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59話 探り合い


 栄凛高校の生徒会室にて拂刃は思索に更けていた。というのも先日、犯罪組織『面倒矢佐会(めんどうやさかい)』で遭遇した少年のことについてだ。


 何をしていたのかは不明だが、少なくとも拂刃がはじめてつかんだかもしれない「デット・ライ・コフィン」への手がかりなのだ。おそらく少年は攫われた子供を救い出す義賊のようなことをしているのだろう。


拂刃(はらばき)くん、言われた通り調べてきました」


 自身の近くで座っていた天城(てんじょう)から拂刃(はらばき)は数枚の紙を受け取る。


 紙束の一番上に置かれた紙にはある少年の名前とその顔写真が載っている。


「けど、本当にその子があれほどのことを行ったのでしょうか?やはり私には信じられません……」


「僕もそう思いたいんだけどね……」


 天城に調べてきてもらった人物の名前は翔進羅黒(しょうじんらくろ)。おそらく『デット・ライ・コフィン』の下部組織を手あたり次第壊滅させていると思わしき人物だ。


 先日、『面倒矢佐会(めんどうやさかい)』の屋敷で遭遇した人物に拂刃はその人物にナイフを斬りつけた。致命傷にこそなってなかったが、狙いは別にあった。ナイフには毒が塗りつけられており、たとえ毒が聞かなくても対象ににおい付け(マーキング)できる。


 その匂いを『超嗅覚(ちょうきゅうかく)』の神秘を持ち、かつ犬の過剰適正者である天城に追ってもらったというわけだ。天城の嗅覚は他人の感情を読み取れるほど優れている。こういった尾行には最適の人物と言えよう。


 その匂いの先が翔進家であり、翔進家の家族構成は父、娘、息子。条件に合うのは息子しかいなかった。


 というわけで謎の人物をほぼ確定できたはいいモノの、それが中学三年生と聞いたときには拂刃(はらばき)は素直に驚いた。まだ成長期が来てないのか150センチもない子だ。本当にそんな子がやったのか拂刃も半信半疑だったが、状況から見てそうとしか思えない。


とはいっても完全な確信が得られたというわけでもない。実際にこの翔進羅黒(しょうじんらくろ)がやったところを見たわけではない。拂刃たちが得たのはあくまで状況証拠に過ぎない。


 拂刃は紙束に適当に目を通す。とりあえず重要そうな情報だけ拾っていく。


「神秘は『超耐性』。体が頑丈になるやつか。中学では特に目立った成績は残してない、その割にはめちゃくちゃ強かったけどね」


 あまり目立ちたくない性格なのだろうか。このぐらいの年齢の子ならそんなこともあるかと思い、次の紙へと進む。


 が、拂刃(はらばき)にとってはそこに載った情報の方がよほど重要に思えた。


「この子の母親……犯罪者なの?」


「ということになってます。元々、母親はガーディアンだったらしいのですが、犯罪に加担したとみなされています」


 拂刃(はらばき)の疑問にそばに控えていた天城が答える。


「ですが、犯罪に加担したというのが、その、『デット・ライ・コフィン』と協力したのではないかと思われています」


「!」


 ここにきて初めて『デット・ライ・コフィン』とつながった。まさか少年を追っていたらそんな繋がりを見つけだせるだなんて


「けど、ガーディアン側も情報漏洩の防止といってあまり情報を公開してないんです。どうやら薬の売買に手を出していたと世間には認識されているのですが……けど、私にはこの件はなんだかおかしいというか……」


「おかしいって?」


「根拠があるわけではないんですが……なんだかこの人は、別の誰かにはめられたって思ってしまうんです」


 違和感というのは確かに拂刃も感じていた。そもそもこの翔進明美(しょうじんあけみ)の犯行の手口等は一切書かれておらず、加えて本人は死亡している。まるで口封じされたとでも言うように。


 ガーディアン側もこの件にろくな調査をしていないように思える。この件をもっと追求すれば、『デット・ライ・コフィン』までたどり着けたかもしれないというのに。


 拂刃(はらばき)の頭に浮かんだのは一つの可能性。


 ガーディアン内部に『デット・ライ・コフィン』の内通者がいるということだ。またはガーディアンと『デット・ライ・コフィン』がグルかのいずれ。


 いずれにしてもこのままではらちが明かない。

 

 少年をとらえようとしても先日の戦闘から実力の差で無理と言えるだろう。かといって、このまま野放しにするのは違うはずだ。


 であるならば――


「よし」


 拂刃は勢いよく椅子から立ち上がり、廊下へと向かう。


「どこか出かけるのですか?」


「ああ、ちょっとね。天城(てんじょう)さんは今日はもう帰っていいよ、調べもので大変だっただろうし」


 天城に一瞥すると、すぐさま廊下を直進する。


 どうせこのままでは事態は進展しないだろう。であるならば、まずは少年と会うべきだろう。会って、できるだけ情報を吐かせるべきだ。







 いろいろあった翌日、俺は素直に学校に行くことにした。『デット・ライ・コフィン』を探るべく、町を奔走したかったが今の俺は疑われている身だ。


 親父はガーディアンではあるが、俺のことを組織に報告することはないだろう。問題は拂刃(はらばき)とか言う方だ。こっちの方は最悪、俺が『面倒矢佐会(めんどうやさかい)』などの犯罪組織を壊滅させた人間だと気付いている恐れがある。


 帽子で顔を隠していたとはいえ、体形からある程度のことは推測されかねない。それに何らかの神秘ですでに俺のことを特定しているかもしれない。


 証拠こそおそらく現場には残してはいないが、これからはそう簡単にはいかない。どこで誰が俺を監視しているかわからない。慎重に行動しなければ。


 そんなことを考えてたちょうど夕方のときだった。授業も終わり、学校から帰ろうと校門から出ていくと、一人の少年が生徒たちに話しかけているのが見えた。


(!?) 


