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36話 羅黒VS黄広②

 

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 黄広(きおう)の両拳から放たれた雷槍は寸分たがわず羅黒の肉体に命中し、すさまじいまでの電撃が体中を迸る。あまりの激痛で悲鳴を抑えられない。


 食らってはならない攻撃を直撃してしまうもすぐさま追撃に備え、構える。視界には獲物をしとめる虎のごとく鉤爪を突き立て向かってくる黄広の姿が映った。


「そう来なくちゃなあ!」


 黄広の全力攻撃。それすらも絶えて見せる羅黒に獣のごとき笑みを浮かべながら鉤爪を振り下ろす。


「ッッ!」


 横に飛び、すぐさま反撃へと移る羅黒。その姿を歪んだ笑みで見る黄広


 一進一退の攻防の攻防が繰り広げられ、空中には火花が散った。


 黄広の鉤爪を羅黒がいなす。羅黒の打撃を黄広が時には受け止め、時には磁力の操作で羅黒の必殺の義手をそもそも黄広の体に届けさせない。


 互いの位置をしきりに入れ替えながら高速戦闘が行われる。


 しかし、黄広の勢いに羅黒は徐々に押されていく。


(くそ、さっきの電撃のせいで体がしびれて……!)


 何とか致命傷こそ避けているも羅黒の体にはいくつもの切り傷が刻まれていく。


 激しい攻防のさなか、羅黒が殴打によって軽く後ろに飛ばされると再び黄広は鉤爪を振り上げる


「バリアライズ!」

 

 金属製の鉤爪に電気を流し、電気抵抗によって鉤爪に熱をまとわせる。先の一撃で羅黒の指を二本きり取った技。


「っ!」


 同じ轍は踏まないとでも言うように羅黒は右の義手を構える。生身では確実に防げないのは先ほど知った。故の対策。


 だが、防御の構えと同時に羅黒は気づいてしまった。それは愚策であると。


 羅黒の義手が何かに引き寄せられるかのようにわきへとそれる。


―――磁力操作


 羅黒の義手は黄広の鉤爪の軌道外へとそれてしまう。羅黒に決定的なスキが生じる。


「くっそ」


 左手をとっさに構える。


歪んだ笑みを浮かべながら鉤爪は振り下ろされる。


 そして。


 次の瞬間には鮮血が口角を釣り上げた黄広の顔へと飛び散る。


 何かが宙を舞う。


 それが羅黒の左腕だと認識するのに時間はかからなかった。


「―――っつ~~~~~~!!!」


 切断された左腕の断面から泉のごとく血がしたたり落ちる。だが、敵にとって血というのはむしろ殺意の活性剤でしかない。


「もらった!!」


 血濡れた鉤爪を構えなおし、とどめとばかりに羅黒の首元に突き刺さんとする。

 

「―――!」


 直後。


黄広の視界から羅黒の姿が消える。


「なっ!?」


 驚愕の事実に双眸を見開くも、鉤爪は空を切る。


出力装填(バーストオン)


 黄広の()から声が聞こえ、同時に義手が引き絞られる機械音が響く。


 黄広の眼球を自身の下へと動かす。そこにはエビのように上半身のみをそらしている翔進羅黒が義手を構えていた。


 先ほどの突きを地に足を付けたまま、上半身のみを地面と平行になるほどそらしたため黄広の視界から外れたということに気づく。


(フルディング)地吼拳骨(エルダス)!」


 不規則な体勢から黄広のあごを打つ上昇拳(アッパーカット)


