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40話 電話

 






 四月にも関わらず窓の外には事態の困窮さを示すかのように雨が降り続けている。


 あれから俺たちは周囲を必死に探し続けた。だが、キトノグリウスの痕跡を示すようなものは何一つとして存在せず、完全に逃げ切られたということだけがその調査で分かった。


 その後、どうしようもなくなってしまい俺たちはそれぞれの帰路に着くことになった。


 だが、その足取りは重かった。


 『………………………ごめん。私のせいで』

 

 『すみません。私が雨の中でも嗅ぎ分けられればアステラちゃんも………………………………』


 別れ際に神室と天城先輩にそれぞれ頭を下げられた。そのことが余計に苦しかった。二人は何も悪くないというのに……………………………


 (アステラを外に連れ出したのがまずかったのか?けど、家に侵入されたわけだし…………けど、結局のところさらわれている)


 もともとアステラを攫わるということはそのままゲームオーバーを意味していた。だから、アステラをキトノグリウスから守るために必死になっていたのだ。


 攫われてしまえば、アステラが自発的にこちらに信号か何かを送らない限り居場所が突き止められない。キトノグリウスがそんなことさせるとも思えない。


 残すは琴音が街中の監視カメラからキトノグリウスのメンバーを見つけることだが、望みは薄い。ここまで必死こいてアステラをさらったやつらがここにきてそんな初歩的なミスを犯すわけがない。


 手詰まり。その言葉が頭をよぎる。


 「くっそ!」


 勢いよく拳を壁に打ち付けるも何かが返ってくるわけでもない。


 時間がたてばたつほどまずい。アステラに吐くだけ吐かして、利用価値がなくなった瞬間に殺されることも十分あり得る。今この瞬間も何されているか分かったモノじゃない。


 体に冷や汗がひたすら流れ落ちていくも、突然アイデアが浮かぶわけでも救いの手が伸びてくるわけでも―――


 


 

 スマホが振動する。ただの連絡ではなく電話のようだ。


 だが、見たこともない電話番号だった。不思議に思うもとりあえず出ることにした。


 「―――翔進羅黒だな」

 

 「!?」


 心臓が跳ねる。自分の名前を突然呼ばれたこともそうだが、突然電話の先から機械音のような声が聞こえてくることにも驚いた。


 (ボイスチェンジャー?)


 その声は明らかに地の声でないのは明らかだった。どうやら機会を通して声を変えているらしい。正体を隠したいということだろう。


 「……………………………そうだ」


 少しの思索ののち、怪しく思いながらも謎の人物からの問を肯定する。


 「アステラが攫われたらしいな」


 「!?なんでそれを!」


 アステラのことを知っている。それどころかアステラがキトノグリウスの手に落ちたことまで……………………!


「そうだな、あまりまどろっこしいことは嫌いなんでな。単刀直入に言う、アステラ居場所を教えてやる」


 「!?」


 何度目ともわからぬ衝撃を受ける。こいついったい何者なんだ?どうしてアステラのことを知っている?


 さまざまな疑問が心のうちから湧き出てくるが声の主は止まることなく俺に情報を与え続ける


 「ただし、誰にも言うな。アステラを救出に行くのはお前ひとりだ」


 「………………………………………!」


 ……………何が狙いだコイツ 


  落ち着け、一度深呼吸して情報を整理しよう。


 声の主は不明。アステラのことを知っていることは嘘ではない。それは確実だ。アステラが攫われていると知っていることも本当だろう。


 不確かなのはアステラの居場所を知っているということだ。それに俺一人で来いというのもどっからどう見ても罠だ。


 手持ちの情報だけではさすがにおぼつかなさすぎる。


 「……………………いくつか質問がある」


 「なんだ?」


 「お前は何者だ?」

 

 「黙秘する」


 ためらいもなくバッサリと斬られる。だが、ここで引くわけにもいかない。


 「悪いが質問に答えられないなら協力できない」


 「そんなことを言える立場か?ひっ迫している状況だろ」


 「だからこそだ。不確かな情報を信じるわけにはいかない。そのせいで事態がより一層悪化しかねないからな」


 「……………………………………」


 俺の返答に電話のの主は押し黙る。沈黙が続く。窓の外には相変わらず雨が降り続け、地面には水たまりができている。


 「…………………完全に正体を明かすことはできない。が、お前の言う通り情報なしで信じろというのも酷な話だ」


 しばらくの熟考のすえ、声の主が口を開く。


 「翔進家に侵入した人物と言えばわかるだろう。お前たちもカメラ越しに見ていたはずだからな」


 「……………………………!」


 ラーメン屋にいたときに移った黒フードの人物。性別は不明だが、あの時俺を殺すとか言っていたやつだ。


 「あの時のやつか…………………というか勝手に人んちに入りやがって…………………まあ、今はいいや。次の質問だ。お前はキトノグリウスなのか?」


 「いや、それも違う。というよりむしろキトノグリウスとは敵対関係にある。アステラをやつらから助けるという目的はお前と同じだ。実際、刃上利宗と黄広アスマは私が殺した。実際、前者は心臓に穴が開いているとお前も聞いたのではないか」


 「………………!あれはお前の仕業だったのか!?」


 刃上利宗はアステラのことを最初に襲った人物、俺が倒した後、殺されていたらしいがそれもこいつの仕業ならしい。


 といか黄広もアギトと一緒にいないとは思っていたが、こいつに殺されていたのか


 殺しを平然と行うなかなかやばい人物だが、アステラを助けるという目的は俺と一致している。普通ならまず疑うべきだが、俺は不思議とその言葉は嘘ではないと確信していた。ただのカンでしかないがそこについては信じていいと思っている。


 キトノグリウスと敵対していてかつアステラのことを知っている人物。まるで人物像がつかめない。いったい何が目的で……………


 情報量の多さに圧倒されていたが、最後にもう一つだけ聞いておかなければならない。


 「最後の質問だ。どうやってアステラの居場所を知った?キトノグリウスが情報を漏らすとも思えないんだが」


 「黙秘する…………………………………………と言いたいところだがそれではお前も納得しないだろうから教えてやる。答えはキトノグリウスも一枚岩ではないってことだ」


 「……………………………………………?どういうことだ」


 「内通者がいる」


 「!?」


 キトノグリウスの中にスパイがいるということなのか。そいつがこの電話の主にアステラの居場所を教えているということか!


 「場所の詳細な情報はまた後で送る。()()()


 「ちょ、待て!」


 俺の静止の声も聞かずに強引に電話が切られる。電話をかけなおしてみるも『おかけになった電話番号は現在使われておりません』と返ってくるだけだった。


 「………………………………」


 通話が終了したとたん、時が再び動き出したかのように雨の音が耳に入る。


 ぴろんと、スマホが鳴る。位置情報が送られてきた。ここから割と遠く場所は山の中らしい。あて先は不明。ここに来いということだろう。


 「…………………………………………」


 黒フードの正体など依然として謎のままである。大人しく指定の場所に行ったとしてもアステラを取り戻せるかはかなり怪しいだろう。


 が、現状なすすべもないのは事実である。


 これから都合よく救いの手があるとは思えない。


 いま目の前に出された手はもしかしなくとも地獄への誘いだろう。だが、それでも行くしかないのだろう。


 罠だろうが、なんだろうがやるしかない。


 俺は覚悟を決めて指定の場所へと向かっていった。


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