3話
「なあなあ翔進知ってか?昨日の電波障害の件」
翌日、昼休みとなり授業という名の苦行から解放された学生たちが思い思いに過ごす中で新島は特大スクープでも持ってきた記者のように満面の笑みで俺のもとを訪ねる。
「ああ、昨日俺の携帯も被害に遭ったよ。」
「だよな。でさでさ、この件で面白いうわさがあんだよ」
どうせ大したことじゃないだろうと思い、弁当片手に耳を傾ける。この新島という男、俺と話すぐらいだから人付き合いはそうとう得意なのだろうが根拠のないうわさによく影響される。だから特に興味はなかったのだが、新島の口から出た言葉は無視できないものだった。
「出たんだってよ、未来人が」
「は?」
未来人。その単語から昨日の少女のことが思い出される。
「いつ!? どこで!?」
「うえええええぇぇ!?お前めっちゃ食いつくな!?」
机に上半身を乗り出し、新島の襟元を掴んで問いただす。しかし新島が失神しそうになったのを機に、手をはなした。
「お前、急にどうした?普段ならこんなの知ったこっちゃねえっていうのに」
「別にいいだろ。それよりなんでそんなうわさが立ってんだよ?」
新島の疑問をごまかすように本題へと移させる。
未来人について気になったのは単純に全く根拠がないモノだとは思えないからだ。実際それっぽい人物にも会ってる。
新島は俺の反応に一度は眉をひそめるも、思い出したかのように未来人の話をする。
「いやな、俺も実際見たわけじゃねえから何とも言えねえんだが…おれの友人が見たらしいんだよ。未来人が実際に来たところを」
「んで、その根拠は?」
皆までいうなとでも言うように俺の顔の前に手をかざす。
「なんかそいつが言うにはこの学校の近くの裏路地でいきなり電気が迸ったんだってよ。」
「んでその友達が実際にその女の子が未来から来たところを見たってわけか」
「あ、いや、ちょうど来たところは見てないらしいんだけど、裏路地から変な恰好をしたやつが猛スピードで出てきたんだってよ。それこそ未来人みたいな」
「……」
つまり実際にはタイムスリップした場面は見ていないということだ。その事実に少し落胆するもすぐさま顔を上げる。
「けど、どうせどっかの誰かが神秘の操作をミスったとかそんなところじゃねえのか?よくある話だろ。どうせその女の子もそういうことなんだろ」
「そう夢のないこと言うなよ。お前もたまには夢ぐらいみ…そういえばなんでお前、未来人のこと女の子って決めつけてるんだ?」
口に含んでいた弁当の中身を思いっきり噴き出す。
「あ、あの…………」
「す、すまん。今のは俺が悪かった」
新島の顔は汚物まみれになっていた。お詫びということで購買のパンをいくつか新島におごってやると少しは機嫌も直った。
俺が弁当をぶちまけたこともあり、未来人の話はそれで終わった。
だが、実際未来人かなんだのというぐらいならさっきも言った通り神秘の暴走と決めつけてしまった方が納得いく。それこそ『瞬間移動』の神秘とか。
だが、その後俺は知ってしまう。あの少女が本当に未来から来たということを。それも面倒な形で…………