6話
「い、いや……」
今度こそ、逃れられない。覚悟の暇なく迫る大剣が――
「なっ!?」
俺の拳に収まる。大男の双眸が驚愕で染まる。おそらくこう言いたいのだろう。
「貴様……なぜ生きている?」
俺の予想通りの言葉を男は紡ぐ。先ほど、これ以上ないほど痛めつけた人間が平然と対ふさがり、あろうことか自慢の剣を片手で受け止めていることを信じれないのだろう。
「頑丈さだけが俺の取り柄なんでな」
神秘『超耐性』
それが俺の神秘だ。毒、傷、疲労に対して耐性がある、簡単に言えば体が頑丈なだけの神秘。けど、それだけの神秘だからこそ何度だって立ち上がってみせる。
大男が大剣振り回さぬよう俺の拳で刀身を押さえつける中、俺の背後から少女の叫びが上がる。
「何をやってるんですか、逃げてください! あなたには、あなたには何も関係ないはずです! ただ危険なだけであなたには何も良いコトなんてない。だから――」
「損得の問題じゃないんだよ」
少女の話を遮るように迷いなく答える。
「メリットがあるなしの話じゃないんだ。たった一人で知らない時代にやってきた子供を見捨ててしまえば、俺は後悔すると思う」
そうだ。手を差し伸べるのなんかそれで十分なのだ。今ここで目を逸らしてしまえば、俺はもう俺ではなくなってしまう。だから――
「たとえ俺になんの利点がないにしても目に見える人たちだけでも助けてやりたい……俺は人生に影は落とさない」
「……え?」
少女の宝石のように金に輝く瞳がこちらに向けられる。それはあたかも懐かしい何かを思い出すかのように。
「んぬう~~~~~~~~~~~~!!!」」
大男は抑えられていた大剣に力を籠め、全力で振るい俺の束縛を逃れる。
同時に大剣の振り回し、服に線が走り、俺の右腕があらわになる。
右腕、そして左足はかつてとある戦闘によりなくなってしまい、失った部分を補うかのように金属づくりの四肢、義手と義足がそれぞれ取り付けられていた。
少女の目から自然と涙が零れ落ちる。右腕の義手でわかったのだろう。どうやら『彼』というのは俺のことで間違いないらしい。
「羅黒さん……羅黒さん!」
『彼』の名前を口ずさむと俺はゆっくり振り返り、少女に笑顔でうなずく。
「ああ、翔進羅黒だ。お前が探していたのは俺ってことでいいんだな?」
「……はい。そうです。羅黒さん、また会えてうれしいです」
今にも消えかかりそうな声で鳴きながらも少女は叫ぶ。
「そうか。そういえば名前なんて言うんだ?」
「アステラ、アステラです。あなたにつけてもらった名前です」
「そうか、アステラ。とりあえず目標の一つは達成したな。あとは……」
俺は彼方にいる大男を見やる。
「まずはあいつを倒してくる。そこで待ってろ」
言い切ると、それを聞いていた大男は天に顔を向け高らかに笑った。
「そうですか! あなたが翔進羅黒か! これはどうやら今日の私には運が向いているようだ!」
「ん? 俺のこと知ってんのか?」
「もちろんですとも! 右足と左腕が金属づくりの小さき少年。そして未来では無様に死ぬということも」
大男は目を吊り上げてこちらを見下ろす。
「そうだな。けど、だからこそアステラが来たんだろ。未来を変えるために」
先ほどのようにはいかない。すぐさま片を付けるべく、全霊の力で大男を迎え撃つ。それに呼応してか大男もまた剣を構える。
「確かに未来は変わります。なぜなら今すぐあなたは私に殺されるのですからね!」
瞬間、大男の筋肉が隆起する。筋肉の膨張で服がびりびりに破け、皮膚にはこれ以上ないほどわかりやすく神経が浮き出ている。
「冥途の土産に教えて差し上げましょう!私の名は刃上利宗。我が神秘『超剛筋』は筋肉の膨張!あらゆるものを圧殺するゥ!翔進羅黒!今後、邪魔になるあなたを消せば私の名も挙がることでしょう!」
「悪いが殺されるつもりはない。たった今、未来を変えるっていう大仕事が入ったんでな」
言い終わるや否や刃上は地が揺れるほど勢いよく地を蹴りつけ、こちらに急迫する。
「出力装填」
俺は静かに右腕を構える。
義手はギリギリと金属音を立てながら、ばねのように引き絞られていく。
超スピードで俺のもとへと到達した刃上は先ほどとはくらべものにならない威力の大剣を脳天をかち割るべく振り下ろす。
「死ねえええええええええええええ!!!」
振り下ろした剣は――空を斬る。
「な!?」
「上だよ」
刃上が頭上の俺を見ると同時に、義手を義手を構える。
瞬間。
限界まで収縮された義手が開放される
「超地吼拳骨!!!」
義手は寸分たがわず刃上の顔面へとぶち込まれる
そのまま勢いとめずに地面に叩きつけられ、刃上の頭は地に埋まり、その後ピクリとも動かなかった。
「羅黒さん」
背後から声をかけられ、振り向くとそこには未来人、アステラがそこにはいた。
「おう、無事だったか」
「私は無事でしたけど……その、ほんとにいいんですか?」
いいんですかというのは、つまり自分のために争いの渦中に巻き込まれてもいいのかということだろう。
アステラの眼は雪のように透き通っているように見えて、同時に薄い影が覆っていた。
おそらくこれまでもいろいろと大変だったのだろう。
「さっきも言っただろ。手伝ってやるって。それにお前もいろいろと背負ってるもんがあんだろ」
「……!」
「だったら遠慮なく頼れよ」
「羅黒さん、ありがとございます―――」
言い終わるや否やアステラの体が横に倒れていくのを見て、慌てて支える。
いろいろと不安になりながらも無理してきたのだろう。
俺は一度、アステラをそばに置き電話でガーディアンに刃上の確保を依頼した後、
アステラを抱えて家へと歩いて行った。
とりあえずアステラのけがの手当てをしなければ。
これから何が待っているかなど誰にも分らない。けど、どんな苦難があろうとも止まる気はない。死んで後悔する人生を送るつもりはないから。
星空の下で俺はアステラを起こさぬようゆっくりと歩いて行った。
だが、俺は家の玄関を開ける瞬間思い出す。俺は取り返しのつかない事態を引き起こしていたということに
「……プリン買ってねえじゃん」
おまけ
ステータス(評価は10刻みにJ~A,101以上はOVとなっています)
翔進羅黒
ランク:セフター0
神秘『超耐性』:疲労、毒、傷など人間の弱点に対して極めて高い耐性を持つ
魔力 J:4
俊敏 C:71
力 B:81
器用 C:71
耐久 OV:287