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66話 その地へ

 シリウスが地面に横たわるラージの腕に手をのせる。

 腕から光の粒子が浮かびあがり、シリウスの体に流れていく。


 継承。


 光がおさまると、シリウスは手のひらを眺める。拳をつくったり、開いたりする。


 シリウスの顔には、喜びと驚きを混ぜたような表情が浮かんでいる。


 隣に立つ、エルダにもシリウスの変化は、明確にわかった。

 エルダは近くに立っているだけで、その魔力に汗がこぼれた。

 これほどの力が存在するなんて。


 シリウスが負けるところを想像できなかった。

 これ以上の力がこの世界に存在するとは思えなかった。


 しかし、その力に一番驚いていたのは、シリウス自身だった。


 ラージはシリウスと戦っている間、力を10分の1におさえられていた。

 それでも、シリウスと互角に戦っていた。


 そのラージの全開の力をシリウスは受け継いだのだ。

 ある程度想像はしていたが、ここまでの代物とは。


 実際に力を目の当たりすると、シリウスの思考は停止する。

 自分の体内にある力の存在を受けいれるだけで、手一杯になる。


 生まれ変わったというよりも、世界を生まれ変わらせたように感じた。

 すべての感覚が違っている。

 肌に感じる気温や、目に映る色、どれもが今までと違っていた。


 そしてシリウスも、エルダと同じことを思う。

 この世界で、自分以上の力を持つ存在はいない。

 自分はあの魔王以上の力を手に入れたと。


「シス殿、これからどうしますか」


 シリウスよりも早く、驚きが落ち着いたエルダが話しかける。


「とりあえず、ダンのところに行く。

 剣聖の力が必要になるかもしれない」


「では、バドル城に」


「ああ。戦闘が長びいているようだったら、俺が手を貸してすぐに終わらせてしまおう」


 エルダは小さくうなずく。


「わかりました。ではバドル城へと向かいましょう」


 エルダが転移魔法を唱える。

 その声は、とても小さかった。

 しかし、ぼろぼろの火口によく響いた。


 シリウスが、最後に火口を見渡す。

 そして火口にお別れでも告げるように、一瞬、目をふせる。


 ふたりの姿が、蜿蜿の火口から消える。




「夢を見ました」と聖女ミライは言った。


 ミライは、蘇生魔法の代償として、魔力を失っていた。

 そのため、帝都の城で安静にしていた。


 この日は珍しく聖女ミライが朝遅くまで眠っていた。

 彼女は神に仕えるものらしく、生活は規則正しく、寝坊などをするとこはなかった。


 しかし、勇者パーティとして活動しているため、戦いにより肉体が悲鳴をあげているときもあり、そのような場合は当然、睡眠を長くとった。


 なので聖女が朝起きてこないことは、それほど珍しいことではなかった。

 だが、彼女はこの1ヶ月間魔力がないため、戦闘にはでていない。


 そのため彼女が自室でまだ眠っていることに、不安を覚えるものは多かった。


 いつもの起床時間よりも30分遅れて、彼女は部屋から出てきた。

 そしてそのまま、国王のもとへと向かった。


「夢を見ました。未来の夢です」


 国王に会うなり、聖女ミライは言った。


「夢から覚めた今、私には魔力が戻っていました」


「それはつまり、その夢は『啓示』だったということか」


「はい。未来の風景は夢にしてはあまりにリアルでしたし、とても重要な出来事を示した光景でした」


 聖女のユニークスキルは「啓示」という。


 それは今後起きる未来を夢に見るという能力だった。

 啓示は近い将来に重要な物事が起こるさいに、自動で発動する。


 代表的な発動タイミングは、聖女が死ぬ前日だ。

 必ず啓示が働き、自分の死期を知ることになる。


 夢で見た内容は絶対に起こることであった。

 その未来を変えることはできない。


 しかし、前もって知っておくことができるのは大きなメリットがあった。


 啓示のおかげで震災の前に、避難することができ、数十万人の命が救われたことが、過去の歴史で何度もあった。

 商業の活性化を予見し、国民に無駄な増税を課すことをとりやめたこともある。

 おかげで国民は豊かになり、消費は増し、商業はさらに盛んとなり、国は潤った。


 死期を知ることのできる聖女は、大切な人に最後の別れを言うことができた。


 ミライは、今朝その「啓示」を見たのだ。


「それで、それはどのような未来なのじゃ」国王が尋ねる。


「魔王が動くようです。

 そして、そこで()()()()、終わりを迎えます」


「終わりを迎える?」


「はい。魔王との戦いも終わります」


「人類は勝利するのか」国王は身をのりだす。


「そうであるとも言えますし、そうではないとも言えます。

 人類の未来まではわかりません」


 国王は紅茶とコーヒーを混ぜた飲み物でも飲まされたかのように、口をむすぶ。


「しかし、魔王は死ぬのだな」


「はい。魔王は()()()()

 しかしながら、私の言う終わりとは魔王が死ぬことではありません。


 ひとつの世界の終わりのように、もっと大きな終わりが訪れます」

 ミライが話をきり、国王の顔を見る。

 国王は具体性のない話に、曇った表情をしている。

 口の中に入れた水を、うまく飲みこめずにおり、その水がしだいに生暖かくなっていっているかのような、そんな表情を浮かべている。


「私の見た未来について、これ以上お話しすることはできません。


 その未来の先にある、さらなる未来はあまりに不確定です。


 ここで国王様にお話ししても、余計な混乱があるのみです。

 過去の啓示でも、余計な未来予想で国が迷走してしまったことがいく度かありました。


 今回の啓示は、全人類にかかわることです。

 神の巫女として、迂闊(うかつ)な発言は控えさせていただければと思います。


 啓示で見た未来は変えることができません。

 それは必ず現実のものとなります。


 私がその終わりの場に行っても意味はないかもしれません。

 しかし、私はその場に行き、直接見て確かめてこようと思います。

 啓示の夢を見た聖女の、それが責任であるように感じます」


 国王は、少しの沈黙のあと、うなずいた。


「夢の内容は、話してはくれぬのだな」


「はい」とミライはこたえた。


「わかった。

 我らは結果が訪れるそのときまで待つとしよう」


「ありがとうございます」とミライは深々と頭をさげる。


「して、終わりの場とはどこなのだ。

 そなたはこれからそこに向かうのだろう」


 ミライはさげていた頭をゆっくりとあげて言った。


「バドル城でございます」

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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