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43話 捕らわれのアステラ③


 砂埃が天井から体に落ちてくる中、アステラはただ必死に走っていた。変化のない廊下が続いており、時折視界に入る工場内の機器を見るところどうやらここは工場跡らしい。それをキトノグリウスが少しばかり手をいじってアジトにしたのだろう。


 (爆発の影響でしょうか?追手が誰もこない…………………)


 これほどの騒ぎが起こっているのならば、アステラの脱出を防ぎに来るために誰かしら来るのが常道だ。


 よほど爆発に戸惑っているのか?それとも…………………………………


 気づけば、アステラの目の前には出口が見えていた。扉は開かれていて、外は緑が生い茂っており、宵闇が辺りを陰で覆っていた。


 とにかくここから出なくては………………話はそれからだ


 アステラを縛り付けていた牢から脱出しようと外に足を踏み出そうとした


 その時。


 「―――っつ!」


 視界の隅から灰色の何かがアステラに向かって飛来する。直撃の瞬間、何とかその奇襲に気づいたアステラは急ブレーキを踏んで後方へと飛び回避するも外の土を踏みことはかなわなかった。


 「どうやって拘束を解いたか知らぬが、其方の悪運もここで終わりだ。大人しく捕まっておけば、指の数本で済ませておくぞ」


 「灰賀久(はいがひさし)っ!」


 灰賀を視認すると同時にアステラはすぐさま振り向き、全力で工場内へと逃げ込む。先ほど自身をとらえた相手。どう考えても勝ち目はない。ならばこその逃げの一択。


 「逃がすと思うか、娘」


 灰賀も自身の背からほこりを放出することでそれを推進力に地面すれすれを飛び、アステラを追跡する。


 後方を振り向くとほこりの弾丸が迫っているのに気づき、アステラは横道に飛びこむ。


 転がり込んだアステラは勢いそのままに前転の要領ですぐさま立ち上がる。


 スピードは灰賀が上。爆発の影響で天井から石くずが落ちており灰賀の進行を多少妨げているから何とかなっているがこのままではいずれ追い付かれる。かといって、まともに勝負に行くのは愚策。


 だがこのまま建物内に居続けるのもまずい。いつ天井が崩れ落ちてもおかしくはない。


 何とかして灰賀を巻かなければ


 (けどいったいどうしたら………………………………ん?)


 アステラはふと肩に何かがついていることに気づく。ふき取ってみるとそれは灰色の細糸を固めたようなものだった。


 (これはほこり…………………?)


 おそらく灰賀の神秘だろう。ほこりの操作。先ほどほこりを圧縮した弾丸をアステラに放ってきたのがアステラの肩をかすめて少し付着したのだろう。


 (ほこり……………………だったら弱点は………………)


 アステラの中で一つの作戦が浮かぶ。成功確率は半分にも満たない。だが、やらなければどのみち死ぬ。


 アステラは覚悟を決め、次の曲がり角で息をひそめて待ち構える。物音を絶てぬようにひっそりと指輪に収納されている銃を二つ取り出す。


 一つはとくになんて変哲もないただのピストル。これで灰賀を仕留められるとは思ってない。本命はもう一方


―――ただしこっちはおもちゃ。


ふざけているようだが、灰賀の神秘に対してこのおもちゃが手持ちの中で一番いい。


 魔力を集中し、二丁の銃に魔力を込める。

 

 「神秘開放『魔弾生成(まだんせいせい)』」


 アステラは指輪によってさまざまな神秘を扱えるが、アステラ本人が保有している神秘も当然存在する。


 『魔弾生成』


 魔力を消費することで弾丸を生成するという特に代わり映えのしない能力。


 「どうした、逃げるのはもう終わりか?」


 全ての準備を終えたアステラは曲がり角から身を現す。彼我の間わずか10M。アステラはわずかばかりの望みにかけ、前傾すると同時に銃を構える。


 発砲と同時にアギトへと肉薄する。だが、灰賀は自分を捕まえたときと同じように顔色一つ変えずにほこりでガード。


 「この期に及んで捨て身の特効とな、学習能力がないのか?」


 だが、アステラも動揺せずそのままもう一方の武器を構える。


 (本命は………………こっちです!)


アステラの構えた武器とすら呼べないモノを見て、ここにきて灰賀の双眸が少しばかり見開かれる。


 「…………………………なんだ、それは?」


 アステラの『魔弾生成』は文字通り弾丸の生成だが、作成する弾丸も種類を選べる。対象にに着弾した瞬間爆発する弾丸などいろいろだ。


 またアステラがライフルだろうがロッケットランチャーを使おうともその武器に合うサイズの弾丸を用意できる。言い方を変えれば、()()()()()()()であれば『魔弾生成』はしっかり作用するのだ。


 それがたとえ()()を発射するモノでなくとも


 それがたとえ水()()だったとしても


 「発射ァ‼」


 眼前の恐怖を押しのけるように叫ぶと同時に、体を覆いつくすほどの水が灰賀に襲い掛かる。


 勢いこそ全くない。それこそ人体に傷一つつけられないだろう。


 水はほこりの防御によって灰賀の体にたどり着くことすらない


 だが……………………


 「な!?」


 灰賀の顔が歪む。ほこりの操作ができないことに気づき、驚愕の表情で目を見開く。


 (狙い通りほこりが水分を吸って、操作できてない…………………!)