「っが!」


 予想外の反撃に磁力操作の暇もないまま黄広の体は宙に浮く。千載一遇のチャンスと見て、上体を起こす勢いそのまま宙に浮く黄広へと拳を向ける。


 直後。


 先ほどの意趣返しとばかりに黄広の眼球が羅黒を向く。


「バリブリング!」


「っつ~~~!」


 指先からの電撃砲が羅黒に直撃。決定打を与えようとした者が逆にダメージを食らってしまう。


ゆうゆうと着地の姿勢を取ろうとする黄広。


 だが彼は予測できてなかった。目の前の少年がどれほど頑丈なのかということを。


「関係…………ねえよ!!!!」


 渾身の電撃砲に羅黒はひるむことなく黄広の顔面に渾身の回し蹴りを叩き込む。


 黄広の体が吹き飛ぶ。


 追撃にかかろうと地を蹴りこむ瞬間、羅黒の眼が見開かれる。


 「クソガキがァ!!」


 羅黒は左腕を切断されるも黄広の攻撃を何とか耐え、そして反撃にすら出た。だが、それが黄広の逆鱗にふれた。


 黄広の瞳孔が急速に広がり、獣のごとき雄たけびを上げる。


―――瞬間。


 吹き飛ばされた黄広はすでに羅黒の目の前にいた。


「な!?」


 一閃


 黄広の拳が羅黒の腹を殴りつけ、羅黒の体がくの字に曲がる。


「かはっ!」


「こんなもんじゃねえぞ!」

 

 怒り狂った獣のように黄広は乱暴に髪の毛を掴かみ、そのまま壁に顔面が押し付け、疾走する。


 すさまじい振動とともにすぐさま視界が赤く染まっていき、羅黒の顔には深い切り傷とともに細かいがれきが突き刺さっていく。だが、黄広の怒りはそれでも収まらない。

 

「なめやがって、ガキが!」


 抵抗する暇もなくそのまま地面へと投げつけられ、倒れたところへ振りかざした足が突き刺さる。


「がっ!」


 満身創痍の羅黒にとどめの一撃とばかりに黄広は指先に魔力を込める。


「バリブリングッ!」


 雷撃は羅黒の体を寸分たがわず直撃し、電撃砲の余波で小さくない面積の床が抜けていた。


 荒い鼻息を立てながら、黄広はすでに息絶えているだろう少年のもとへ唾を吐く。


「調子に乗りすぎたな。てめえみたいなガキが俺を倒せるわけなんざねえんだ」


 だが、目標を排除したにも関わらず黄広のいら立ちは止まらなかった。黄広は歯ごたえのない相手は嫌うが、生意気にも自身に勝とうと粋がる人間も嫌いだった。あろうことかあれほど小さな子供に手傷を負わされたことが黄広の癪に障った。


