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16話 羅黒VSアギト②

 アステラを奪還された。


 これまでの行動に自分に至らぬ点はあったと言えど作戦自体に不備があったともアギトには思えなかった。 


 計画が全ておじゃんになったのは、目の前にいる少年が原因だ。精進羅黒。まさか50Kmの距離を自力で詰めてくるとは思いもしなかった。


 アステラが未来から持ってきたという指輪は手に入れた。目標の一つは達成したといっていい。アステラこそ手に入れられなかったが、退散するのが得策といえよう。


 だが、アギトの本能がそれを拒絶した。今始末しなければ今後、精進羅黒はアギトに、キトノグリウスにとって大きな障害になりうる存在だと本能が告げる。


 アステラを今後手に入れるためにも精進羅黒は始末するべきだった。


 アギトと精進羅黒は互いに口を開かず、距離をゆっくりと詰めていく。車の騒音だけが響いていた。


 一歩、また一歩と近づいていく。

 

 ついに互いの距離があと数歩という距離になる。

 

 先に仕掛けたのは羅黒だった。地面を踏み、一気に距離を詰め左の拳を突き出す。瞬間、羅黒の背後に瞬間移動し、メスを投げ込む。 


 羅黒は反応が遅れて、いくつかのメスが刺さるも、致命傷は避けていた。そこから、さらにスピードを上げ移動先のアギトに殴り掛かる。だがこれも壁に激突し、がれきが飛散する。


  とてもセフター0という低ランクとは思えぬスピードでアギトに攻撃にかかるが、アギトはその攻撃を難なくかわした。


 そもそもこの状況はアギトにとってかなり有利だった。先に羅黒の攻撃がアギトにまともに入ったのも栄凛高校の教室内のみ。教室という狭い空間ではアギトの移動先をある程度予測できたかかもしれないが、ここは野外だ。移動先はいくらでもある。


 加えて、先ほどからの羅黒の戦闘スタイルは基本的にインファイターであり、機会があれば右腕の義手による必殺の殴打を放つというスタイルなのであろう。義手のパンチがまともに当たれば怖いがまず当たりはしない。


 アギトにとっては必殺の一撃よりも低威力でもある程度の範囲攻撃の方が恐ろしかった。移動先がアバウトでも読めれば攻撃を食らいかねないからだ。


「コロコロ移動しやがって」

 

 羅黒の風のような攻撃もすべて空を切る。対称にアギトの攻撃はメスが一本、また一本と面白いように羅黒の体に突き刺さっていく。


 だが、我関せずというかのように羅黒は気にせずアギトに向かってくる。


「いい加減、あきらめたらどうですか?」


 

「なわけねえだろ、お前のその顔面を粉々にするまでやめねえよ」


「ずいぶんと野蛮なことで」

 

 羅黒の威勢こそいいが策がないのはアギトには丸見えだった。魔力の一瞬の乱れで羅黒は瞬間移動が発動することを読みメスを何とかよけようとしている。首や心臓など致命傷こそないものの、すでに腕などいたるところにメスが突き刺さっている。


 このままかわしてメスを刺すという一巡を何度もやっていればいずれは力尽きるだろう。時間はかかるがそれが確実だ。

 

「だあ!」

 

 羅黒の拳が空を切る。この流れを繰り返し、もう羅黒の体には10数本のメスが突き刺さっている。

 

(そろそろお終いですかね)


 勝利を確信し、瞬間移動した矢先、アギトの体に異変が起こる。体の内部に何かの物体が入り込んでいるのだ。


「っな!?」


 体に激痛が走り、口から血が噴き出る。 


 一瞬のスキを逃さず、羅黒が追撃にかかる

 

「っく!」


 拳が鼻をかすめるが何とか羅黒の背後に瞬間移動する。

 

「何が起こ―――これはがれき!」」


 身をひるがえし再び羅黒が迫る。何とか逃れようとする瞬間、自分の視線が移動先を向いていることを気づく。


(視線から移動先を読まれましたか!)


 だが、思考が止めるよりも先にアギトは神秘を発動していた。


 羅黒の拳をかわすも、移動先でがれきが体の内部に入り込む。

 

 羅黒は移動先にがれきを投げ込んでいたのだ。


(先ほどまでの攻撃はがれきを得るために)


 ビルの壁などを砕くことで、そこからがれきを手に入れたということだろう。かなりアバウトでも移動先がある程度わかればいい。威力こそ低いが、広範囲に小さながれきや粉が巻き散らかるためアギトにあたる確率は高い。


 瞬間移動の神秘は移動先で物体があると入り込むという弱点を羅黒はついた。


「逃がすか!」


 羅黒がただならぬ殺気をまとい、走る。

 

(このままではまずい!)


