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入学 その1


 魔力。それは、多かれ少なかれ、万物に宿るエネルギー。

 人間の大多数は少量の魔力しか持たず、そのエネルギーを何かに役立てることはできない。

 しかし、多くいる人間の中で限られた者だけは、魔力を用いて、様々な神秘的現象、すなわち魔法、魔術と呼ばれる力を行使することができる。

 その者達を人々は魔族と呼び、畏れ、疎み、そして迫害を始めた。

 迫害された者達はそれに抗う為、魔法を扱える者同士で徒党を組むようになり、自らを魔法使いと呼称するようになった。

 人間と魔法使いの間で表立った争いが始まる様になり、その戦いは少しずつ激しさを増していった。

 長い年月が過ぎ、魔法使いの人数が徐々に増え、自ずと勢力が拡大していくにつれ、数に勝る人間は少しずつ追い詰められていった。

 人間の勢力はこうした状況をひっくり返す為、大勢の人の供物を捧げ神に祈りを捧げた。

 しかしそれは最悪な結果として現れることとなった。人間の魔法使いへの悪意。供物に捧げられ者による同胞の裏切りへの果てなき憎悪。それらの膨大な意思の塊に魔力が宿り、人間と魔法使い、双方に牙を剥く神として形を為した。

 神はその膨大な力を使い、人間や魔法使いへ様々な害悪をもたらし始める。

 魔法使いと違いなんの力も持たない人間は魔法使いへ協力を求めるしか道がなくなり、それを受けた魔法使いの勢力側は、最初の方こそ怒りや反感が募ったが、神を相手取りその上人間の勢力と争う余力がなかったので渋々これを受ける。

 一つの強大な共通な敵を前にして、人類はようやく一つとなり結束した。

 後に神を封じることに成功した魔法使い達に対し、いつ再びこの様な脅威に襲われるかわからなくなった人間は庇護を求める様になり、いつしか人間社会は魔法使いを中心に回る様になり、それは現在まで続いている。


 ◆◆◆


 大陸暦1864年春、現在。

 魔法使いの雛達の学び舎、魔道学舎。

 その一つである、グラモドア魔法学園に今年も新入生がやってくる。

 大都市マイラビから北へ向かい、古代樹の大森林を抜けた先にそれはある。


「ようやく到着か。あの森は広すぎるだろう・・・・・・」


 古代樹の大森林を先ほど抜け出し、学園の門まで辿り着いた一人の少年が呟いた。

 肩まで伸ばした艶のある青みがかった髪を後ろで一つに結んだ少年、テオル・マグナは自身が来た道を振り返る。古代樹の大森林の中に、人為的に作られた道がその目に映る。

 この道はグラモドアに通う上級生に対し、学園の教師が課題と評して毎年押し付ける雑用である。

 古代樹の大森林は再生力が高く、毎年新入生の為だけに通り道を作らなければ一週間もすれば道が塞がり、とても人が通れるものではなく、そもそも学園まで直接繋がる道がなければ間違いなく迷い、目的地まで辿り着くことはできないだろう。

 そういった事情があり、新入生の為に先輩にあたる上級生達が毎年、魔法で道を通してくれるのだ。


「古代樹で創られた森の中によくあれだけしっかりとした通り道を作れたな。獣も一切見かけなかったし。それだけ今いる上級生が優秀というわけだな」


 この森は多数の獣や魔獣が生息している筈だが、それらも近づかない様にしてくたのだろう。

 至れり尽くせりな状況だが、そんな幸せも今日限りであることもテオルはしっかりと認識していた。

 

「おいっ、そこの男!」


 テオルがグラモドアへ入学する心構えをしている時、背後から誰かに声を掛けられた。

 振り向いた先には同じく新入生なのだろうと思われる、学生ローブを身につけ、銀髪をストレートに膝裏まで伸ばした、小柄な少女が立っていた。160センチ半ばのテオと比べ少女は140センチほどしかない。

 

「なにか用でも?」


 テオルが返事を返すと少女は、赤く染まっている目を向けながら何かを差し出してきた。


「リュックの口が空いているぞ。ほれ落とし物じゃ」


 少女の手元を見るとテオルの背中に背負っているリュックにしまっていた筈の荷物があった。

 リュックを確認してみると少し開いてしまっている。どうやら移動しているうちに紐が緩んでしまった様だ。


「すまない。どうやら気づかないうちに落としてしまったみたいだ。拾ってくれてありがとう。俺の名前はテオル・マグナ。君も今年グラモドアに入学する新入生だよね?名前を聞いてもいいかな?」


 テオルが落とし物を拾ってくれた礼を言い、自身の名前を告げた後少女の名前を尋ねた。


「よくぞ聞いた!妾の名はリナ・ワーレン。お主の言う通り、今年からグラモドアへ通う新入生じゃ」


 尋ねられた少女は得意げに殆どない胸を張り、腰に手を当てながら、威風堂々とした佇まいで名乗り返した。


「呼ぶ時はテオでいいよ。知り合いがいないから早く友人を作りたいと思っていたんだ」


「そうか。ならばテオよ、お主も妾のことはリナと呼べ。それで対等じゃ」


「リナか、わかった。それじゃあ改めて、これからよろしくリナ」


「う、うむ!」

 テオは幸先がいいなと笑いながらリナに手を差し出した。リナは差し出された手を見て、軽くドギマギしながら右手を差し出し二人は握手をした。


「これが握手か・・・・・・悪くない」


 リナは他人と握手したことが少ないのか、初めは落ち着きがない様子だったがテオと握手した時は微かに安心した表情を浮かべていた。

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