせちゃったかしら。でも大丈夫よ。確かに昔は誰にもパーティーを組んで貰えなくて苦労したけれど、今はこうしてみんながいてくれるし」
タルトの表情には、その言葉通り強がりも気負いも見えなかった。
「それに、確かに私は呪文遣いとしてはクロエに敵わないけれど、役立たずのつもりはないわよ?」
そのタルトの言葉は直後に証明されることになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、そっちの宝箱はミミックね。それと左の扉もそうだから、罠を調べようと近づいたらパクっと食べられちゃうわよ」
十五層のマンションエリアに到達して以降は、まさしくタルト無双だった。
マンションエリアは魔法生物や幽霊系の魔物がメインで出現する。擬態や建物の影に潜んで奇襲してくることが多く、また通常攻撃が効きにくい魔物が多いため、一般的な冒険者からは嫌われているエリアだ。
しかしタルトは一瞥しただけでミミックの擬態を看破。一行は全く危なげなく迷宮内の豪邸を進んでいく。
「ねぇ……あれ、どうなってんの?」
そのあまりに正確な判別に、クロエは前を行くソルの肩を突いて疑問を呈した。
「ん? あれって言うと、タルトのあれ?」
「そうよ。タルトが魔物の研究をしてて詳しいっていうのは聞いたけど、あれは流石にそういうレベルじゃないでしょ?」
まったく普通に歩いているようにしか見えないのに、ほぼノータイムでミミックを判別している。呪文を使っている様子もないし、ミミックだと言われているモノを観察してもクロエには全く真贋の判別がつかない。
どんなカラクリがあるのだろうと首を傾げるクロエに対し、しかしソルの種明かしはあっさりしたものだった。
「ありゃ司祭の鑑定だよ」
「…………ああ」
言われてみればそんなことか、と納得するしかない回答。
司祭には基本能力として「鑑定」が備わっている。それを駆使すればミミックが擬態したものを見分けることなど造作もないだろう。
しかしソルはそんなクロエの勘違いを見透かしたように付け加える。
「まあ、鑑定は最終的な判別をしてるだけで、やっぱりミミックかどうか目星をつけてるのはタルト本人の観察力と知識なんだろうけど」
結局ただの化け物ってこと?
クロエの率直な感想を尻目に、タルトは次々と仕訳を済ませていく。
「それは宝箱。アリーゼ、あっちの三つ並んでる箱の右側だけ大丈夫だからお願いね」
『…………(ヴヴ)』
そしてミミックではないと判別された宝箱は、一旦通路の端に移動させられ、分かるように仕訳されていった。
ちなみにこの間、魔物との戦闘は通行のために意図してミミックを破壊したケースを除いてゼロ。幽霊系の魔物は時折チラチラと壁をすり抜けて顔をみせるが、アリーゼの鎧が放つ瘴気に威圧されて近づいては来なかった。どうやらアリーゼから魔力供給を受けた『さまよう鎧』の方がアンデッドとして格が上らしい。
一時間ほどもそうしてマンションフロアを練り歩いた後、ソルがクロエに声をかける。
「リーダー。そろそろいいんじゃないか?」
「……え? そうかしら」
まだまだこれからといった様子で首を傾げるタルトに、ソルは呆れた様子で溜息を吐く。
「そうだよ。時間や体力的なものはまだしも、これ以上は持ち帰れないだろ」
「…………そうねぇ」
タルトは絞り出すように残念そうな声を出し、しかし直ぐに気を取り直して明るい表情でポンと手を叩いた。
「分かったわ。それじゃ、仕訳した宝箱を手分けして集めましょう。えっと~……」
「玄関ロビーでいいだろ。あそこは罠や魔物の気配もなかったし、俺とシロ、女三人で手分けしてやろう」
「そうね。そうしましょう」
予め段取りを考えていたのだろうソルがタルトにそれを提案し、彼女はのんびりした態度でそれを受け入れる。
「いくぞ、シロ」
「ワン!」
