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20話 因縁の始まり


 まどろみの中、アギトが目を開ける。


 自分に何が起こっているか思考したようだが、羅黒が目の前にいることで状況に気づいたようだ。


「さてと、いろいろとしゃべってもらうぞ、アギト」


「なるほど、尋問というわけですか」


 アギトは腕を背中側に回され電柱にロープで縛られていた。瞬間移動されたら一瞬で抜け出せるのだろうが、もう魔力が残っていないのか意外にも抵抗はしなかった。


「寝起きで悪いが質問だ。お前らアステラをどこで知った?いくら何でも情報が回るのがはやすぎる」

 

 羅黒はとくに世間話をすることもなくいきなり本題に入る。


「いきなりですね、私としてはあなたとゆっくりおしゃべりでもしたいのですが、例えばストーキングの方法とか」


アギトはたっぷりと皮肉を込め、にんまりと笑った。

 

「そうかよ、おれも知りたいな。幼女をさらうヤツの精神状態とか。いい病院を知ってるんだ、教えてやろうか」


「心配しなくてもいいですよ、医者なので」


「『もと』だろ」


 アギトとの間に一種の緊張が走る。が、相手は普通に縛られているので特に意味はなかった。話をそらされているようにも思えたのですぐに本題に戻す。


「で、話を戻すがお前らアステラをどこで知った。アステラが未来から来たのは数日前だしそもそもアステラが未来から来た証拠もそこまでないと思うんだが……ひょっとして未来世界を壊滅させた『創星』てやつが絡んでるのか?」


「『創星』とはまったく関わりはありませんよ」


 すがすがしいほどアギトはきっぱりと否定した


「そもそも『創星』の居場所はこちらが知りたいぐらいですよ。そんな強力な能力者、知ってたら我々が放っておきません。映像で確認できただけでしたが『創星』はバケモノでしたよ。」


「映像?」


「……もしかしてアステラから何も知らされてないのですか?『創星』について」


「知らねぇよ、未来世界を滅ぼしたってぐらいしか。アステラも詳しいことはわかってなかったみたいだし」


 そういうとアギトは口角を上げて、顔に笑みを浮かべる


「よろしければ教えてあげましょうか、『創星』の正体を」


「ずいぶん協力的だな」


 いきなり従順になるので羅黒は逆に不信感を覚える


「別に他意はないですよ、敗者らしいふるまいをしようと思っただけです、いいですか『創星』というのは……」


「……」


「…………………………………………………………教えません」


 

 

 アギトの頭蓋骨を力の限り握りしめた。

 

「いたたたぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」


「いらんことしないでさっさと答えろ。」


「私が大人しくあなたに従うとおもっててててってててぇぇぇぇ!」


 さらに拳に力を入れる。アギトの頭からはぎりぎりと今にも割れそうな音が鳴る。しばらく同じことを繰り返したが、アギトが口を割ることはなかった


「ほ、本当に頭が割れるかと……」


「もう『創星』についてはいい。お前らがアステラを知った経緯について話せ。お前を輸送するために呼んだガーディアンがあとちょっとで着いちまう。あんま時間がねえ」


「さっきと一緒ですよ、あなたにしゃべることはありません。」


 拳に力を入れ、アギトの目の前に突き出す。


「わ、わかりましたよ。どうせ知られて困るようなこともないですし」


「最初からそうしろよ。」 

  

  

  アギトは口を開き、説明を始めた。


「我々キトノグリウスが結成されたのはほんの最近です。メンバーの戦闘力こそ高いですが、結成直後の組織に優れた情報網などあるはずがありません」


「だろうな」


「ただし、我々にはアステラがタイムスリップすることはあらかじめ予期できていたのです」


「……どういうことだ?」


「そのままの意味ですよ、アステラの行動はある程度読めていたということです。あなたと接触を試みようとすることはわかっていたので刃上利宗をあなたの家の付近を見張らせたというわけです」


 「やっぱりあいつはお前らの仕業かよ」


 刃上利宗。アステラがタイムスリップ後に羅黒に会った後、襲ってきた男の名だ。どこからの刺客だと思っていたが、キトノグリウスのようだ。

 

「ということはあいつお前らの仲間だったのかよ」


「仲間というほどではありません、金で雇った臨時バイトですよ」


「バイトに人殺しをさせようとすんなよ」


「刃上利宗も自分を殺した人間にそんなことを言われるとは思ってもないでしょうね」


「?何を言って……おれ殺してねえぞ。お前らが始末したんじゃねえのか?」


 そういうとアギトは怪訝そうな顔を浮かべる。


「そもそも刃上利宗に特別な情報は与えていません。わざわざ始末する必要性よりもむしろ露見した時のデメリットの方が大きい。我々がわざわざやる意味がないのですよ」


「…………」


 アギトが嘘をついているようには見えなかった。言っていることもわかる。当然、俺も殺してない。


 じゃあ誰が…………………………………………?


