13話 襲撃
拂刃会長との会話の後、羅黒とアステラは、二人を見送りに来た天城愛と一緒に玄関まで足を運んでいた。
「けど、本当にアステラちゃんはすごいです。あんなにハキハキ受け答えできるなんて。本当に驚いちゃいました」
「えと、そ、そんなことないですよ。これでもいろいろと経験してきたので」
天城の誉め言葉に対して、アステラはそっけなさそうな態度をとる。が、やはりその顔からは年上から褒められたことによる嬉しさを隠しきれてない。
「素直に子供らしくうれしがっとけよ。こんなことで嘘ついてもいいことないぞ」
「う、うれしくなんてありません。というか何度も言ってますが子ども扱いしないでください」
「へいへい」
子供扱いされたのが嫌だったのかアステラは頬を膨らましている。だが、その後天城が自販機で買ったジュースを与えると顔がほころび、うれしそうにしている。やはり子供だ。
そうこうしていると、気づけば玄関までたどりついていた。靴を履き替えようとするが天城から再び声がかかる。
「けど、本当に気を付けてくださいね」
「気を付けるって、キトノグリウスの件ですか?」
「……はい」
そういう天城の声からは先ほどの明るさは消え、こちらを心配するモノとなっていた。
「キトノグリウスの被害は時間の経過とともにひどくなっています。私達の学校でも襲われた生徒がいます。今のところは命に関わる被害はないのが救いですが……」
「キトノグリウスの連中は何が狙いでこんなことを」
先ほど、拂刃会長からキトノグリウスについて触れられた際も、その組織の目的については触れなかった。おそらく拂刃会長もわかってない、もしくはある程度推測はできているが確証はないということだろう。
「もちろん。羅黒くんが強いのはわかってます。私なんかに言われるまでもないことなのはわかってます。それでも今回ばかりは胸騒ぎがするんです」
天城は心配そうに手を組み、足をソワソワさせている。
「羅黒くん。困ったことがあったら、なんでも相談してくださいね。私なんかでも力になれそうなことは何でも致しますので」
「言われなくともしますよ。というかすでに頼りにしています」
羅黒の発言を受け、天城は少し照れくさそうにしていた。天城の腰までかかるような長髪が春の風になびき、照れる姿さえも絵になっていた。その姿にアステラは見惚れていたようだった。
アステラの目線に合うように天城はかがみ、優しい言葉づかいで語り掛ける。
「アステラちゃんも気を付けてくださいね。けど、近くに羅黒くんがいるから心配いらないかもしれませんね。羅黒くんはとても頼りになりますから」
アステラの頭をやさしくなでる。
天城愛は性格が全く戦闘向きではないため、戦闘成績で結果を残してないため自分を過小評価するきらいがあるが、その人柄の良さと美貌から周囲からはかなり親しまれている。
以上より年下からも好かれやすく、人見知りの琴音も羅黒以外では唯一仲良くしている。
アステラも緊張が解けたのかそんな天城に口元をほころばせていた。
「アステラちゃん、いろいろと終わったら今度は遊びにでも来てください。一緒におやつでも食べましょう」
「……いいんですか?」
「はい。もちろんです」
「ありがとうございます、えっと、天城さん」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ、愛で大丈夫です」
「あ、ありがとうございます、愛さん」
どうやらアステラも天城と打ち解けたようだ。こういう人柄の良さは俺にはないなと羅黒は心の内でつぶやいた。
「それじゃ俺たちはそろそろ帰らしてもらいます。夕飯の支度とかあるので」
「わかりました。私達の方でもいろいろ調べておきます」
「すいません。俺が勝手に巻き込んでしまったのに」
「全然大丈夫ですよ、というより私の方こそお力になれてうれしいです」
本当に謙遜するなぁと思うと同時にこういう所が周りから好かれるのだなぁと思いつつ、自分とアステラの靴をげた箱から取り出す。
そうしてるとアステラが別れを名残惜しそうに天城を見つめる。そんなアステラを慰めるように天城は「大丈夫です、またすぐに会えます。」といった。
アステラは顔を上げ、出口に向かう。天城はこちらに手を振っていた。
羅黒とアステラは学校を出発し、そのまま岐路につき今後のことを考えつつもとりあえずは一日を終える
ーーーはずだった。
学校の玄関を出る直前、羅黒は違和感を覚える。
現在は春の春花祭の準備期間でありその準備で大忙しだ。例年、帰宅時間を守らず学校に寝泊まりする生徒もおり、生徒会も教師も頭を悩ませているほどだ。それにも関わらず静かすぎるのだ。本当に人がいるかどうかも怪しいほどだ。
現に玄関付近の廊下では羅黒たち以外通った人間を一人として見ていない。
天城も違和感に気づいたらしく、目を閉じ犬の過剰適正を活かし、嗅覚に神経を集中させる。
すると、開口一番「催眠ガス!?」と驚いたような調子で声を上げる
「催眠ガスってこの学校にですか?」
「はい、どうやら発生源は……すべてのフロアからだと思います。」