ソルはシロに声をかけて今まで回ってきたエリアを右回りに、タルトとアリーゼはそれを見て左回りに移動し、仕訳した宝箱を回収していく。クロエも良く事情が分からないまま、タルトの指示で宝箱を玄関ロビーへと移動させていった。
三〇分後。
マンションエリアのロビーには、クロエたちが回収してきた大小計二十三個の宝箱が並べられていた。
「それじゃソル、お願いね」
「おーし。念のため少し離れてろよ」
タルトの指示で、ソルが端から順に宝箱の罠の有無を確認し解除した後開けていく。
「おお~……」
宝箱の中にあったのは銀貨や装飾品、使い込まれた剣に、明らかにマジックアイテムと思しき魔力を放つ指輪など様々だった。
冒険者として初めて見る光景にクロエは感嘆を漏らし、思わず宝に飛びつきそうになるが、他のメンバーはジッとソルの作業を見つめている。一人だけはしゃぐわけにもいかず、周囲に倣いクロエはそわそわする気持ちを押し殺してその場に立ち尽くした。
そしてソルが全ての宝箱の開錠を終え「もういいかな?」と構えていたクロエに、タルトがポンと羊皮紙の束を渡してくる。
「はい。それじゃ悪いけど、一枚ずつそのリストをチェックして、該当する品があったら箱ごと区分けしてくれる?」
クロエが渡された羊皮紙に目を通すと、そこには数人の人の名前とその所持品が一枚ずつびっしりと書かれていた。またリストの頭にはどれも日付が記されている。
「……これは?」
「ここ数年内に迷宮内で行方不明になったか、死亡した冒険者のリスト。ソルにギルドで調べてきてもらったの」
「────」
それはつまり、この宝箱の中の品は冒険者たちの遺品の可能性がある、ということか。
クロエはタルトたちの意図を察して、一瞬言葉に詰まる。
「──そっか。せめて遺品ぐらいは遺族のもとに返してあげたいもんね」
しんみりと呟くクロエ。しかし──
『──え(ワフ)?』
クロエの予想とは裏腹に、タルトたちは『何言ってるんだ?』という風に首を傾げた。
「……え? いやだって、わざわざ遺品の分別とか──」
「ああ。そういう……」
最初にクロエの誤解に気づいたのはソルだった。
「これはタルトの趣味──ってか、調査に俺らが付き合ってるだけだから。別に遺族とか死んだ連中のためじゃないよ」
「そ、そうなの……?」
「うん。つーか、冒険者なんて身元も身寄りも怪しい連中ばっかだし、遺族とかいねぇんじゃね?」
「そうねぇ。そうでなくても大半は出稼ぎでご家族は都市外でしょう? 遺品があっても送るのが大変よねぇ」
「遺族に返したところで何か見返りがあるわけでもなし」
ちなみに迷宮内で拾った物品の所有権は、原則としてそれを拾った者に帰属する。例外はその物品が死体と共に回収され、蘇生された者かその仲間が所有権を主張した場合のみ。仮に遺族に何か言われたとしても、遺品を渡す義務はない。
「えぇ……いや、うん。じゃあ何でわざわざこんなこと……?」
クロエの疑問にソルとタルトはどう説明したものか顔を見合わせ、この件を主導しているタルトが代表して口を開いた。
「う~ん……実際にモノを確認しながら説明した方が分かりやすいと思うから、先に仕訳を済ませてもらえるかしら?」
「あ……うん」
そう言われてクロエは一旦疑問を引っ込め、言われた通りリストと宝箱の中身の照合を始めた。中には銀貨など特定不能なものもあったが、リストが良くまとまっていたこともあり仕訳自体は一〇分ほどで完了。床の上でリストごと、時系列順に並べ替えた。
そしてまったく該当する品がなかった余りのリストをタルトが回収し、パラパラと目を通す。
「…………ふむ」
クロエは辛抱強く説明を待っていたが、しかしタルトが思考の海に沈んで自分のことを忘れてしまっているようなので、おずおずと話しかける。
「……ねぇ。結局これ、何なの?」
「あら。ごめんなさいね」
タルトは我に返ったように顔を上げ、口元に手を当てて「おほほ」と誤魔化すように笑った。
「えっと……これはね、安全地帯で話した迷宮内にどうして建造物があるのか、って話にもつながるんだけど、ミミックの寿命を調べてるの」