 頭を働かせていると、武装した集団がやってくるのが見える。アギト輸送するためにガーディアンを呼んだことを思い出す。


「通報があったのはこちらですか―――って大丈夫ですか!?体とんでもないことになってますよ!」


 集団の隊長と思われる人物が俺の姿を見て驚く。自分がメスやなんやらで傷だらけになっていることに気づく。もっともこのぐらい日常茶飯事であるので特に問題ではないのだが、一般人には即救急者案件なのだろう。


「あ~、とりあえず俺のことは大丈夫なんでこいつのことをお願いします」


「そ、そうですか。えーと、通報にあったというのはこいつですね、ってこいつアギトじゃないですか。よく捕まえられましたね」


「やっぱ有名なんですか」


「ええ、戦闘力もありますが何より神出鬼没でしてね、灰賀と並び我々も困っていたのですよ」

 

 ガーディアンの何名かが、アギトに特殊な手錠をかけ、車内に連行する。おそらく能力者専用の刑務所に連れていくのだろう。


「では我々はアギトを連れていきます。ご協力感謝します。アギトは我々が責任をもって連れていくので。あと、あなたは病院に行ってくださいね」


「…………はい」

 

 めんどくさいし、何より治療費も馬鹿にならないので行く気はなかったが、とりあえず形だけは返事しておいた。


 『創星』のことや刃上利宗の殺害などいろいろ気になる点はあったが後でも大丈夫だろう


 ひと段落したと思い、ガーディアンの運送車をみると―――


 車体が宙に浮いていた。なにか灰のような淡いグレーの細かな粒子の集合のようなものに車体がつかまれている。


「うわあああああああ」


 車体はその灰のようなものに振り回され、次々に中から人があふれる。


 地面に激突する前に駆け出し何とか受け止める。


 幸いけが人はいないようだったが、車内に目を凝らすとアギトの姿はなかった。


「新手か……!」


周りを見回すと歩道の先にアギトと、ガーディアンと思わしき女性を捕まえているくせ毛の男がそこにはいた。


「あいつは……灰賀久!」


 先ほどのガーディアンの隊長が叫ぶ。

  

 羅黒もどこかでその名を聞いたと思い頭を巡らす


「灰賀って……さっき会長が言ってたやつか」

 

 拂刃会長が先ほど見せてきた写真に写っていた人物。拂刃会長が特に注意しろと言っていた人物だ。捕まったアギトを救出しに来たという所だろうが、それにしても行動が早い。


「ありがとうございます、灰賀さん。おかげで助かりましたよ」


「礼はいい。それよりアステラと指輪はどうなった?」


「指輪の方はあります。しかし、アステラの方は……」


「まあいい。そちらの方はどうとでもなる。其方(そち)が翔進羅黒だな」


 灰賀は羅黒を指さす。捕まえた女性の首に後ろからナイフを突き出したまま。


「……そうだ」


「そうか、ならば話は早い。今すぐアステラを久の前に連れてこい。断れば……わかるな」


 女性の首筋にさらにナイフを突きつける。ナイフは軽く首にあたっており、女性の首から血が垂れており、女性の体は恐怖で震えていた。


「連れて来いったって、アステラの居場所なんか知らねえよ」


其方(そち)に選択肢があると思うか」

 

 連れてきたところでどうせ殺すだろと羅黒は思うも口には出せなかった。ガーディアンの隊長に目を向けるも、焦りが顔ににじみ出ており特に策はなさそうだった。


(どうする。アステラを連れてきたところでそもそも人質が解放されるわけがない。かといって放置しても確実に人質は殺される……)


 考えたところで完全解答は浮かばなかった。ひとまず時間稼ぎのためでもアステラを連れてくるかと考えたところで灰賀は人質の太ももにナイフを突き刺す。


「あああああああああああ!!!」


 人質の痛烈な悲鳴が聞こえる。


「考えても無駄だ。其方がはやくしなければこやつの体がどうなっても知らんぞ。」

 

 灰賀は今にもナイフを突き刺さんとしている。

 

「翔進さん!お願いします!こんなのあんまりだ!ひとまず形だけでもアステラというのを連れてきてください!」

 

 ガーディアンの隊長はこれ以上ないほど羅黒に頭を下げていた。人質の女性は痛みで涙を流しており顔はしわくちゃになっていた。


 もう選択肢はなかった。灰賀を殺そうにも羅黒とは距離が遠すぎた。アステラを連れてくるフリだけでもしなければならない。


「……わかった。今連れてくるから、人質に手を出すな」


「そうだ、それでいい。」


 何とかスキがないか探ったが、灰賀にはそんなもの存在しなかった。今無理に攻め込めば人質が死ぬ。


(リスクはあるがアレをつかうしかな――――――――――ん?)


