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48話 羅黒VS灰賀②



「さっきの人……羅黒さん?」


 アステラは負傷した足を引きづりながら、山を下っていた。食事をとっておらず、栄養不足で今にも倒れてしまいそうだが、そうはいかない。


 自分に鞭を打ち、必死で一歩ずつ歩んでいく。


 だが、それでも思い出すのはやはり先ほどの黒フードの男。


 カメラ越しで見た際は恐怖しか感じなかったが、それでもキトノグリウスのアジトという危険な場所で自分を助けてくれた恩人だ。悪い人ではないのかもしれない。


 その恩人がどうにも羅黒と重なってしまうのだ。


「けど……」


 彼は死んでいる。それも自分を助けて。だから、今自分が考えているのはあり得ざる現実。それこそ彼女自身が望んだただの願望だろう。


 アステラは思い描いた幻想を頭から放り出し、敵の追撃から逃げるべく必死に移動する―――


「え?」


 不意に足が何かに引っ掛かる。気づいたときには既にアステラは顔面から地面に盛大なダイブを決めていた。


「つ~~~~~~~!いったい何なんですか……」


 顔についた土を振り落とし足元を見ると、こんもりと地面が盛られていた。アステラはそのでっぱりに足を引っかけたのだ。


「?」


 だが同時に違和感を覚える。土はまだ湿っているように黄褐色であり最近掘り返されたかのように思える。


(こんな町から遠く離れた山で?)


 動物の仕業かと思ったが、気づいたときにはアステラはその地面を手で掘っていた。なんとなく無視できない存在だと思ったからだ。


 事実、その予想は当たっていた。


「これは……隠し階段?」


 土から現れたのは錆びついた鉄の扉。かなり年季が入っていて、持ち上げるのにアステラは苦労した。


 そして扉を開けると下へ続く階段があったというわけだ。


「けどなんでこんなところに?」


 アステラは疑問に思うが、どのみち今の自分には関係ない。何より軽い好奇心でここに潜ってキトノグリウスに遭遇したら最悪だ。


 アステラはそのまま扉を閉めず、そのままその場を去ろうとした。


 その時


「……羅黒さん?」


 その階段からわずかばかり声がこちら側に響いてくる。その声はどことなく白髪の少年の声に似ていた。


「……」


 アステラが熟考の末に重い足取りで階段を下りていった。


 仮に羅黒がいるなら合流できるに越したことはない。今の体の状態で逃げ切れるかどうかアステラ自身も不安だった。


 それ以上にアステラを突き動かしたのは直感。今ここでいかなければならないと思ったからだ。


 階段を下りていく。


 その先は外の光が届いてないのかどこまでも薄暗くそして湿っていた。


 






 羅黒の視界を覆うようにほこりが辺りに舞い上がる。


「させん」


「っち!」


 灰賀はほこりの弾丸を滅多打ちにし、羅黒の接近を許さない。


 先ほどから防戦一方だ。序盤こそ羅黒の優位に戦いは進んでいったが調子を取り戻したのか灰賀は中距離での攻撃を繰り返し、確実に羅黒にダメージを蓄積していった。


(近づけない……!)


 仮にダメージ覚悟に灰賀に突っ込んでいっても灰賀は背からほこりをジェット機のように噴出し、飛んで行ってしまいまた距離を離される。


 理性の手放したピークは過ぎ去り、羅黒の心に少しずつ緊張が走る。


「本当にしぶとい……」


 灰賀は優雅にロボットアームの上に着地する。


「だが、小手調べはすんだ……本気でいくぞ」


 途端、灰賀の表情が消える。

 

(来る!)


 反転。すぐさまその場から離脱する。


蝕虫追蛇(しょくちゅうついじゃ)アッ!」


 ほこりがうねりながら突き進む。障害物すらぶち抜いて羅黒に急迫。それはさながら蛙を飲み込まんとする蛇のように進行する。



「ぐっ!」


 突き進むほこりの突撃を横に飛びのいてぎりぎりのところでかわす。


 が


「無駄だ」


 灰賀の声に呼応するようにほこりの大進行は空中で大きく弧を描き、羅黒の進路に転ずる。


(追尾っ!?)


