26話 黒フード
スマホには玄関や居間などいくつかの場所が映されており、侵入者は居間で周りを見通しているようだった。
黒いフードを頭から被っており顔どころか性別もわからなかった。身長は大体160あるかないかというもので俺とほぼ同じといえる。
「……拂刃さんに写真で見せてもらった二人ではないですよね?」
「違うはずだ。身長がさすがに違いすぎる」
アギトは細身だが高身長、灰賀久は昨日見たところこれまた細身だが平均身長は少なくともありそうではあった。
「にしても、顔が隠れてるのが少しめんどくさいな。琴音、町の監視カメラをハッキングしてこいつがどこに行くのか追跡できるか?」
「りょうかーい」
琴音は隣に置いていたバックからパソコンを取り出してタイピングを始める。その様子にアステラは目を細める。
「あ、あの……」
「琴音は電子系統にめちゃくちゃ詳しいんだよ。だからハッキングとかもお手の物ってわけなんだよ。ていうかお前も未来で琴音に会ってるんだから知ってるはずだろ」
「それは知ってますけど。いえ、そうではなくて公共の監視カメラを勝手にハッキングして大丈夫なのかってことです。」
「緊急事態だ。しょうがねえだろ」
「そ、そうですか」
どこかあきらめたかのようにため息をつくアステラだったが、監視カメラに映る侵入者に違和感を覚え、スマホに目をのぞかせる。
「この人、さっきから何一つ動いてませんね」
「確かにな。」
普通、侵入してきたならアステラがいるか確認するために探し回るだろう。しかし、侵入者は先ほどから一切動かずただ周りを見渡すだけだった。
「というかこいつどうやって入ってきたんだ。正しい手順で鍵開けねえと、睡眠ガスが拡散するはずなんだが」
「そんなもの用意していたんですか」
俺の説明にあきれるアステラを横に、琴音はなにかに気づいたように顔を上げる。
「あにーじゃ、この人普通に鍵開けて入ってきたっぽい。だから、罠も作動しなかったみたい」
「鍵で…………扉壊さず普通に?」
琴音はそうだとうなずくも、俺は驚きを隠せなかった。
来るとしたら半ば強引に爆撃でもしてくるか、ばれないようにこっそり侵入してくると思っていたからだ。前者に対してももちろんある程度の対策はしてあったし、後者は言わずもがなだ。
それをやすやすと突破されるとは夢にも思っていなかったのだ。
というかこいつは家の鍵をどうやって入手したんだ?
驚きを隠せずにいると、不意に侵入者と目が合う。侵入者の眼は明らかにこちら側に向いており、監視カメラに気づいているようだ。
「……なんか気づかれてませんか?これ」
「まさかだろ。設置されているのは豆粒サイズの超小型カメラで見つかるはない……たぶん」
背に冷たい汗が流れるのを感じる。それは店の熱気によるものではないことを知っていた。
監視カメラはただ小さいだけでなく照明の裏側などかなり見つかりにくい場所に設置されているのだ。だから見つかりっこないと俺の理性は告げる
だが同時にもう一人の俺はその正反対の考えを述べていた。
ここに食事に来ていたこともすっかり忘れ、アステラと俺は二人して侵入者の動きを凝視した。すると彼、あるいは彼女の口から地の底で響くかのような声が発せられる。
『ああ、そこで見ているのか。翔進羅黒』
アステラはひゃぁ!と声を裏返し、涙目になっていた。よもや画面越しで語られるとは思ってもなかったのだろう。恐怖映画のようでもある。
完全に監視カメラに気づいている。その事実に肌がしびれるような感覚を覚える。
俺の名前を知っている口ぶりからキトノグリウスなのだろう……しかし、どことなく引っかかる。キトノグリウスならば、昨日のアギトとの戦闘から俺の情報はあるだろうから、複数人で一気に襲撃してきそうなものだが。
こいつがよほどの実力者なのだろうか、それとも……
思考を巡らしていると、凍えるような冷徹な眼をこちらに向ける。
『そこで待ってろ。すぐに殺してやる。』
そこで監視カメラの映像は途絶えた。黒フードの人物が何かを投げつけるような動作をすると破壊音とともに画面は黒に反転する。
スマホには黒の斜線が不快な音とともに流れていくだけだった。