 拂刃乃徒(はらばきのみと)だ。昨日、おれをナイフで切り付けていた人物。


 どうやら俺の学校の生徒から何か聞いているようだ。俺はなるべく目立たぬようその場を去ろうとした――


「あ、そこの君、ちょっといいかな?」


 が、遅かった。拂刃という人物は近くにいた中学生との会話を中断し、こちらによって来た。


「最近、何かと物騒でしょ。対策のために近所の子どもに防犯対策とかの聞き込みをしててね、協力してもらえるかな?」


 口ではお願いをしているが、その勢いは有無を言わさぬものがあった。というか、ほぼ確実に俺の正体を気づいている。たまたま俺に話しかけた風にしているが、実際は俺の腹を探りに来たのだろう。にしてもまさか昨日やそこらで調べ上げるとは……


 だが、何が目的か知らないが、証拠はないはずだ


 ともかくここで変に逃げるわけにはいかない。そんなことをすれば自分は悪事を働いてると白状するようなものだ。


「はい、わかりました」


 ひとまず俺はこの拂刃(はらばき)という人物に協力することにした


 




 

それから聞かれたのはたわいもないことだった。帰りには何人で帰っているのか、防犯グッズは持っているのかなど。先ほどの言葉通り、本当に防犯対策について聞かれた。


「なるほど、ありがとう参考になったよ。これだけ聞けば上から文句を言われずに済むよ。ところでなんだけど……」


 一通り話し終えると、閑話休題とでも言うように拂刃は話を変えた。というよりそっちが本題だろう。


「最近、子供をさらったやつらが殺されてる件は知ってるかな?」


「……はい、よくニュースでも取り上げられていることですし」


拂刃が本題に入ると俺は体を強張らせる。とにかく余計なことだけは言わないようにしないと。


 今の俺は周りからは普通の中学生と認識されている。事件の詳細は知らないということ。なのに本来知らないはずの情報をしゃべったらおかしい。俺は一言一句に神経を張り巡らせる。


「ネットとかでも話題になってるよね。義賊とかなんだとかって呼ばれてる。ここだけの話なんだけどね、昨日そいつに会ったんだよね」


「は、はあ」


「あれ? 意外と驚かないね」


「いや、その突然言われたので」


 拂刃(はらばき)はこちらをうかがうような目つきを送ってくる。ほとんど確証に近いモノを持っているはずなのに拂刃の様子は白々しいように感じる。とはいっても、実は俺がその正体です、なんて言えるはずもない。認めてしまえばそれこそ牢獄にぶち込まれかねない。あくまで完全な証拠がないからこそ俺は捕まっていないだけだ。


 拂刃もそのことがわかっているからこうして偶然を装ってここまできているのだろう。


「で、その人物なんだけどこの近くで見たんだよね。そう思って学校の近くに来たんだけど……」


 拂刃が俺と鼻と鼻が引っ付くほどの距離に近づく。心臓が震える。もちろん悪い意味で。


「なんですか?」


「いやね、なんだかその人物と君が似てるような気がしてね」


「……そうですか」


 優し気な目をしているが、その細めた目の奥には明らかに俺の心を覗き込もうとしている。話を区切ってここから離れたいがそれもそれでなんだか逃げているような気がして、嫌だった。


「もし、あなたが探している人が俺だったらどうするんですか?」


 先ほどまでの薄っぺらな笑みが拂刃の顔から消える。一瞬、別の人間に思えたほどだ。

ほんの数秒間、静けさが空間を支配すると拂刃がゆっくりと口を開く。


「その時は――」


 瞬間。


「あ、やっぱり羅黒(らくろ)くんだ」


 俺の後ろから声がかかる。振り返るとそこにはモノ優し気な顔の男性が立っていた。黒スーツを身にまとっているにも関わらず、あまり固ぐるしさは感じなかった。


「お迎えかな。悪いね、時間を取らせちゃって」


「いえ、別にそんな」


「そう?そう言ってもらえると嬉しいよ。それじゃ」


 俺の肩を軽く叩く拂刃は先ほどの返答をせず、そのまま走り去っていってしまった。


「ええと、君がずいぶんと嫌な顔をしてたから割り込んで切っちゃたんだけど、迷惑だったかな?」


「いえ、そんなことは」


 そこにいたのは俺の親父の兄。そして親父と同じガーディアンでもある男性で俺の伯父にあたる人、翔進(あきら)だった。


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