 予想外の攻撃をかわしきれない。


 大質量に押され、いくつもの壁を突き破られ羅黒は地面へと突き落とされる。


 だが、灰賀の技の応酬は止まらない。


黒天旋風(こくてんせんぷう)ッ!」


 竜巻が舞う。


 大勢を整える暇すらなく、羅黒の体は暴雨に巻き込まれる。


 空中で嵐に遊ばれ、上下の判断がつかない。


「っ!出力装填(バーストオン)

 

 激流にのまれるさなか、羅黒は義足を引き絞る。


 体が空中で立て直せぬ中、壁に接近したのを見計らい義足で壁を蹴りつけ叫ぶ


解放(リリース)!」


収縮から解放された義足は爆発的な瞬発力を生み出し、灰賀との距離を一瞬にしてつぶす。


 しかし


廃沈(ふちん)


 呪文のようにささやかれた技とともに、羅黒の足場が歪む


「言ったはずだぞ、小手調べはすんだと」


 羅黒が着地したのはただの床ではない。


 足場はほこりで埋め尽くされ、まともに踏ん張りがきかない。


「くっそ!」


 暴れまわった末、なんとかほこり地帯から脱出するも視界に映った灰賀の背後には無数のうねりが顕現していた。


 高出力の魔力を掲げた右手に集中させ、瞠目する羅黒をよそに技を発動。


蝕虫追蛇(しょくちゅうついじゃ) 百足連(ひゃくそくつらね)ッッ!」


 


 先ほどいくつもの壁をぶち破るばかりか羅黒に追尾してきた技。

 

 ムカデのごとく、いくつものうねりが羅黒に迫る。


 反射でかわしてしまうも、それが無意味だと気付いたときには遅かった。


「っ!」


 後ろに飛びのいたと同時に、蝕虫追蛇が方向を転換。羅黒に直進する。


 眼を吊り上げながら必死に身を守るべく、義手をガードに回す。


 鈍重な一撃を一発、また一発と受け止めるもそのたびに義手がきしむ。


 そして


「なっ!?」


 十一発目にしてついに耐えきれず、義手が遥かに吹き飛んでしまう。


隻腕となった羅黒に為すすべはない。自身を囲うように向かう残りの蝕虫追蛇をすべて食らってしまう。


「がっっ!?」


 爆発音とともに、決河の勢いで部屋の橋まで吹き飛ばされる。


 死に物狂いで立ち上がるも膝が揺らぐ。先の未来の自分自身との戦闘が確実に効いていることを如実に表している。


 なんとか踏ん張る羅黒。だが、とどめを刺すかのように灰賀から膨大な魔力があふれ出る。


 収束。


 そして、鈍い色が拡散する


「これで幕引きだ……粉塵の(やしろ)


 灰賀の体からほこりが噴き出したかと思うと、瞬く間に部屋がほこりであふれかえる。


 ほこりが辺り一帯に渦巻き、羅黒は砂嵐の中にいる錯覚に陥る。


「視界が……!」


 何も見えない……


 ほこりの影響で完全に視界がふさがれてしまう。灰賀の位置はおろか、自分の居場所すらまともに分からない。


―――ドン


 自身の背で強烈な何かがはじける


 ほこりの弾丸。隻腕の状態で四方から弾丸が続けさまに飛来する。


「っ!」


 バックステップで何とか躱すも、その足取りは常時と比べかなりおぼつかない。


「よく耐える……だが、どこまで持ちこたえられるか、見ものだな」


 どこからか灰賀の声が聞こえるもこの嵐の中、居場所を探すのは不可能に近い。なにより羅黒の体にはこれ以上ないほどダメージが刻まれていた。


(いくら瀕死とはいえ、ヘッドバット二発とフルディングエルダス一発をまともに食らったのが痛すぎた)


 これが初めから灰賀が狙っていたことだろう。視界不良で羅黒は一方的に攻められる。


 幕引き


 近距離戦闘(インファイター)の羅黒相手に灰賀は二度と羅黒の射程に入らないつもりだ。対して羅黒は灰賀の位置を掴む手段がない。完全に打つ手がなくなった。


 このまま羅黒が倒れるまで灰賀は姿を現さない。この状況は限りなく詰みに近い


 体の奥底が怒りで熱くなると同時に、肌に冷たい汗が流れていく


 視界のままならぬ中、止まらぬ射撃。ダメージの超過、隻腕という状態で羅黒は確実に死の淵に追い詰められていった……


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