④ー⑥日奈の思い出
「それじゃあ最後に、私がお話しますね。」
「私が話すのは、私が、ひ~くんと仲良くなるきっかけとなったお話です。」
「あの日のことがあったから、今がある。私はそう思っています。」
あの日の出来事は、そう私が思うくらいに、わたしとひ~くんの関係に、大きな影響を与えたものだったと、私は思ってる。
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【日奈の話】
『陽川さんって、どんな本を読んでるの?』
あの日も、ひ~くんは、いつものように、そう話しかけてきました。
あの頃の私は、今と全然違う私で、全身とげだらけで……触るな危険という感じの私でした。
なので、このひ~くんの問いに対して、私は、
『なんであなたに話さないといけないんですか?』
と、冷たい言葉を浴びせてしまいました。
……ひ~くん、あの頃はごめんね。
いつもなら、いつものひ~くんなら、そこで引き下がってました。
……でもなぜか、その日は違ったんです。
『俺が陽川さんと仲良くなりたいからだ。陽川さんと話したいから、俺が、陽川さんにとって友達……ううん、親友と呼べるような存在に、なりたいから。……だから、陽川さんに、どんな本を読んでいるか聞いてみたんだ。……教えてもらえないかな?』
そう言ってきたんです。
友達とか、親友という言葉にひかれた私は、ひ~くんにこう言いました。
『笑わないでくれますか?』
と。
きっと、ひ~くんは、笑わないだろう。
そんなことはわかっていました。
……でも、怖かったんです。前みたいに笑われるのが。友達だと思っていた相手に、友達になりたいと思っていた相手に、『こんなの読んでる人、私の友達じゃない。』と言われるのが。自分の趣味を、自分の好きなものを、否定されるのが。
『笑わないでくれますか?』
その私の問いに対して、ひ~くんはこう言いました。
『別に、笑わないよ。……だって、陽川さんにとって、それは、大切なものなんでしょ?……他人の好きなものを、笑うわけないじゃん。だって、その人の好きなものを否定するってことは、その人の感性を否定することになるじゃん。……そんなこと、人を傷つけるようなこと、俺はしたくない。』
と。
私はこの言葉を聞いて、胸が暖かくなるのが分かったんです。うまく表現できないんですけど、なんかこう、胸がポカポカしてきたんです。
『わかりました。それなら……』
そう言って、私は自分の読んでいる本を見せました。
『……男の子向けのラノベを読んでいる私って、おかしな女の子ですよね。』
『そんなことないよ‼』
自分を卑下する私に向かって、ひ~くんはこう言ってくれました。
『陽川さんは、おかしな女の子なんかじゃない‼すっごく、すっごくかわいくて……優しくて、一緒にいると安心できて、どんなことにも一生懸命で……。なんかうまく、言葉では表現できないけれど、最高の女の子だと思うよ‼』
そんなひ~くんの言葉に私は救われました。
きっと、私の心はそれまで凍っていたんです。あの日、友達だと思っていた相手に、『こんなの読んでる人、私の友達じゃない。』と言われた日から。
その凍っていた心を、ひ~くんはとかしてくれたんです。
太陽が、雪を解かすように。
……そこからの、私とひ~くんの関係は、皆さんが知っている通りです。たくさん話したり、二人でマフラーを共有したり。
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※ここからは、広葵視点です。
「え⁉何それ、わたしたち、知らなかったんだけど。」
日奈の、
『マフラーを共有』
という言葉を聞いたなずなさんは、大声でそう言った。
……まあ、知ってるわけないよね。二人っきりの図書室でやったことなんだから。
「私にとっても、その話はとっても興味深いんですけど……ひろ、誰の話が一番面白かった?」
優奈はそう聞いてきた。
……これってさ、
「笑える話じゃなくて、感動する話じゃね~か‼」