「…………?」
全く意味が分からないとクロエは首を傾げ目を瞬かせた。
タルトは日付の古い順に仕訳された宝箱のかたまりを指し示し、クロエに質問する。
「この宝箱のかたまりを見て、何か気づいたことない?」
「ふむ……」
言われて改めて宝箱に視線を落とす。
一番古いのは六年前に行方不明となった冒険者の剣、一番新しいのは一年前に亡くなった冒険者の金の髪飾り。時系列ごとのボリューム層と、リストの日付を頭に思い浮かべ、クロエは気になったことを口にした。
「……リストには最近のものもたくさんあったのに、実際に物があったのは大体二年以上前のものばかり。二年以内のものは二件だけしか見つかってない」
「そう、そうなのよ!」
クロエの回答に我が意を得たりとばかり、タルトが嬉しそうに頷く。しかしクロエからすると「それが何?」といった感じだ。
「えと……結局、これは何なの?」
「えっとね──」
「要するに、迷宮内の宝箱は元々迷宮内に生息していたミミックの死骸じゃないか、って話だよ」
タルトの言葉を遮ってソルが結論を告げる。
「あ~! 何でいいところを持ってっちゃうの!?」
「……あんたの説明が長くていつまでたっても結論に入らないからだよ」
かわいらしく頬を膨らませて憤慨するタルトを、ソルはウンザリした様子でいなし、説明を続けた。
「宝箱に擬態したミミックが、実際に中に財宝を溜めこんでるって話は知ってる?」
「あ、うん。だけど戦ってる最中に破損して駄目になることが多いんだよね?」
「ああ。で、宝を腹の中に収めたまま死んだミミックはどうなるか」
「……ああ。なるほど、そういう」
ソルの言いたいことが分かってタルトは頷く。
ミミックはダンジョン内の財宝を見つけ出し、それを腹に収めて宝箱に擬態する。その後、ミミックが寿命や何らかの理由で死んだ時、その死体がどうなるのかについては改めて考えたことがなかったが、擬態したままの姿を保つのだとすれば迷宮内に宝箱があることにも説明がつく。
宝箱の中にあった冒険者の遺品を時系列順に並べたのは、ミミックが死んで宝箱になるまでの期間を確認するためだろう。今日だけではサンプル数が少ないのでハッキリした結論は出せないが、ここ二年以内に亡くなった冒険者の遺品が少ないのは、それらがまだ生きたミミックの腹の中だと考えれば筋が通る。
またタルトの考えが正しいのだとすれば、ことは宝箱だけの話ではない。ミミックの中にはフロアイミテーターのように壁や床に擬態する種もいる。
「つまりタルトは迷宮内の建造物自体、超巨大なミミックの死骸なんじゃないか、って考えてるのね?」
「…………」
クロエは確信をもって問いかけるが、タルトはそっぽを向いて黙ったままだ。
「……あれ? お~い」
「…………」
「タルトさ~ん?」
「…………」
クロエが回り込んでタルトの顔を覗き込むと、彼女は頬を膨らませて不満そうにむくれていた。
「……私が説明したかったのに」
完全に拗ねてしまっている。
『…………』
クロエは困ったようにソルに視線を向けるが、彼は気にした様子もなく肩を竦める。
「迷宮内でダラダラ説明してんのが悪い」
「…………」
「どうでもいいけど、記録に残すなら早くしなよ。帰りの段取りもあるんだから」
「…………」
タルトはむくれたまま手持ちの羊皮紙に今回の調査結果のメモを取る。しばらくは不機嫌そうな顔つきをしていたが、しかしメモを取っている内、予想通りの結果が出たことに満足したのか徐々に表情が緩み、機嫌を回復させていった。
そんな彼女を尻目に、ソルはシロとアリーゼに指示してタルトの記録が終わった成果物を運び易いよう整理していく。
(すごい……発見だと、思うんだけど……)
学会に提出すれば大きな反響を呼ぶに違いないタルトの研究。しかし仲間たちの淡白な反応に、クロエはどう反応するのが冒険者として──魔術師として正しいのだろうと首を捻った。