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7話 エルフと決闘2

 そのゴブリンが、普通ではないことはエルフ全員が気がついていた。

 言葉をしゃべるのだから、当然だ。

 しかし、里の入り口の結界を越えることができたことには驚いた。

 高度な魔法技術を持ったものしか、結界を通り抜けることはできない。

 エルフは魔術に優れた民ではあるが、それでも子供の頃から数年の練習を重ねてようやく、出入りができるようになる。

 結界を通るには、体内の魔力を規則的な法則で全身にいきわたらせることが要求される。

 魔力はデリケートなものであり、全身どころか、体の一部にすらいきわたらわせるのも難しい。

 それを初見でおこなってしまうのだから、驚かないわけがない。

 ましてやゴブリンがである。

 エルフは排他的な性格である。

 なので誰もが、ゴブリンを里に入れる気など最初からなかった。

 エルダですらそうだ。

 よそ者を里に入れる行為は、よほどの事情がある時のみである。

 今回、シリウスを里に誘ったのも、ゴブリンには結界を越えることは絶対に不可能だと考えていたからである。

 結界に阻まれるゴブリンに謝辞を述べて、そのまま引き返してもらうのが、本来の予定だった。

 それがゴブリンが入り口を通ってしまったのだ。

 驚き以外の何物でもなかった。

 ロジンがゴブリンを殺そうとしても、他のエルフが止めに入らなかったのは、その方がありがたいと考えていたからである。

 エルダだけは、さすがに殺しは良くないと間に入ったが、それでもゴブリンを里に入れるつもりは、実際にはなかった。

 ゴブリンには申し訳ないが、引き返してもらうよう、お願いするつもりだった。

 ところが、ゴブリンはロジンと戦うことを選んだ。

 やはりゴブリンである。知能がないと、エルフたちは皆思った。

 ゴブリンは、自分が勝ったら世界樹の杖をもらうという条件を話しているが、そんなことは誰も聞いていなかった。

 自分たちで里に招いておきながら、殺そうとしている罪悪感に、心苦しさを抱いていたが、ゴブリンの勝つ未来など誰も考えていなかった。

 エイルダは、なんとか止めることがはできないだろうかと思案していたが、結局、戦闘は始まってしまった。

 最初に動いたのはゴブリンだった。

 ゴブリンの魔力が一瞬で、爆発的に上がる。

 その魔力量に、誰もが言葉を失った。

 ゴブリンの放つ魔力は、その場にいるエルフの誰よりも強力なものだった。

 短詠唱をゴブリンが唱えると、さらに驚いた。

 ゴブリンが使った魔法は「第五深度 炎柱」だった。

 第五深度の魔法は、最上級に位置する魔法だ。

 限られら上位の魔術師しか使うことのできないものだ。

 それを詠唱文言を略した、短詠唱で発動させたのだ。

 しかも、ゴブリンは杖も持っていない。

 杖は魔法の発動の重要なアイテムである。

 魔力制御が数段はおこないやすくなる。

 杖を使わずに第五深度の魔法を発動させたのである。

 目の前のゴブリンの異常な強さに、エルフたちはやっと恐怖を感じ始めた。

 真っ赤な炎の柱が、ロジンを包みこむ。

 炎の温度は数千度に達している。

 ロジンの身体は灰と化しているはずだった。

 しかし、炎柱がおさまった後には、無傷のロジンが立っていた。

 今度は、ゴブリンのシリウスが驚く番であった。

 殺すつもりはなかったが、戦闘不能にする程度のダメージを与えるつもりで魔法を放った。

 ロジンから感じられる魔力から推測される実力から判断すれば、充分な威力があったはずだ。

 それが完璧に防がれていた。

 不可解な現象だった。

 シリウスは、ロジンの右手に持つ世界樹の杖を見る。

 淡く輝く杖を見て、原因はそれだと気がつく。

 あの杖がロジンの力を3倍以上に膨れ上がらせている。

 そのためにシリウスの魔法を防ぐことができたのだ。

 シリウスはそんな化け物みたいな杖を見たことがない。

 一般的な杖では威力の上昇はしない。

 伝説級の杖でも、1.5倍にする程度だ。

 それが3倍以上である。

 世界樹の力は、神話どおりだった。

 期待以上の杖の性能に、シリウスは笑みがこぼれる。


 無傷とはいえ、ロジンもゴブリンに恐怖を覚えていた。

 優秀な魔術師の宝庫であるエルフの中でも、ロジンはさらに秀でていた。

 ロジンを負かすことのでいるものは、里にも数人しかいない。

 そのロジンから見ても、目の前のゴブリンの魔法技術は突出していた。

 もしもゴブリンの手に杖があり、ロジンの手に持つ杖が世界樹の杖でなかったら、完敗だっただろう。

 ロジンは改めて、ゴブリンの姿を注視する。

 外見は普通のゴブリンにしか見えない。

 全く意味がわからない、とロジンは思う。

 ゴブリンがどう成長したら、こんな魔法の使い手になるというのだ。

 ゴブリンに聞きたいことはたくさんあったが、早く倒してしまったほうが良さそうだった。

 このゴブリンは危険だと、頭で警鐘が鳴り響いている。

 自分の持つ最大魔法で、一気に決着をつけることとした。

 ロジンは長い詠唱文言を唱え始める。

 エルフ独自の言葉なのか、シリウスの知らない言語だった。

 フランス語のように響きが美しい。

 シリウスは詠唱の間、動かなかった。

 詠唱中には隙があり、いくらでも攻撃の機会があった。

 ロジンもその辺は予想しており、長い詠唱時間中にある程度のダメージを受けてしまうことを覚悟していた。

 しかしシリウスはこのチャンスをあえて見逃した。

 理由はロジンがこれから使おうとしている魔法にあった。

 ロジンが唱えている詠唱の文言を、シリウスは聞いたことがないものだ。

 つまり自分の知らない魔法だ。

 おそらくエルフ界にのみ伝わる魔法を行使しようとしている。

 シリウスは知らない魔法を見ることができるという好奇心のため、ロジンを攻撃しなかった。

 エルフの魔法を、完璧な形で放ってもらうために、邪魔をしなかったのだ。

 ロジンはその余裕に気がついた。

 自分がなめられていることに、怒りがこみあげてくる。

 そして、ありったけの魔力を注ぎこみ、魔法を発動させる。


「第六深度 華園」

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