12話 キトノグリウス
「結局情報はないってことですか?」
「無茶言うね、さすがに昨日今日でわかることは少ないよ。」
その後、協力を約束した拂刃会長から先日アステラを襲ってきた男の情報等を聞き出そうとしたが、大した収穫はなかった。アステラを襲ってきた刃上利宗の素性に関してはある程度は拂刃会長も調べ上げたらしいが、肝心の刃上利宗がアステラの存在をどのように知ったかということがわからないのだ。
仕方ないので、帰宅しようとしたところ拂刃会長からよびとめられる。
「まだ何かあるんですか?」
「手ぶらなまま帰らせるというのは僕としてもあまり気分がよくなくてね。今後の指針を決めておこうと思ってね」
拂刃会長は椅子から立ち上がり、アステラの近くまで歩みまじまじとアステラの手に装着されている指輪を見る。
「アステラちゃんの指輪についてなんだけど、あまりそれを人前でむやみに使用しないほうがいい」
「?この指輪が狙われるかもしれないからですか?」
「そういうこと。基本的に神秘は一人一つなんだ。例外はあれどそうポンポン複数の神秘を使えるヤツはいない。けど、その指輪があれば疑似的とはいえな複数の神秘の併用が可能になる。そんなチートアイテムを狙うなって方が無理だよ」
俺の返答に対し、拂刃会長が見解を示すとアステラが間に割り込む。
「けど、この指輪に内包された能力は私が扱える程度の神秘しかありませんよ」
「確かにそうかもしれないけど、内包された能力目的じゃなくとも指輪自体が目当てということもある。構造を解明したら大量生産されかねないからね。そうなったらどれほど恐ろしいことになるか君にも予想できるだろ」
拂刃会長に言われてアステラは大事そうに指輪をやさしく触る。
ただでさえ今でも大小の差はあれど争いが絶えない。が、それでも人間全員が能力者というわけではなく、全員が戦闘系の能力ではないのだ。
しかし、仮にこの指輪が普及すれば人間全員が戦闘系の神秘を持つことになる。そうなれば恐ろしいことになるだろう。
拂刃会長は「最近物騒になってきたからね」といって、棚から一枚の写真を取り出す。そこには二人の男性と思わしき人物が映っていた。
一人は背の高い男でおそらく185はあると思われる。しかし、身長よりも驚くべきは本来腕があるはずの場所からは複数の剣があった。あごも鋼づくりとなっており、機械的な印象を受ける。
もう一人は白のジャンパーを羽織っており、身長も大体170程といったところか。少しくせのある黒髪に加えてその顔には眉間にしわが寄っていた。
「会長、こいつらなんです?」
「キトノグリウス」
キトノグリウスという聞きなれない単語が拂刃会長の口から出て、アステラと羅黒はお互い顔を合わせるもどちらも知らないということが分かっただけだった。
拂刃会長もどちらもその存在を知らないことを理解し、説明を始めた。
「キトノグリウス、簡単に言うと犯罪組織の名称だよ。現在確認されているメンバーはこの二人だけだがおそらく組織のボスを含めてもう数人いる。少人数だけど、最近あまりよくない噂も聞くんだよねー」
「よくないってのは殺しですか?」
「それもあるけど、一番よく聞くのは能力者を攫うことだね。実験目的か戦力増加を狙っているかは知らないけど。アステラちゃんが狙われる可能性も十分にあり得る。特に噂を聞くのは灰賀 久のほうかな」
拂刃会長は白のジャンパーの男を指さす。
「素性も能力もわかってない、けどかなりの事件を引き起こしている。ハザード3に指定されるぐらいだから戦闘能力も並大抵じゃない。羅黒くんならまだしもアステラちゃんがこいつと会ったら、絶対に逃げろ、じゃなきゃ死ぬよ。」
拂刃会長は普段は不真面目の具現化とでもいうべき象徴だが、こうした場面でくだらないことを言う人間でないことは羅黒も理解していた。それだけ拂刃会長はキトノグリウスと名乗る組織を危険視しているのだろう。




