入学 その2
テオとリナはその後、一緒に学園の入学式会場へ向かう流れになり、並んで歩いている。
周りにいる新入生がだいぶ増えてきた頃、学園の校舎がハッキリと見えてきた。
「デカいな」
「うむ、デカいの」
「あれはもう校舎じゃなくて城だな。それも要塞の様な外観をしてる。噂には聞いていたが普通じゃないな、やっぱり」
二人が目にしたのは、校舎と呼べる域を遥かに超えたスケールの要塞じみた城だった。
夥しい補修の跡が残る城壁。空に突くような尖塔。重厚な城門。どれを見ても楽観的な気分は吹き飛ばすには十分な凄みを感じる。
城門を潜り抜け、城まで続く道を進むとやがて、丁寧な手入れが行き届いた庭園が目に映る。
ようやく一息つける風景が目に入り、テオはゆっくり息を吐いた。
「殺伐とした雰囲気ばかりだったから、この庭園を見ていると落ち着いてくるな」
「さっきまでは不気味な印象しかなかったが、ここは違うようじゃな」
「アンタらもそう思うかやっぱ。城門前と比べると差が激しいよな」
テオがリナと庭園の話をしていると、二人に同感とばかりに後ろから声をかけられた。
その人物は二人に追いつくように近づいてきて、テオの隣まできた。
快活な雰囲気のある同年代の中では高身長な焦茶色の髪をした少年で、笑みを浮かべながら話に加わってきた。
「よっ!お二人さん。初めましてだな。俺の名前はベルク。ベルク・ダルセナだ。実家は魔法大工を生業にしてるから小さい頃から体は鍛えられてきたぜ。二人の名前も聞いてもいいかい?」
ベルクと名乗る少年に名前を聞かれた二人は断ることなくそれに応える。
「魔法大工の家系出身か君は。通りで体格がいいわけだな。俺の名前はテオル・マグナだ。気軽にテオと呼んでくれたらありがたい。こちらの彼女は・・・・・・」
「リナじゃ。リナ・ワーレン。わらわのことも名前で呼ぶことを許さないこともない」
「めちゃくちゃちっこいなお前。まぁ、恥じることはねーぞ?同じ新入生なんだし、成長するのもこれからこれから。それじゃあ二人とも名前で呼ばせてもらうか。テオにリナだな。グラモドアで一人でやってける自信ないからな俺は!これから卒業までよろしく頼むぜ、マジで!」
「恥じてなどおらぬわ!」
偉そうな態度のリナに対し、特に不満に思うこともなく、二人に笑いながら挨拶するベルク。
懐が深く、他人を気遣うことが自然とできる性格なのだろう。
「こちらこそ心細いと思っていたところだ。これから六年間よろしく」
「ふん!・・・・・・よろしくの」
「おう!ところでよ、お前らの出身はどこなんだ?」
「俺はラクロンドのアルカダ地方にある町の出身。リナ、君はどこの出なんだ?」
「・・・・・・それは秘密じゃ。文句あるか?」
何か複雑な事情があるのか、自分の出身について聞かれるとリナは、ブスッとした顔になってしまった。それを見たベルクはすぐさま話題の転換へと移行する。
「イヤイヤ、別に話したくないならそれでいいよ!なぁ、テオ?」
話を振られたテオはすぐさま首肯する。
「ああ。事情は人それぞれだ。リナがそれがいいと言うのなら、それを尊重するだけだ」
「そうか。・・・・・・心遣いには感謝する」
「いちいち礼なんかいいって。っと、二人ともそろそろ城の中に入るぞ。入学式会場の大広間へは先着順で並びながら進むらしいな」
ベルクが指を指す方向へ目を向けると、教師や教員らが新入生に指示を出し列を作り、並ばせていた。
その教師の中に一人、見覚えがある人物がいることに気づいたテオ。
「あの人は俺がマイラビで受けた試験会場にいた人だな」
「テオの時の試験監督?誰だ?」
「ほら、あそこにいる眼鏡かけた人」
テオが示す先にいるのは一人の筋骨隆々で大柄な一人の眼鏡をかけた男。黒い肌に黒い髪。肩に金の装飾がついている丈の短い黒いジャケットを着ている。青い宝石を嵌めた金の腕輪を両腕に嵌めた派手な男だ。しかし不思議な程、様になっている印象だ。
見られていることに気づいたのかテオ達の方に目を向け、そのまま歩いて近づいてくる。そしてとんでもない勢いで話し始める。
「そこにいる君〜!この前、試験会場であったよね〜!覚えてる、僕のこと?僕は君のこと覚えてるよ〜!あの時は凄く衝撃を受けたからね〜!ホッント君がこの学園に来てくれて嬉しいよ〜!なんたって僕、学園の教師全員に君を絶対に学園へ入学させるよう主張したからね〜!いや〜その甲斐があったよ、マジで!!」
怒涛の勢いで捲し立ててきた男は、テオに対して妙にフレンドリーで気に入った様子だった。