 アギトは屋上からそのまま飛び降りる。


 羅黒もアギトを追い、躊躇なく屋上から飛び降りる。能力者ともいえど無事では済まない高度を平気で飛び降りることにアギトは驚くが今はそんなことに思考を割く余裕はなかった。


 地上に降りると、日曜ということもあり歩道は人にあふれ、車の騒音も騒がしかった。

 その後、地面に何かが激突し、すさまじい衝撃波を立てたが羅黒は平然とそこに立っていた。


「頑丈ですね」


「それしか取り柄がないんでな」

 

 皮肉ではなくアギトは純粋に羅黒を称賛していた。50Kmという長距離を人ひとり抱えながらアギトに追いつき、メスを十数本刺されその後ビルから飛び降りたにも関わらず、まったく動きが落ちていない。先ほどと同じく息切れも一切していない。


(いったいどうなっているんです、この男のスタミナは)


 だが、不死身というわけでない。許容範囲以上の攻撃を与えれば必ずいつかは倒れる。


 羅黒が一気に距離を詰めてくる。それに応じてアギトも逃げるように走る。


(魔力の消費も多いですが……やるしかありませんね)


  羅黒が追い付くよりも先にアギトは目当てのモノを見つける。


 アギトは羅黒が来るよりも先に目視した目標物のそばに移動する。


「な!トラックかよ!」


 アギトは黒い猫が描かれた某配送会社のそばにいた。重量がけた違いに重いため魔力の消費量も多い。だが、羅黒を始末するにはやるしかないという確信がアギトにはあった。


「さぁ!あなたにはこれをかわせますか!」


「そんなでかいモン当たんねえよ!」

 

 アギトはトラックを頭上に瞬間移動させた。


 ーーーただし、羅黒のではないが。


「な!?」

  

 歩道では一人の父親とその娘が仲睦まじく歩いていた。その頭上にアギトは


「さあ!もう一度言います!あなたにはこれをかわせますか!」


「きゃああああああ!」


「う、うわわわわわわあああああああ!」


 叫ぶ親子のもとに羅黒は駆け寄る。


「くっそ!間に合え!」

 

 トラックは地面に激突すると、爆発する。


 何とか親子を抱えて爆風から守らんとする。

 

 そのまま吹っ飛ぶも羅黒も何とか無事ではあった。ひとまずアギトを警戒しながら親子の確認をすることにした。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。ぶ、無事だ」

 

 父親と思われる男が状況を理解しておらず困惑しながらも震える声で答えた。


「よかった、ひとまず娘さんを連れて逃げてください、ここは危険で―――」

 

 羅黒が言い終わる瞬間、父親の背後から歪んだ笑みを浮かべたアギトが襲い掛からんとしていた。


「よけろ!」


 父親と娘を強引に羅黒から引き離す。本日数十回目のメスが羅黒に投げ込まれる。


「アギトォォ!」


 アギトの視線が左側に向かう。拳は空を切るも、羅黒は左に追撃に向かう。

 

「っ!?」


 何かが目に入る。一瞬、視界がぼけて、周囲の状況が理解できなかった。アギトはそのスキを逃さず、懐からメスやら注射器を投げつける。何とか腕でガードするもガードが雑になり懐にいくつかの刺さる。

 

 眼元を拭くと、手には血がつき地面には既に中身のない輸血袋が転がっていた。

 

 メス、注射器、輸血袋……


「てめえ、医者か!」


「そうですよ!元ですけどね!それより周りをよく見た方がいいですよ!」


 羅黒が顔を上げると前方、後方から一台ずつトラックが羅黒に向かって走ってきていた。


 先ほどのトラックの爆風で羅黒は道路の真ん中にいたことに気づく。後方のトラックが逆走しているが、アギトが瞬間移動させて反対車線に移動させたのだろう。 

 

「ち!わざわざ食らうかよ。」


 羅黒が地を蹴らんとした瞬間。足の甲に深々とメスが地面ごと刺さりこむ。アギトが目を見開き、これ以上ないほどの笑みを浮かべていた。


 メスが足に刺さったことにより羅黒の回避が致命的に遅れる。


「これでチェックメイトです」


 トラックはすさまじいスピードで激突し、衝突によって車体が粉々に砕け散る。

 

「なかなか肝を冷やしました。ですがこれで終わりです」 


 車体の破片を一瞥したのちアギトはその場を去っていった。


  


 

 


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] アギトさんは判断力に難があるようですが、能力強いのですが。逃げてもいいように思えましたが、好戦的ですね。でも優勢なのでやはり強力な能力者さんでもあって。自分でも出来そうだから判断に迷うのか…
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