優奈の作ってくれた朝食
「広葵先輩、朝食、もうできてますよ~。」
制服に着替えた俺が、朝食を食べにリビングへと向かうと、キッチンにはなぜか、お母さん……ではなく、優奈が立っていた。
……なんで⁉
そう思いながら、テレビの方へと視線を移す、すると、そこには、
「あ、広葵おはよ~。そんなところに突っ立ってないで早く食べなさい‼せっかく優奈ちゃんが作ってくれたのに、ご飯が冷めちゃうじゃない‼」
ソファーに寝っ転がりながらそういう母さんがいた。『……なんで優奈に朝食作らせてるんだよ⁉』そんな風に、母さんに向かって言いたかったが、勝てない勝負が嫌いな俺は、目上の人に逆らうなんていう馬鹿なことは、したくないので、何も言わず、母さんに憐みの目を向けた。……いや、まあさすがに、『これは絶対におかしい‼』って思ったら意見を言うよ⁉うん。
「まあ、そういう事なので、広葵先輩、食べてみてください。」
そう言われた俺は、テーブルの上に並べられた料理を見る。目玉焼きに鮭の塩焼き、お味噌汁に白米と、『THE・日本の朝食』といった料理たちが並んでいた。
俺、優奈のそういうところ、すっごく好きだよ。……まあ、面と向かっては言えないけど。でもさ、こういう『THE・日本』ってものとかよくない⁉俺、将来結婚するときは、古き良き心を持った人と結婚したいな。
「いただきます。」
そう、優奈に向かって言った俺は、まず、鮭の塩焼きに手を付けた。『鮭』俺が一番好きな魚。よく、友達とご飯を食べていると、『好きなものは、先に食べる派?それとも後にとっておく派?』などという質問をされることがあるが、俺は絶対に、好きなものから食べる。だって、おなかがすいている時の方が、食べ物をおいしく食べられると、俺は思うから。うん。
「おいしい‼」
程よい塩加減で、ご飯に合わせて食べると、すっごくおいしい。……さすが優奈。長い付き合いだけあって、俺の好みの味を、完璧に把握しているな~。
「本当ですか?先輩‼本当の本当の本当に、私の作ったご飯、おいしいんですか⁉」
……。え?俺ってそんなに信用ない⁉そんなに俺の言葉って信じられないの⁉俺、今まで嘘とかついたことがないんだけ……すいません。それは嘘です。うそをついたことが一回もないなんてことはありません。で、でもさ、俺、結構本音で語ってるからね⁉まあ、俺より力とか立場が強い人には弱いけど。……あ、でも安心しておいて‼心の中では、ちゃんと本音を言っているから。
「うん、すっごくおいしいよ。毎日でも食べていたいくらい。」
別に、大げさに言っているわけではない。本当に、本気で俺は、このご飯を、毎日食べていたいと思う。普通においしいし、それに、母さんより、俺の好みの味を、理解している気がするし。
「え⁉先輩、それは、これから先、ずっと朝食を作ってくださいっていう、わたしへのプロポーズだったりします⁉」
なんて、ふざけたことを、真面目な顔をしながら優奈はそう言う。
「ん~、どうかな~。でも、本当に優奈のごはんはおいしいし、毎日食べていたいって思うよ。」
優奈が真面目な顔で言っている以上、俺もふざけるわけにもいかず(まあ、優奈は真面目な顔をしながらふざけているんだろうけど……)、俺は優奈に向かって得そう言った。
「よかった~。……知っていますか?先輩。私、先輩に美味しいって言ってもらえるようなご飯を作ることができるようになるために、一生懸命練習してきたんですよ?」
知らなかった、全くもって知らなかった。そんなこと。優奈のことは、たくさん……ううん、人並み以上には知っているつもりだったけれど、まだまだ知らないことがあっただなんて。
それにしても、『俺のために』か。
「優奈、ありがとう。俺のために、料理の練習をしてくれて。」
心から、心からそう思う。
「えへへ~、先輩から、感謝されちゃった~。……私、先輩のためならば、何でも頑張ります‼」
あれ?優奈ってこんなにかわいかったっけ?
10年以上、優奈と一緒にいる俺が、思わずそう思ってしまうほど、その時の優奈は可愛かった。