天城の発言を信じられず、確認を取るように質問をした羅黒であったが天城からの返答はそれ以上に驚くものだった。
第一、栄凛高校のセキュリティーは国内でも最高レベルであり能力者といえども、そうやすやすと侵入できるものでもない。
第二に、生徒がいる中で、催眠ガスなどを放つ、それも全フロアということだ。栄凛高校の生徒のほとんどは能力者であるため、そんな目立つことをすれば普通誰かしらに気づかれて止められる。
が、実際に起こってしまっているので考えてもしょうがない。何が起こっているかは不明だが不幸中の幸いとして、この場に俺がいることだった。
俺の「超耐性」のおかげで毒などに対して異常に高い耐性、というよりほとんど無効にできる、当然、催眠ガスも効かない。
「天城先輩、俺が中に入って様子を見てくるのでその間にアステラと外で退避して、電話でガーディアンを呼んでください」
「わかりました、羅黒くんも気をつ―――アステラちゃん!!」
羅黒に返事をするよりも先に天城はアステラの名を叫ぶ。
何事かと思い、羅黒はアステラの方に顔を向けると、アステラはいつの間にか現れた男に後ろから拘束されており、その首元には医療現場で使うメスのようなものがつきつけられていた。
「全員大人しくしてください、私とてもこのような少女を傷つけたくはありません」
その男はあごが鋼づくりになっており、腕からは鋭利な剣のようなものが突き出ていた。
「お前、キトノグリウスの!」
その男は先ほど生徒会室で拂刃会長に見せられた写真に載っていた男の一人だ。
「おや、私のことを知っているのですか、まあ、それも関係ありません。こうして、アステラを手に入れられたのですから」
男はあくまで紳士的な口調だったが、アステラの喉元にメスを置いておくのを忘れていない。いざとなったら、いつでも刺せるぞといわんばかりだ。
羅黒は同時にアステラの顔も見る。が、その顔は一種の恐怖も含んではいたが同時に敵に対して立ち向かう戦士の顔でもあった。なにか策があるように羅黒は感じたのでひとまず時間稼ぎのためにも会話を試みた。
「お前、なんでアステラを狙う?何が目的だ」
「いわれなくてもわかるでしょう、彼女が未来から来たからです」
「!?」
やはりアステラが未来から来たことを知っている。
「指輪が目的か?」
「それもあります、その指輪を回収できれば構造を解析し、複製もできますので。だが、一番の目玉はやはり能力者のデータベースです」
「データベース?」
「そうです。能力者……とはいっても未来のですが」
未来の能力者のデータベース?
そんなものをアステラが持っていること自体初めて聞いた。それ以上に羅黒には初めなぜそれを狙うのかわからなかった。今後、成長して強力になりそうな能力者をあらかじめ始末するということだろうか?いや、それもあるかもしれないが一番の狙いは...
「未来のデータベースから今後強力になる能力者を攫って、戦力増加するってことか」
そういうと男は少し驚いたようだった。
「ご名答。思いのほか理解がいいのですね。ですが、問答はここまででいいでしょう。あまり時間をかけて応援を呼ばれても面倒なのでね」
そう言い、この場から立ち去ろうとした瞬間アステラは頭を後ろ側にそらし、男の顔面を小突く。アステラから意識を外していた男は一瞬たじろいでしまう。
そのすきを見逃さず、アステラは指を宙にかざし、「神秘開放!」と叫ぶ。指輪は幻想的な光を発し、いつの間にかアステラの手にはピストルが握られいる。おそらく、その指輪には「収納」の能力が込められていたのだろう。
アステラはちゅうちょせず、男に向かって、発砲する。
男は何とか体をそらし回避するもその表情は焦りに満ちていた。
そのすきを見逃さず俺はすぐさまは追撃に入る。体を後ろにそらした男の顔面にかかと落とし。タイミング的に完全に入ったかと思われた
が、かかとは空を切りそのまま地面へと激突する。
のみならず、羅黒の左腕には何本かメスが突き刺さっていた。
「ふう~、子供だと思って油断してしまいました。まさかあんなに躊躇なく殺しに来るとは」
男はいつの間にか羅黒たちの背後にいた。あの不安定な体勢から攻撃をかわす、のみならず羅黒にカウンターを加えることは通常なら不可能だ。
となると、考えられるのは
「瞬間移動か」
「正解です。やれやれ今後のためにできるだけ神秘を見せるなとのボスからの指令だったのですが。」
瞬間移動ならば、学校の内部に潜入は容易だし、生徒にばれずに催眠ガスをばらまくのも不可能ではない。
羅黒は目の前の男の危険度をいち早く理解する。
今この男を逃がせばアステラの身だけでなく、多くの人を危険にさらしかねない。セキュリティーを無視して、容易にどこでも侵入できるからだ。
「天城先輩、アステラ、俺の後ろに下がってください」
助太刀はない、周りの生徒は睡眠ガスで眠ってしまっているからだ。ならば自分の役割は決まっている。
「こいつは俺が倒します」
羅黒は男の前に一歩踏み出す。
「やれやれ、あまり乱暴なのは自分の領分ではないのですが」
男は羅黒に向き合う。
そうして精進羅黒と犯罪組織キトノグリウスに所属する男、別名アギトと呼ばれる男との闘いは幕を明けた。




