74話 魔将ダダ1【ダダ視点】
私は魔将になりたくてなったわけではない。
魔物の世界では、強さがすべてだったので、力のあった私は、勝手に魔王幹部にまつりあげられただけのことだ。
魔将になったからといって、特段仕事が増えたわけではない。
別にそれまでどおり自由に暮らすことができた。
他の魔将と違い私には領地もなかった。
くれると言われたが、断ったのだ。
魔将になったからといって、不便は何もなかった。
しかし反対に、魔将になったからといってメリットもなかった。
魔物は魔将という肩書きに従うのではなく、その者の強さに従う。
上の地位に立ったからといって、使える人材が増えたわけでも、減ったわけでもない。
魔物の将来を決める重要な会議に出席することはできるようにはなったが、お堅い話は好きではない。
私は茶々を入れて、囃したてるのが常だった。
魔王様に魔将をやってと言われたからやっているだけなのだ。
私はもともとは人間だった。
娼婦の、誰が父親かわからない子供として私は生まれた。
母がなぜ自分を産もうと思ったのかはわからない。
しかし、生まれてきた私をちゃんと愛してくれた。
生活は貧しかったが、母の愛情だけが小さかった私の幸せだった。
街では、私は娼婦の子供として避けられていた。
罵声を浴びせられることはしょっちゅうだったし、同じ子供からはいじめられた。
学校には通えず、図書館か、近所の野良猫を追いかけて毎日を過ごした。
楽しい時間とは言えなかったが、もしかすると私がもっとも幸福だったのは、このときだったのかもしれない。
私は成長すると母に似て美しくなっていった。
10歳にもなると、不快な男性の視線を感じるようになった。
母親が娼婦だったので、娘の私を見て何か想像しているようだった。
そしてその事件が起こった。
家で寝ていると、中年の男が忍びこんできたのだ。
夜は母は仕事中で留守だ。
男は寝ている私に、馬乗りになる。
驚いて目を覚ました私は、大声をあげた。
男は私の口を慌ててふさぐ。
その男の顔には見覚えがあった。
どこぞかの貴族だ。
長男であるのに結婚せずに、巷では少し話題になっていた。
ハゲ頭の贅肉の塊の男に、女性は拒否反応をしめするのだろう。
男が独身なのは当然だと思った。
男がズボンを脱ぎだす。
私は必死でもがくが、大人の男の力にかなうはずがなかった。
泣き叫ぶしかできなかった。
しかしそのとき母が帰ってきた。
どうやら仕事が早く終わったようだ。
助かったと私は思った。
母は私を襲っている男を見て、怒鳴りつけた。
男は私から離れた。
そして、母親のそばへ歩いていく。
男は母をいきなり殴りだした。
何度も何度も思いっきり拳をふるっている。
下半身を露出した男が、母親を殴っている。
私は何もできなかった。目の前で何が起こっているのか理解できなかった。
「ゴン」という不吉な音が響くと、母は床に倒れて動かなくなった。
男は次に私にまた迫ってくる。
そして下半身を私の顔に押しつける。
男のそれを、私の口にねじこんできた。
息がうまくできず、苦しかった。
この男は母に暴力を振るった。
苦しさと怒りが、恐怖を上まわった。
私はそれを噛みちぎった。
男は絶叫を上げて、倒れこんだ。
床を転げまわっている。
私は母のもとへ急いで駆けよった。
しかし母は死んでいた。
男は雄叫びと私への罵声を吐きつづけた。
近所の誰かがこの騒ぎを、通報したのだろう。
しばらくすると衛兵が訪れた。
母親と男は、病院へと運ばれ、私は牢屋に入れられた。
私はあの男が母を殺し、私にいかにひどいことをしようとしたかを説明した。
事情さえわかれば、すぐにこの牢屋から出られるだろうと思っていた。
しかし、私は解放されなかった。
あの貴族はそこそこに力があるらしく、私に重罪がくだるよう働きかけているようだった。
しかも母親を殺したのに、あいつは罰せられずに、普通に生活しているようだ。
変質者が出歩き、何も知らない子供が牢に閉じこめられる。
そういう国だった。
牢に入れられ一ヶ月後、今度は一人の衛兵が寝込みを襲ってきた
こいつも中年のオヤジだった。
男は全員野蛮なのだと、このとき理解した。
下半身を露わにして、私に抱きついてくる。
私のズボンに手をかけて、脱がそうとする。
さすがに、今回はそれを私の口に入れようとはしなかった。
しかし、男は欲望に飲まれ、無防備に過ぎた。
私はそれを握りしめる。
そして、それを燃やした。
私はそのとき初めて魔法を使った。
私には魔法の才能があったようだ。
本を読んでいたので、魔法の知識はあった。
無料の図書館は、学校に行っていない私には時間を潰すにはちょうど良い場所だったので、いろいろな本を読んでいた。
魔法の本もそろっており、何冊か目をとおしている。
私が使ったのは初級魔法だったが、魔法は魔法だ。
炎があがり、衛兵のそれは、真っ黒になった。
子供が、それも教えてもらったわけではなく、本で読んだだけの知識で、魔法を発動させるなど本来ありえないことだった。
しかし私にはできてしまった。
その衛兵がもだえ苦しむ。
騒ぎとなり、他の衛兵が集まってくる。
翌日、私の死刑が決まった。
私は襲われ、それに抵抗しただけだ。
ただそれだけだというのに。
明日は15時ごろ投稿予定です。




