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29話 強襲

「はあ、まったくとんだ災難です…」


 アステラは深々とため息をつきながら、不満を述べる


 アステラは用を無事に済ますことができるも、水で手を洗っている最中どことなく不機嫌だった。というのも外に設置されている公衆トイレということもあってかまともに整備されておらず、便器は土まみれでおまけに虫がわんさかいるという最悪な環境だった。


(外のトイレなんか二度と使いません)

 

 砂利を力強く踏みながらそう決意しトイレから出ていく。


 外に出ると琴音と羅黒が近くで待機しているのを見てアステラは軽くため息をつく。琴音からトイレの件で絶対に馬鹿にされると思っていたからだ。それに先ほどベンチで待っているように言ってのに二人とも聞いていないということもアステラの心に重みがのしかかる。


 アステラが二人に近づくと二人も気づいたように顔を上げる。


「おう、出てきたか」

 

「出てきたか、じゃないですよ。ベンチで待っていてくださいっていたじゃないですか…」


「………ああ、そうだったな。悪い」


 羅黒は特に気にしたようすもなくそう言うと、身をひるがえし公園の出口へと向かっていった。どう考えても申し訳ないと思っていなさそうだったが、そもそも羅黒のデリカシー面に関してはあきらめていたアステラだった。


「あの、どこに行くんですか?」


「琴音がクレープ食いたいって言ったんでな。これから探しに行こうって話になったんだよ。」


「ああ、なるほど」


 くれーぷというものがなんだかわからないアステラだったが語呂がすでに美味しそうなので自然と胸が弾む。というのも未来の世界ではすでに社会体制など含め完全に機能してなかったのでろくな食べ物がなかったのだ。


 足取りが軽くなるとふと琴音と目が合う。思えば、琴音から先ほどのトイレの件でバカにされると思っていたのだが、思いのほか反応が薄い。それに兄である羅黒から少し離れた位置にいる。普段ならば、それこそ磁石のようにくっついているのに。


 ふと気になったアステラは話題をふることにした。


「そういえば、先ほどの侵入者は結局キトノグリウスということで間違いないですよね?」


「……ああ、そういうことになっただろ」


「先ほどの()のフードをかぶっていた()()……いったい誰なんでしょうね?」


「そうだな、誰だろうな」


 あたりさわりのない答えが羅黒から帰ってくる。アステラは気づかれないように『収メルモノ』の神秘がこもった指輪からあるモノを取り出す。


「琴音さんはどう思いますか?」


 ゆっくりと、あやしまれぬように琴音にも話題をふる。


「ん~、私もお兄ちゃんと同じ意見かな~」


 騒々しい空間に突如銃声が響く。


 羅黒の腹部には一発の弾丸がすでに撃ち込まれていた。そして対応させる暇もなくアステラは続けざまに琴音の脚部に弾丸を打ち込む。


 あたりは突然の事態に理解が追い付かないのか沈黙が広がっていた。しかし、その沈黙を破ったのは皮肉にもその事態を引き起こした張本人、アステラだった。


「神秘開放!」


 『浮カブモノ』の神秘が込められた指輪に魔力を込める。途端にアステラの体は重力という概念を無視し、宙へと浮かんでいった。


 アステアの神秘の使用を見て、歩行者たちは最悪の事態を理解する。


 能力者の戦闘。それも町のど真ん中で。事態を理解した歩行者たちは恐怖の悲鳴を上げていき、すぐに渦中から離れようと全力で逃走を図った。


 (偽物ですか……まさかこんな早く、大胆に仕掛けてくるなんて)


 先ほどの違和感を覚えたアステラは羅黒たちに鎌をかけてみたら見事にアステラの悪い予感が的中したというわけだ。羅黒たちの家に侵入した人物は黒のフード、それに顔が隠れていたので性別不詳だったと先ほどラーメン屋で話し合ったのだ。加えて、琴音は羅黒のことを「あにーじゃ」と呼ぶ。未来世界でもけっして「おにいちゃん」とは呼んだことがないのだ。


(とにかく羅黒さんたちと合流しなければ)


 偽物に気づいたとはいえ羅黒たちから孤立してしまったアステラは全力で空中を移動していった。先ほどの偽物の神秘の詳細はいまいちわからなかったが、ともかくキトノグリウスがきていると見て間違いないだろう。


 『浮遊』の神秘で追手の来れない空中で移動していると突然下から灰のようなものが巻き上がる。


其方(そち)程度の力で逃げ切れるとでも思っているのか」


「ッッ!?」


 背から灰色のようなものを勢いよく射出して作用反作用の原理で空中へと飛んでくる男がアステラの目に映る。


「灰賀久っ!」


 栄凛高校に生徒会室見た写真に写っていた男、とくに警戒するように言われていた能力者がよりにもよってアステラの行方を阻んでいた。


 推定ランクはおそらくハザード(サード)であろう。数ある能力者の中でも最高ランク。神秘のランクが必ずしも戦闘力に直結するとは言わないが少なくともアステラのかなう相手ではないことはわかっていた。


 考える間もなくアステラは方向転換をすると全速力で逃走を図った。地面に向かって突っ込むようなスピードで向かっていく。着地のことなど考えていなかった。そんなことを考えていたらあの男からは逃げられないと本能が語っていた。


「遅い」

 

 灰賀がそう言い終わるころには灰のようなものがアステラの胴体をとぐろ巻きにしていた。

 

「っっ!」

 

 何とか抵抗を試みようと、灰賀の頭部へと発砲する。しかし灰賀は特に焦る様子もなく灰のようなものを自身の顔の前で一点に密集させて弾丸を防ぐ。


 弾丸が防がれたことに落胆する暇もないまま蛇のように灰のようなものが胴体に巻き付きみしみしと圧迫されていった。吐血と同時に、アステラの意識が次第に薄れていく。


「っ~~~~~~!神秘開放‼」


 『収メルモノ』の神秘の指輪に手を突っ込み、中にこめられていたものを最後の力を振り絞り灰賀に投げ込む。


「苦し紛れか……くだらん」


 先ほど、と全く同じようにガードを図る灰賀だったが途端に顔が歪む。


 アステラが投げ込んだ手のひらサイズの物体が、突然発光する。


 閃光弾が発する光の輝きに思わず目がくらみ、アステラの姿を失う。わかりやすく舌打ちをすると、わずかばかり焦りが生まれる灰賀だったが自身の感覚の内側にはアステラがと耐えている感触があった。

 

 事実、灰賀が目を開けるとアステラはうなだれており、灰にとらわれていたまま意識を手放していた。


「ふん……少しは焦りはしたが、とくに意味はなかったな」


 周囲を見渡すと、逃げ惑う者もいる反面、事態の収束に向かってくる者もいる。暑熱轟(あつねつとどろき)の学区内ということもあって、能力差も多い。特に暑熱轟の生徒会などに遭遇すれば面倒ごとになることは灰賀も理解していた。


 アステラをアジトへと連れていくべく灰賀は逃走を図った。


 




 

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