 灰賀を倒すなど鼻から考えてすらない。


 狙いはただ一点。灰賀に脱出することができるスキを作らせること


 (脱出するなら今しかない……………………………………………………!)


 戸惑いを隠せない灰賀を置き去りにし、足が千切れるほどの全力疾走。まさに千載一遇のチャンス


―――のはずだった。


 ピキリ


 何かがひび割れる音がする。


 音源はアステラの頭上だ。顔を上げるとそこには雷のように天井にひびが入っていくのが見えた。そしてそれは爆発によるものではなく、明らかに人為的なものであった。


 何よりアステラにとって最悪なタイミングだった。


 ピキリ、ピキリ


 「っつ!!!」


 全力でその場からの離脱を試みるが無情にもそれは崩れ落ちてくる。


 ついに限界を迎えた天井は完全に瓦解し、崩落の原因とともにアステラに向かって岩の雨が降り注ぐ。


 見上げた先には滝のように大質量のほこりが天井を突き破って落ちてくる。


 ほこりの大瀑布によって天井は完全に瓦解し、がれきがアステラに容赦なく襲い掛かる。


 「つ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 必死に逃げるもついに殺人的ない石雨がアステアの脚をとらえる。


 巻き上がる砂塵。


 しばらくして砂埃が晴れるとそこには不服な顔をした灰賀がアステラを睨めつけていた。


 「………………………ずいぶんとてこずらせてくれたな。この屈辱、安くないぞ」


 天井裏にもほこりを設置していたのだろう。アステラに逃げられそうになり、念のため用意していたほこりでアステラの頭上の天井を崩したというわけだ。


 アステラの右足には先端が鋭角ながれきが深々と突き刺さっており、身動きが取れない。羅黒なら平然と動くだろうがアステラにはそうはいかない。


 建物が崩れゆく中、灰賀が鋭い視線のままアステラのもとに歩み寄る。


 完全に失敗。もうなすすべない。


 「さて、暴れられても面倒だ。足の一本キリ落ちしたところで差しさわりはないだろう」


 振り上げられる灰賀のナイフ。


 自身の結末を悟り、恐怖から逃れるべくせめてもの抵抗として目をつぶる。


 「っつ!」


 まさにその時。


 一条の閃光が灰賀に飛来する。


 「!?」


 完全に不意を突かれた灰賀は防御する暇もなく吹き飛ばされていく。


 灰賀を蹴り飛ばした人物はアステラの目の前で音もなく着地する。


 「今のうちに逃げろ」


 感情のこもらない声でアステラを助け出した人物は黒のフードで覆われていて全身が見えなかった。


 「あなたは……………………!」


 その人物はカメラで見た羅黒の家に侵入していた人物。それがどうしてここに?


 「あ、あのいったいこれは……………………?」


 「説明する時間はない、それとももう一度あいつに捕まりたいか?」


 黒フードの人物が指さす先には鬼の形相をした灰賀ががれきの山から立ち上がっていた。あまりの怒りに灰賀の背後に黒いオーラのようなものが見えているようにアステラは錯覚した。


 「貴様ァ…………………………!(ひさし)相手にただで済むと思うなよ…………!」


 状況にはついていけないが、黒フードは自分を助けてくれていると解釈する。黒フードに簡単に会釈すると、足を引きずりながらその場から離れていく。


 「逃がすと思うかァ!!!」


 「お前の相手は俺だ」


 間にも止まらぬ速さで追ってきた灰賀とアステラの間に黒フードが割り込み、振り下ろされたナイフを受け止める。


 目にもとまらぬ攻防を背後に置いていいき、何とかアステラは出口へとたどり着く。


 緊張から解き放たれ、工場から少し離れたところで木に寄りかかる。


もう足が限界だ。逃げるにしても少し休まなければ。


 「それにしてもあの黒フードの人…………………見覚えが…………」


 休んでいる中、黒フードの人物の正体に思いめぐらす。カメラ越しには感じなかったが、実際に見てみるとアステラは既視感を覚えた。


するとアステラの脳内にとある人物が思い浮かぶ。


 そんなはずはない。アステラにもそんなことわかっている。


 だが、どうしてもその考えが離れてくれない。


 月明かりが暗闇をわずかばかり照らす中、アステラは木に寄りかかったままその場からしばらく動けないのだった。


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