35話 羅黒VS黄広
「そらそらどうしたァ!そんなもんかお前の実力は⁉」
「っっっつつつつ~~~~~~~~~!」
黄広アスマの体から電撃が迸る。直撃こそ避けるも電撃が肩をえぐり、羅黒の肩から鮮血が飛び散る。
羅黒は先ほどから防戦一方の展開にさらされていた。というのもこの黄広アスマという人間がけた違いに強い。それこそアギトと比べても格段に
(ハザード2.5…いやハザード3だろうな。電撃の威力がシャレになんねえ)
黄広の手の甲には猛獣のごとき爪が備え付けられている。それだけで肉体など容易に切り裂けそうものだが、黄広の恐ろしさはそれにとどまらない。
音を置き去りにしようかというスピードで鉤爪を振り上げ、羅黒に肉薄する。一瞬で羅黒の懐に入り、回避のスキも与えずに腕を振り下ろす。
「バリアライズ!」
「またそれか!」
振り下ろされた鉤爪を生身の左腕で防御する。まるで金属同士が衝突したかのように火花を生みだす。
常時ならばこの程度の攻撃を羅黒は生身でしのげるのだが――
「あっつ!」
黄広は鉤爪に電気を流し、電気抵抗によって人体を焼き切る恐ろしい熱爪が完成する。
拮抗もつかの間、ガードを貫き指がいくつか切り飛ばされる。一瞬、羅黒の顔が苦痛で歪みすぐさま後ろへと飛ぶがそこで黄広の顔が笑みで浮かぶ。
「逃がすわけねぇだろ!」
黄広が顔の前で手をかざすと、右腕が、左足が引き寄せられていく。双眸が歪んでいくのが自分でもわかった。
黄広に苦戦している原因の最たるものとしてこれが挙げられる。
磁力。
羅黒の右腕と左足が金属製の義手、義足なため磁力操作の格好の的なのだ。
「そう何度も……食らってたまるか!」
右足をすぐさま地面へと踏み込ませ、地中へめり込ませる。引き寄せられる体を何とか踏ん張らせてその場にとどまらせる。完全に黄広のもとに引き寄せられたらそれこそ再びあの爪の餌食になりかねない。今度はそばに落ちている二本の指だけでは済まないだろう。
だが、羅黒の抵抗を予想していたのか特に焦る様子もなくにんまりとした表情のまま銃のような形で指を羅黒のいる位置へ構える。
「だったらコイツはどうかな!」
指先に電気が込められる。それを見た瞬間、羅黒は瞬時に理解する。
電撃砲
羅黒は瞬時に回避に移ろうとするが、すぐさま気づいてしまう。後ろにはまだ逃げ遅れている人たちがいる。そこはちょうど黄広の射線上。自分がかわせば確実にあの人たちが死ぬ。
「くっそ!」
覚悟を決め、左腕を顔の前で構える。
「バリブリンブ!!!」
轟音とともに電撃砲が発射される。爆音とともに、電撃砲は羅黒へと被弾する。常人ならば丸焦げは確実。なすすべもなく命を失うだろう。
だが――
「ははっ!てめえマジで頑丈だな!いったいどういう体してんだ!」
土煙が晴れるとそこには五体満足で立っている翔進羅黒がそこにはいた。もっとも服がぼろぼろに焼き切れ、体からは煙が上がっているが。
だが、幸いにも後ろの人間に被害は及んでおらず羅黒は安堵の息を漏らす。
だが、状況は何一つ好転していない。黄広は容赦なく周囲の人間を巻き込む。かばいながら戦っていてはそれこそじりびんだろう。さすがの羅黒もそんな負け戦を仕掛けるつもりはなかった。
黄広のことを視界に留めながら周囲を確認する。アステラのことが頭にちらつくがもう今は目の前の敵に集中するしかない。黄広はここで野放しにしていい存在ではなかった。
「にしてもなかなか楽しめるじゃねえか。アステラなんてガキに興味なかったがなかなか悪くねえ、お前、え~と」
「翔進羅黒だ。アステラに興味ねえならなんでこんなことするんだ?」
「決まってんだろ。俺が楽しいからだ。うれしいんだぜ翔進羅黒。お前みたいなチビでも強けりゃ構わねえ。強い奴を俺がいたぶり、殺す。俺はその時だけ生を実感できるんだ。他人よりも自分が優れてるって実感できるからな」