 あきらめかけるとふとある人物と目が合う。かなり遠くにいるが俺が目を向けるとこちら側に気づいたようだ。


(…………あいつに懸けた方が何倍もマシか)


 会話も取れるはずもない。となると、完全にその人物の判断を信じるしかなかったのだが、不思議とその人物がうまくやってくれると思っていた。

 

 灰賀がいる方へと一歩足を踏み出す。今は何より注意をひくことだ。


「…………何のつもりだ」


「アステラは連れてきてやる。けどその前にその女性を開放しろ」


「自分の立場が分かっているのか?其方の意見など聞いていない」


「アステラを連れてこなくてもいいってことか?」

 

 灰賀が蛇が蛙を見るようにこちらをにらみつける。


 まだだ、もう少し……


「其方は頭がおかしいのか?連れてこなければこいつが死ぬぞ」


「やれよ」


「……はったりは通じんぞ?」


「はったりじゃねえよ、やれって言ってんだよ。交渉材料がなくなって困るのはお前の方だろ。それに今その女性を殺したらお前を守るものは何もないだろ」

 

 さらに歩を進める。人質の女性から絶望にも似た声が聞こえる。


「どうやら其方は勘違いしているようだが、どのみちアステラは久らが手に入れる。早いか遅いかの違いだ」


「そうかよ」


 灰賀はナイフをこちらに見せつける。本気で殺すぞとでも言うようにこちら側の様子をうかがう。しかし、心の焦りを全く出さずに依然として態度を変えなかった。ただのはったりだからこそ動揺を見せるわけにもいかない。

 

「どうやら本当に見捨てる気らしいな。まあ、どのみち殺す気ではあったが」

 

 灰賀が人質の顔を掴む。「ひい!」という叫びが女性の口から発せられるがお構いなしだった。


「では望み通り殺してやる。」

 

 夕日を映すナイフを女性の元に振りかざさんとする。


 が


―――瞬間、灰賀の腕は固まる。比喩ではなく本当に固まっているのだ。灰賀の右腕は瞬きの間に氷漬けとなっていた。


 灰賀が目を見開く中俺は地面をけり上げ、すぐさま灰賀からナイフを取り上げる。


「な!」

 

 灰賀は状況が理解できていないようだった。神秘で灰らしきものを操作するも初動が遅かった。

 

 すぐさま灰賀から人質を奪い取る。


出力装填(バーストオン)(フルディング)地吼拳(エルダ)―――」


 灰賀に殴り掛かろうとするも、攻撃の予兆を察知し俺はすぐさま後方へ飛ぶ。


 轟音とともに俺が先ほどまでいた個所には大量の灰らしきものが一つに密集して打ち付けられていた。見ると地面にはクレータができていた。


 灰賀はアギトを抱えて、すでに移動していた。鋭い目つきで羅黒をにらみつける。


「……次はないと思え、精進羅黒」


 アギトと灰賀の周囲を灰のようなものが包み込む。数秒後には二人の姿はなかった。


 羅黒は深く息をつく。ひとまず一難は去ったようだ。人質を抱えていたことに気づき声をかける。

 

「大丈夫で―――ぶへっ!」


 が、思いっきりビンタされた。ぱあん!という音が気持ちのいいぐらい響く


「このクソガキ!あんたのせいで飛んだ目にあったわよ!」


可能な限りの罵声を羅黒に浴びせると一目散に走り去っていった。


 作戦があったのは確かだが、怖い目に遭ったのは事実だろう。だから羅黒がビンタを受けるのはしょうがないと理解はしていたのだが……それにしてもすさまじいビンタだった。今まで受けてきた中でもかなり上位に入るモノだった。女性の恨みほど怖いものはない


「これ、どういう状況?」


 くだらないことを考えていると後ろから声がかけられる。とはいっても振り向かずとも羅黒にはその人物はわかっていたが。


「ああ、お前のおかげで助かったよ。ありがとな」


 振り返るとそこにはセフター3にして栄凛高校最強と謳われる氷の過剰適正者、神室冬花(かむろとおか)が凛としてこちらに向かって立っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 尋問や拷問の時に、時間がこっちにない旨の弱みを見せてしまうあたり、主人公は甘くて。若さとそういうことへの不慣れさがよくでていたと思います。其の辺に気が回ってもおかしいですからね。自然で良か…
[良い点] 尋問や拷問の時に、時間がこっちにない旨の弱みを見せてしまうあたり、主人公は甘くて。若さとそういうことへの不慣れさがよくでていたと思います。其の辺に気が回ってもおかしいですからね。自然で良か…
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