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72話 リベンジ

 10分の1に力が抑えられていた力が、10倍の強化魔法でもとの状態を取りもどす。

 さらに強化の魔法の重ねがけで、本来以上の力を手にいれる。


 武器が手元にないため、まだ完全とはいえなかったが、弟ゴブリンは充分な態勢となっていた。


 弟ゴブリンの右手から光が生まれる。

 最初、腕全体に輝きを放っていた光は、方向性を持ち、上に伸びる。

 弟ゴブリンの頭を少し超えたあたりで伸長は止まる。


 光の先端は細くなり、帯のように薄くなっていく。

 それは剣へと形作られていった。


 ダンは両手に持った2本の剣を天に突き立てる。

 2本の巨大な鬼の手が上空に現れる。

 2本の剣を、そのどこからともなく現れた鬼の手が握る。


 剣を握った鬼の手は、赤黒い渦となり剣にまとわりつく。

 渦は勢いを増し、天にまで届く。


 聖剣より生まれた渦は、白い輝きを持った光の帯が螺旋状に駈けあがり、妖狐の刀より生まれた渦には、黄色い炎が巻きついている。

 エルフの里で、ダンと弟ゴブリンが争ったさいに、ダンが最後に使った大技である。


 あのときは、弟ゴブリンの力負けだった。


 弟ゴブリンはただ魔力を放出して対抗した。

 魔法を使えない弟ゴブリンは魔力の塊で、相殺しようとしたのだ。

 しかしそんなことは無理だった。


 弟ゴブリンはこの技をくらい、瀕死の状態にまで一気に追いこまれてしまった。


 あのときは、弟ゴブリンの完敗だった。


 しかし今の弟ゴブリンはあのときとは違う。

 魔法が使える。


 弟ゴブリンも、光の剣を天にかざす。


 二翼の翼が上空に現れる。

 巨大で、真っ白な翼だ。


 その翼が弟ゴブリンの持つ剣を、優しく包みこむ。

 翼は輝き、一本の光の柱となる。


 白い羽をこぼれさせながら、天に届く光の筋が立ちあがる。


 弟ゴブリンとダンは同時に剣を振りおろした。


 光の柱と、白と黄色の渦が衝突をする。


 カメラのフラッシュのように、光が爆ぜる。

 真っ白い光ですべての空間が包まれる。

 白以外を見ることができない。


 輝きが収束して、無数の羽に姿を変えていく。

 白い羽が空間にふわふわと浮かんで、揺らめいている。


 羽はその揺らめきに合わせるように、次第に透明になっていく。

 空気に溶けていく。


 すべての羽が消えて、視界が開けたとき、地面に倒れ伏すダンの姿が見えた。


 ダンに意識はなかった。

 戦闘不能の状態になっていた。


 弟ゴブリンが倒れるダンをにらむ。


 弟ゴブリンにダンが襲いかかってきたのはこれで2度目だった。

 エルフの里だけでなく、この戦場でも邪魔をしてきた。


 このままダンを生かしておいても、また自分を殺しにくるかもしれない。

 弟ゴブリンはそう考えた。ここで始末をしておいたほうがいい。


 弟ゴブリンが一歩を踏みだそうとしたその瞬間、()()()()が到着した。


 彼が姿を見せると、バドル城の全魔物が動きを止めた。

 魔性の3人、サディとグラデス、ダダも、動きを止める。


 彼の存在に注視する。

 その存在と同じ空気を吸ってはいけないかのように、息を止めて見つめる。


 ダンの前に、シリウスが立っていた。


「弟よ、悪いな。ダンは友人なんだ。見逃してくれないか?」


 継承によってとりこんだ魔将ラージの魔力を、シリウスは抑えることなく(あふ)れださせている。

 ラージの魔力だけではない、そこには当然シリウス自身がもともと持っていた魔力も足されている。


 つまり、ラージ以上の力を持った魔物がそこにはいた。


 その力の前に、誰もが混乱していた。

 魔将3人すらも思考が停止する。


 そして全員がこう思う。

「敵でなく、味方であってくれ」と。


 だが弟ゴブリンの心境だけが異なっていた。


 憧れの兄が現れたのだ。

 まず、単純に喜びが走った。


 しかしこの邂逅は、慶事ではなかった。

 弟ゴブリンは兄を見つめる。


 そして気がついてしまう。

 そこにいるのは兄ではなかった。


 兄の姿をしているが、中身が違う。

 兄の体が何者かに乗っ取られていた。


 魔将ラージはゴブリンの姿のシリウスを一目見て、シリウスだと言いあてた。

 実力者になると、転生者であるシリウスの存在に気がつく。


 弟ゴブリンは、さすがにラージほどの力はないが、いく度もの急成長により現在は規格外の実力を持っている。

 兄のなかにシリウスの魂があることに、気がつくほどの力をつけていた。


 目の前にいるゴブリンは兄であって、兄でなかった。

 兄の魂はもうない。消滅している。


 兄は殺されていた。

 体を乗っ取った、誰かの魂によって。


 弟ゴブリンは、シリウスをにらみつける。

 その視線には最大限の殺意がこめられていた。

 最愛の兄を殺された弟の怒りが、瞳の中で燃えている。


 相手がどれほどの強者だろうが関係ない。

 兄の仇を討つ。


 兄は唯一の家族であり、味方だった。

 弱かった自分をいつも助けてくれた。

 強くて、尊敬していた。


 その兄を殺した相手が、目の前にいる。

 許せるはずがなかった。


 殺意が自然と体を動かした。

 たとえどれほどの強者だろうと、自分を抑えつける気など毛頭ない。


 弟ゴブリンは「ギイ」とそれに呼びかける。


 ダンのそばに落ちていた聖剣が、まるで飼い主に駆け寄る犬のように、弟ゴブリンのもとに飛んでくる。

 弟ゴブリンは、聖剣をキャッチして、シリウスに向かって片手で構える。


 弟ゴブリンは、怒りのままに力を解放する。

 白い光が聖剣と弟ゴブリンを包む。


「ギイイ」と、弟ゴブリンが叫ぶ。

 それは泣き声にも聞こえた。

誤字のご報告、ありがとうございます!


明日も午前7時15分ごろに投稿予定です。

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