「いまいち気が晴れねえな。まあいい、墓前でてめえの大好きなあのアステラとか言うガキを遊んでから殺しといてやるよ」


 黄広は灰すら残さないとでも言うようにさらに羅黒がいるであろう場所に電撃を打ち落とす。


 轟音とともに床に穴が開く。 コトは決したとでも言うように黄広はその場から背を向け、去っていく。






「ったく、急にキレやがって………」


「…………………は?」


 だが、彼は再び見誤った。


 彼と敵対している少年がどういった存在なのかを


 常人が死にかねないケガも平然と耐え、暴雷すらも受け止めてしまう異次元の頑丈さの持ち主だということを。


「なんで―――なんで生きてやがる!?」


「体が頑丈なんだよ、それしか存在価値がないんでな」


 翔進羅黒がそこにはいた。


 左腕は切断し、血もいまだ止まっておらず衣服もズタボロに切り裂かれていた。


 だが、不敵なまなざしが黄広をとらえていた。


「そういえばさっき、俺の墓前でアステラをどうのこうのするとか言ってたな」


 左腕から流れる血が地面にまだら模様を作る。


「悪いがそんな未来は訪れない。ここでお前は終わりだ」


 体を低く構え、眼前の敵を見据える。先ほどと同じく、生意気にも黄広に勝とうとしたふてぶてしさと確固たる意志を含んだ眼差し。


 黄広の血管がプチンと切れた。


 「なるほど。ああ、うぜえぜ。もういい、目障りだ。死ね」


歪んだ笑みを浮かべると同時に莫大な魔力が黄広の両拳へと集中する


 ケーテルアウト


 灰ビルに侵入した際に黄広から食らってしまった極大威力の雷槍。その一撃はまるで 雷霆のごとき。再び直撃すれば今度は立ち上がれるか羅黒にもわからない。


「ッフ!」


 羅黒は考えるよりも先に駆けだしていた。手負いの身にも関わらずはやてのごとく黄広のもとへと迫る。


―――だが、


「もう遅い!」


 充電完了


 黄広は今度こそ眼前の敵を焼き滅ぼすべく神雷を落とすがごとく、両拳を振り下ろす。


「ケーテルアウト!!!」


 暴雷は羅黒を直撃する瞬間


「―――!」


 羅黒が放り投げた義手へと逸れた。


「な!?」


 義手が避雷針代わりとなり、黄広の必殺の一撃を防ぐ。


 予想外の対策に目を見開く黄広だったが、すぐさま迎撃態勢を取る。が、勝機が掴んだのか羅黒の顔が笑みが浮かび、勢いそのままに羅黒が飛び蹴りをかます。


 当然、防御を試みる黄広だったが――


「な!?体が……!?」


 ここにきて黄広の動きが致命的に鈍る。飛び蹴りをもろに食らい黄広の顔が苦渋で歪む。


「あんたは確かに強い。それは認める」


 羅黒は飛び蹴りの反動そのままに後方へと飛び空中で弧を描きながら落ちていく先ほど避雷針代わりにした義手を回収する


「けど、あんだけ大技を連発すれば魔力切れも起こすのも当然だろうな」


 先ほどまで羅黒を苦しめ続けた雷撃はすさまじい威力を誇っていた。が、その威力に比例して当然魔力の消費も多くなる。加えて、黄広は過剰適正者ではない。魔力量はせいぜい中の上といったところ。

 

 であるのならば、羅黒が大技をしのぎ切れれば黄広は魔力切れを起こすのは自明の理。羅黒の狙い通り長期戦となり自然と技のキレがさえる。


「魔力切れのあんたと俺、どっちが強いか試してみるか」


鬼の形相で拳を放ってくる黄広、それに対応する羅黒。


 連撃に次ぐ連撃。


 「っ!」


 だが、黄広の動きは大技を多用した反動により格段に精度が落ちていた。


 一方の羅黒は得意の体力勝負に持ち込めたことにより左腕を失い隻腕にも関わらず、凄みを増していった。


 片腕に押されている事実にいら立つ黄広。だが同時にその義手さえなくなれば羅黒の敗北だということを黄広は感じ取っていた。


「っつつつつつうああああああああああああああ!!」


「!!」


 黄広に残ったなけなしの魔力での磁力操作。羅黒の義手の接続が切れ、羅黒の両腕は完全になる。


「もらったァ!!」


 今度こそ勝利を確信してか舌なめずりしながら、向かってくる黄広


出力最大(しゅつりょくさいだい)


 が、羅黒の顔には雲一つ浮かばず泰然とした表情で顔を後ろで溜める。


 それは羅黒が持ちうる技の一つ。(フルディング)地吼拳骨(エルダス)と比べると隙も大きく、当たりづらい。加えて不格好。しかし、威力のみに焦点をおけば最強にして最硬の技。

 

「バリアライズ!!」


 黄広の鉤爪が繰り出される。羅黒は迫りくる雷爪に力の臨界点を迎えた頭蓋を振り下ろす。


根性鉄槌(ヘットバット)!」


 瞬時に砕け散る黄広の鉤爪。


「は?」


鉄槌は鉤爪を破壊するだけにとどまらずそのまま黄広の顔面へと激突する。


「あああああああああああああああああああ!!!」


「がああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 羅黒の渾身の頭突きは黄広の顔面へとめり込んでいく。 血しぶきをまき散らし、黄広は地面に打ち落とされ―――その後ピクリともしなかった。


「この技は強くはあるんだが、隙だらけなうえにださいんだよな……………ってもう聞こえてねえか」


 黄広が動かないことを確認するとアステラを追いかけるべく羅黒はすぐさま踵を返したのだった。


黄広アスマ 

ランク:ハザード3

神秘『森雷帯生』:電気の生成

魔力  D:64

俊敏性 B:83

力   C:71

器用  H:25

耐久  D:66


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