24話 暑熱轟エリア内にて
午後1時。普通なら学校で授業を受けているであろう時間帯。にもかかわらず堂々とさぼりあげくの果てに町に遊びに行こうというのだ。普段は何とも思わない太陽も今日はなんだか痛々しいほど照り付けているように思えた。
家から出てそのままアステラとともに電車に乗り、都心へと向かう。とりあえず都心に向かっておけば何かあるだろうという俺の浅はかな考えではあるがこれ以外に思い浮かばないんだから仕方がない。
ちなみに琴音も一緒についてきていたりする。念のため、爆睡していた琴音を起こして誘ってみたら思いのほかノリノリだった。普段は超インドアな琴音にしては珍しい
一方のアステラであるが
「なんで琴音さんもいるんですか」
となぜか俺の隣に座って不服を漏らしていた。先ほど遊びに行くといっていた時には晴れ晴れとしていた表情にも曇りが出ている。
「お前があにーじゃに手を出さないか監視に来たんだ。言っとくけどもしもあにーじゃによからぬことしようとしたら私の少林寺拳法が火を噴くからな」
おそらくドラマかなんかで学んだであろう中国拳法のような構えを取る。悲しいことにまったく強そうには見えないが。
「そんなことしません!もう……羅黒さんと二人きりになれると思ったのに」
「やっぱり!あにーじゃにエッチなことをしようとしてるんじゃないか!」
「しません!私はエッチなんかじゃありません!琴音さんのニート!」
「ニートじゃない!ただの引きこもりだ!」
「それどっちも変わらないですよ!」
電車内にも関わらず二人は大声で言い争うせいで、周りの視線が痛い。反対側に座っているおばちゃんから温かい目で見られるほどだ。
「おい、そろそろ降りるぞ」
顔を引っ張りあっている二人の服の襟を無理やりつかみ車外へと引っ張り出そうとする。妹がもう一人増えたような錯覚を覚え、軽いため息をつく。
「あっ、待ってあにーじゃ」
「ん?どした?早くいかないと電車出発しちゃうぞ」
「おんぶー!」
「…………」
俺はなんだか悲しい表情を浮かべながら諦めたように琴音を背おって電車を後にする。ちなみに琴音は中三である。もうちょっと自立してほしいものである……
「あにーじゃ、どこ行くつもりなの?」
電車を降り、改札から出ていき出口へと向かっていく。むろん、アステラを慰めるために、そして家から逃げるために町へと出て遊びに来たのだが、実際のところまだ予定は決まっていない。
ちなみに琴音を背負ったままだ。周りの視線が痛いのに琴音は全然降りる気配がない。
アステラもなぜか俺のことを顔の下から睨めつけてくるし……いや、睨めつけているのは琴音に対して?
琴音もなぜかアステラに満面の笑みを見せつけている。そのことでまた口げんかになったり。俺は心の疲労を吐き出すようにため息をつき、琴音の質問に答える。
「まだなんも決めてないんだよな。ここら辺ってどこで遊ぶのが普通なんだ?」
「知らなーい」
「だよな」
あまり来ない駅なのでどこが出口かわからず、近くの地図を見る。
「私はどこでもいいですよ。あ、けど羅黒さんが普段どのような場所で遊びに行くかは気になります。未来の世界ではあまりそういったことは聞けなかったので」
「俺友達いないから遊びに行かない」
「私もあにーじゃと一緒。ザ・ぼっち兄妹」
「……」
アステラが憐れむような眼をこちらに向けてくる。
「おい、なんだ。言いたいことがあるなら聞いてやるよ」
「いえ、その、なんだかかわいそうだなと」
「あーうるさいうるさい」
琴音の重みを感じながら階段を上がっていくと、ようやく駅の外の光景が目に入る。
地下から出てくると視界には処理しきれないほどの情報が入り込んでくる。月曜の日中にも関わらず、人通りも尋常じゃないほど多く大通りには屋台やら出店であふれかえっていた。これが今日だけではなく、年がら年中のことなので知っていても驚いてしまう。
「相変わらず、すげえ盛んだなあ」
「すごい!なんですかここ!?」
目の前の景色に目を大きく開き、アステラは首をフル稼働させて、あたりを見渡す。琴音はあまりこういった騒がしいところは得意でないのか隠れるように俺の背中に顔をうずめていた。
「ここは暑熱轟の学校エリア内だからな。毎日祭りやってるみたいに大騒ぎなんだよ」
「暑熱轟?」
少し首を傾け、アステラはこちらに尋ねる。
「暑熱轟高等学校。国内で能力開発に特に力を入れている三大高校のうちの一つ。俺のいる栄凛高校もそのうちの一つだな。生徒数はウチより少ないけど、町の行事の大半がこの学校が取り仕切ることが多いんだよ。目の前にある屋台とかも結構生徒が運営してたりするんだよ」
「生徒がですか⁉」
「ああ」
俺も初めて聞いた時には今のアステラと同じように驚いていた記憶がある。暑熱轟の校風は生徒の自主性を尊重するというものだが、いくら何でも放任主義すぎではないかと当時は思ったりもしたが、実際成り立っているんだからすごい。
ちなみに生徒が自主的に運営するメイド喫茶などもあるらしく、うちの学校の男子生徒も人目に隠れていくとかなんとか。
俺が今回ここに来た理由もここなら色々と見て回れるのではないかと思ったからだ。
「羅黒さん、早くいきましょう!」
「わかったからいったん落ち着け」
俺の手を引っ張っていこうとするアステラをいったん静止させる。どこから行こうかと思考を巡らせていると ―――不意に腹の鳴る音が聞こえる。
明らかに俺の背後からなっていた。首を回転させると琴音があからさまに目をそらす。
「チ、チガウ。ワタシジャナイ」
「なんで急にカタコトだよ。お前以外いないだろ」
「っち、ばれたか」
しかし昼飯時としてはちょうどいい時、むしろ少し遅いぐらいだ。食事をするにはちょうどいい時間帯なのかもしれない。
「そうだな、じゃあ最初に飯でも食いに行くか」
「でもどこで食事をするんですか?」
当然の質問がアステラから飛び出てくる。俺はこのあたりの地形にあまり詳しくないと先ほど言ったばかりだ。スマホで近くの店を調べていると、一軒見知った場所がでてくる。
「あにーじゃ、どこ行くか決めた?」
「ああ、知り合いのやってる店が近くにあるっぽくてな。そこに行こう」




