21話 病院にて
神室冬花。
栄凛高校の生徒会に所属する二年生で俺と同学年。アクアマリンのような透き通った水色の髪に小さめの顔つきが特徴とかなりの美人だ。実際俺もその通りだと思うが、口数の少なさや目つきの鋭さで思いのほか他人から近寄りがたい印象を持たれがちだ。
とはいっても、おれとは違って最高ランクのセフター3に認定されるだけあってその実力もすさまじく近寄りがたさはあっても、そのクールさにひかれてファンクラブもあるとかないとか。
だが話してみると意外と面倒見が良かったりもするので親しい人たちから頼られる。
先ほど灰賀の腕を凍らせたのも神室である。人質にケガこそあるが、おかげで命に関わることはないだろう。無事に済んだのも神室が近くにいたおかげといえるのだが…
「助かりはしたけど……なんでお前ここにいんの?」
「買い物中だったの。そしたら騒ぎがあったから、そこで天城先輩に会って追ってきただけ」
「わざわざ来てくれたのか。けどおかげで助かったよ、ありがとな」
「………別に礼を言われるほどじゃない。」
礼を言われなれていないのか神室は顔を赤らめ目をそらす。話題を変えるように体中にメスが刺さりまくってる俺の体の状態を聞くが、全然大丈夫の一言に対し若干ひいてた。
まあ、こんなもの怪我のうちにも入らない。
「話を戻すけど、なんでこんなことになってるの?さっき、天城先輩と一緒にいたアステラって子と関係あるの?」
「ああ、天城先輩に会ってるんだからアステラにも会ってるか。まあ、話すと長くなるし詳しい話はあとでするよ」
いつの間にか日は落ちていて、時間も遅い。ひとまず俺はアステラの安否を確認するため病院へと向かっていった。
病院にたどり着きはしたものの、おれの血だらけの体を見て悲鳴を上げる人が続出したため、いったん体に刺さったメスを無理やり抜き、加えて服ももう血でだめになってしまったので新品をユニクラで買うはめになった。
結局、アステラのもとについたのは夜の8時になってしまった。
アステラのけがは特に問題なかったようだ。アステラの体には機械が入り組んでいて医者にいろいろと言われそうだと思ったのだが、とくに何ともなかったらしい。こういう時代だから体の大半が機械でできている人間も多いらしくアステラが目立つことはなかったらしい。
ちなみに神室はなぜかそのまま俺についてきていた。もう遅い時間なので先に帰ってていいといっても私の勝手だと言って聞かなかった。どうやらアステラのことが気になるらしい
現在、病院に設置されている中庭にアステラ、神室、おれの三人がいた。ちなみに天城先輩はさすがに時間が遅かったので先に帰ってもらった。
色々と神室に説明しなければいけないのだが、アステラも神室も口下手な面があり、気まずい空気が流れている。
かくゆうおれもコミュ症であることは否定できないので、うまいこと話を切り出せずにいた。
「ええと、何から話せばいいんだ」
「…………」
「…………」
「いや、あの、なんか反応しろよ」
アステラはもじもじしており、神室の方も相変わらず何も言わない。話す気がないのではなく、単純に俺と同じく話を切り出せにくいのだろう。
だが、しばらくすると意を決したように、神室は息苦しい沈黙を破る。
「とりあえず説明して。ここ数日の間になんで犯罪者に襲われるような事態になってるの?」
「そうだな、そのことを話すにはまずは紹介しないとな」
アステラの背を押し、神室の前に出す。
「こいつがアステラだ」
「よ、よろしくお願いします」
相変わらずアステラの自己紹介はたどたどしかった。
神室にアステラの事情について紹介しようと思ったが、先ほどの拂刃会長からアステラのことをむやみに言いふらすなと言われたことを思い出す。
だが、神室はあまり言いふらすような人物ではないので大丈夫だろう。
「神室、こいつは―――」
「いたりあいたりあから留学生としてやってきましたアステラです。現在は羅黒さんの家にほーむすていしています。」
「………………………………………………は?」
アステラの口から意味不明の説明が飛び出る。それにも関わらず、なぜかアステラの顔には謎の自信が浮かんでいる。イタリアのパリってなんだよ。なんか発音もおぼつかないし
「ホームステイ?そんな話、あんたが言ったことあった?」
神室の口から当然の疑問が出るが、そんなもの当然ない。
「(おい、どういうことだ!なんだイタリアからの留学生って!うそ下手すぎだろ。ていうか嘘つく必要ねえだろ!)」
「(さっき、拂刃会長から言われたじゃないですか、タイムスリップのことを言うなって。大丈夫です、さっき愛さんと相談して私の架空の設定は考えてきましたから。)」
小声でアステラと話すも、アステラは俺の忠告を聞こうともしない。こんなくそみたいな設定をそのまま突き通せる自信があるらしい。いやな予感しかしないが、もうめんどくさいので俺もこのままいくことにした。
まあ、深読みすればアステラは欧米系に見えなくもない。金髪だし。
「ええと、こいつのホームステイは急に決まったもんでな。だから、周りに言う暇もなかったんだよ。」
「…………そう。ほんとに急ね」
「そ、そうです。いきなりいたりあのぱりから移動することになったので大変でした。」
「い、イタリアのパリ?」
「(お前マジ一回黙れ!)」
神室はアステラの戯言に困惑を隠せていない様子だったが、子供の言うことだと思ったのかしばらくすると元の平常心を取り戻す。
「とりあえず、ホームステイというのはわかるけどなんで襲われてるの?何か理由があるの?」