帰ってきた答えに羅黒は特に何も言わず、黄広の話に耳を傾けながら気づかれぬように周りに人がいないであろう場所を探す。すると、不意に一つの場所が見つかる。
暑熱轟高等学校は屋台やなんやらの店舗経営をする生徒が非常に多い。しかし全員が成功するわけではなく、当然失敗し破産する者もいる。そういう際は学校側が生徒を救済するが経営していた店舗まではかばえない。簡単に言うと見放されるのだ。そうした店舗は別の誰かが買わない限り放置される。
前方に灰ビルが突き立っている。高さはそれほどでもないが戦闘するには十分だろう。
「要は戦闘狂ってことか」
「そういうこった。続きを始めようぜ。もっと苦戦させてくれ。その方が帰った後の酒がうまくなるからな。お前の力はこんなもんじゃねえだろ翔進羅黒。死ぬ気でやらなきゃにどとあのガキに追いつけなくなるぜ」
黄広の煽りに心が揺さぶられるもすぐさま眼前の敵へと集中する
出力装填
左の義足を収縮させ、上体を前へとかがめる。義足は爆発寸前の風船のように細かく震える。
「言われなくとも……やってやるよ!!!」
解放!
収縮した義足を一気に開放する羅黒の技。
クレータができるほどの威力で地面をけり上げ、その威力を爆発的な推進力に変える。羅黒の体は黄広へと肉薄し前傾姿勢のまま黄広へと激突する。
「っ!」
勢いを殺さず、激突の衝突で黄広の体を宙に浮かす。羅黒の突撃はそこでは終わらず、勢いのまま黄広をその場から押し出していく。
「らあああああああああああああああああああ!」
「な!?」
黄広の体を伝って電撃がもろに伝えるも勢いは弱まるどころかむしろ強まっていく。さすがの黄広も苦渋で苦しみながらも突撃を止めない羅黒に気圧され、驚きを隠せずにいた。
弾丸のごときスピードで彼らはそのまま灰ビルの壁へと激突する。壁を粉砕し、灰ビルの内部へと入り込む。
黄広から離れ、顔を上げるとそこはまともに整備されておらず人らしき気配も全く存在しなかった。そこはまさに周りに被害が及ばない羅黒の理想としていた場所だ。
(ここならまともに戦えそうだな)
「なるほどな……周りを巻き込まないようにあの場から離れたってわけか」
土煙が晴れるとそこには黄広が醜悪な笑みを浮かべていた。
「悪くねえ場所だ。有象無象の眼をないしな。ここなら俺も気分が上がる……!」
瞬間、羅黒の本能が最大限の警鐘を鳴らす。
――今すぐこの場から逃げろと
(この魔力量は⁉)
莫大なまでの魔力量が氾濫した川のように黄広の体から流れ出す。それに相まって電撃もいっそう迸っていく。
羅黒はすぐさま振り向くと、その場から退避していった。敵に背を向け完全な無防備となるが今はそれどころではなかった。アレ(てんてん)はまともに食らえばヤバい。そう本王が告げていた。
「いい声聞かせろよォ!翔進羅黒!!!」
両手を合わせ、魔力を一点へ集める。
「ケーテルアウト!!!」
黄広の両拳が振り下ろされ、雷槍が羅黒の上より落とされる。羅黒の視界は落雷のような轟音とともに白く染まった。
羅黒の身体能力について説明してなかったのかもしれないので補足しておきます。
羅黒は彼の神秘である『超耐性』により体力および打たれ強さは常人離れしてます。それこそ100KMを全力疾走で走り抜けても息切れしないほど。
しかし『超耐性』はスピードやパワーなどは強化しないので本来羅黒の身体能力は体力以外は並みになるはずです。
ですが彼は『超耐性』によって休みが必要ない体、加えて無理を利かせられるので死ぬレベルの鍛錬をした(させられた)結果、生身でもめちゃくちゃ運動神経が良くなりました。