「ええと……(おい、天城さんと相談してなんか適当な理由考えたんだろうな)」
「(そ、その、愛さんとはそこまで相談してなくて…………………………)」
「(なんでだよ!一番聞かれそうな質問だっただろ。お前の設定がばがばすぎだろ!)」
「(そ、そんなことありません!)」
アステラと小声で言い合ってると神室が不審な目でこちらに目を向ける。というかたぶん聞こえてる。
「さっきから小声で何を言ってるの?」
「い、いや別に何も」
必死にごまかそうとするも神室の疑惑は一層深まっていた。
「もしかして嘘ついてる?」
「…………すいませんでした」
「で、アステラちゃんは未来から来たっていうこと?」
「はい、おしゃる通りです。」
その後、アステラについて一通りの説明が神室に行われた。神室からは特に質問されるようなことはなかったので、思いのほか簡単に聞き入れてくれたのだが、神室はなんだかご立腹のようだ
「なるほどね……アステラちゃんが狙われるから本当のことを言いたくなかったっていうのはわかるけど…………私、そんなに信頼できない?」
神室の鋭い目つきがこちらに向かれる。神秘の影響もあるかもしれないが、神室の機嫌が悪くなると本当に気温が下がっているような錯覚に陥る。
「いや、そもそも俺じゃなくていきなりイタリアだのなんだの言いだしたのはアステラのほうなんだが」
「うぅ……」
「あまり子供のせいにするのはよくないと思うけど」
「っく……」
なぜか俺が悪いみたいになっている。俺は少なくともイタリアの首都ぐらいはわかるのに……
神室も神室でアステラを俺からかばうように間に入っていた。アステラも意外に思ったのか少し驚きを隠せずにいた。
2対1でこちら側が不利だ。戦ったところで全員口下手なのでまともなことにはならないだろう。とりあえず、俺が謝った。全然納得いってないが。
「それでこれからはどうするの?」
「どうするっていたっ………」
『創星』の情報もキトノグリウスからはまともには得られなかった。(なにか知っているようではあったが。)
というかそもそも目先の問題としてはやはりキトノグリウスだろう。やつらをどうにかしなければ『創星』どころの問題ではない。
だが、キトノグリウスについてどうするべきか考えこんでもあまりいい案は浮かんでこなかった。そもそもキトノグリウスがどういう組織なのかも知らないのだ。
「神室はキトノグリウスについてなんか知ってるか?」
「私も似たようなものよ。最近暴れだした組織ってことぐらいしか知らない」
「まあそうだよな」
俺は腕を組んで考える。このままだと、また奇襲を食らいかねない。今日の戦いで思ったが、キトノグリウスは一般人を平気で巻き込む。
奇襲+一般人のカバーまではさすがに厳しい。
「データベースです!」
唐突にアステラが叫ぶ
「データベース?」
データベース
アギトが言っていたアステラが指輪の他に持っているやつのことだ。
神室にはまだ説明していなかったことを思い出す。(俺も詳しいことは知らないが)
「未来の能力者の神秘とか魔力量とかの情報が記録されてるってやつか」
「正確にいうと未来の能力者だけではありません。作成されるより以前の能力者、つまり私がいた未来世界から見たら過去の能力者の情報もわかるってことです」
「未来世界から見た過去…ようするにアステラがいた七年後の世界までにいた能力者の情報が載ってる……そういうことか」
アステラの言いたいことを理解する。
「データベースからキトノグリウスのメンバーの情報を調べるってことか」
「そういうことです」
「なるほど、確かにそれなら未来世界でのキトノグリウスの行動も調べられるからある程度行動の予測も立てやすくなる。悪くない案ではあるな」
「えへへ、それほどでもないですよ」
口ではそう言っているが、まんざらでもない様子だ。
「ま、何やるにしても今日はもう遅いし続きは明日にしようぜ」
「そうね。ところで……アステラちゃんはどこに泊まるの?」
「どこって、普通に俺の家だけど」
あたりさわりのない質問を特に考えず答えた。キトノグリウスに襲われかねないし、俺と離れないほうがいいだろう。
間違ったことは言ってないと思ったのだが、先ほどとは打って変わって神室の機嫌が悪くなってる。
「……翔進って簡単に女の子を自分の家に泊めるのね」
そういうと返事も待たずに後ろを振り向きこの場から去った。
とりあえず機嫌が悪くなったということだけは理解した。理解はしたが原因が全く分からなかった。
「俺、あいつに何か悪いことしたのか?」
「あの人、もしかしなくとも羅黒さんに…………」
「俺になんだよ?」
「別になんでもありません……………………………………羅黒さんのばか」
なぜか急に罵倒された。イタリアのパリとか言ってるやつにだけは言われたくなかった。
気づけば、アステラもぷっくりとほおを膨らませてご機嫌斜めといったところだ。いったいなぜ?
女の考えてることはわからんなあとため息をつき、そのまま帰宅することにした。
直後。
「―――っつ」
ふいに体が震える。
心臓をわしづかみにされたかのような錯覚に陥る。
(誰かに見られてる?)
異変を感じ辺りを見回すも、病院の中庭にはそれらしい人物は見当たらない。季節外れの冷たい夜風が体をなでる。
「羅黒さんどうしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
結局その後も特に人影らしきものは見当たらずひとまずそのまま帰宅することにした。
が、その後俺は視線の主を知ってしまう。
それも望まぬ形で




