61話 将軍と勇者パーティ
「どういうことですか」
ラビが大声をだす。
大人びた子供である賢者ラビが、大声をあげるのは珍しい。
声は別室にも響き、会議室から漏れ聞こえるその声に、兵士たちは驚いていた。
「剣聖ダン様と賢者ラビ様には、明日のバドル城への出撃には参加されず、こちらの基地で待機をお願いしたい」
初老にさしかかろうかという、白髪の偉丈夫が言う。
彼は今回のバドル城攻略の総指令官エンデグであった。
「なぜ僕たちが待機をしていなければいけないのですか。
基地に戦力を残しておく意味など何もないではないですか」
「バドル城は我々、正規軍だけで充分打倒できる。
君たち勇者パーティの力を借りる必要なないと判断したのだよ」
「しかし僕たちはここにいるのです。
賢者や剣聖として、僕たちにはある程度の力があります。
戦力は多くて問題になることはないはずです。
デメリットは何もありません。
今回の戦いで僕たちを温存しておくことに何の意味があるんですか。
それに、」
熱くなるラビを、ダンがとめる。
前のめりになるラビの体を、後ろの引き戻す。
肩に置かれたダンの手を見て、なぜとめるのか、とラビは抗議の目を向ける。
ダンは、首を振る。
軍隊組織では、上官の命令は絶対だ。
ラビたちは現在、正規軍の傘下に組みこまれている形で、戦場に参戦している。
総司令官の命令は絶対だった。
勇者パーディとして優遇はされていたが、軍での行動を自由にできるほどの権力はなかった。
たとえ、どんなに無能な司令官であっても、命令には従わなければならなかったのだ。
「承知しました」とダンが言う。
そして、すぐにラビの手を強引に引いて、会議室をでた。
ダンには自分たちに待機指示がでた理由がだいたい想像できた。
実にくだらない理由だ。
しかし、くだらない理由だからこそ覆すことができなかった。
くだらない理由で行動する人間を、理論的に論破するなど不可能なのだから。
総司令官のエンデグは大貴族の次男だった。
プライドが高く、目立ちたがり屋だ。
自己顕示欲を満たすことが、行動基準のすべてであった。
下手に権力を持ってしまっているため、これまではそれは満たすことができていた。
お金と地位があれば、目立つことはさほど難しくない。
しかし、そこには大きな問題があった。
彼は無能だったのだ。つまり馬鹿だった。
馬鹿が上に立って、先頭を切って行動すれば、それ相応の結果が生まれた。
彼が動いたばかりに、事態が深刻になることは常であった。
彼のようなものをなぜ将軍の地位につけているかといえば、他に人材がいなかったからだ。
魔王軍との戦いで、人類の優秀な軍人はほとんど故人となってしまった。
連戦連敗で人口を減らしつづける人類は、深刻な人手不足におちいっていたのだ。
それにどんなに優秀な人物が指揮をとっても、魔王軍に勝利できたためしがなかった。
結果、エンデグという、ただしゃしゃりでるのが好きな馬鹿が軍のトップに立ってしまったのだ。
当然、彼がトップとなってからは、軍はますます弱体化していった。
戦果などまったくなかった。
ところが、反対に勇者パーディは大活躍を遂げる。
最強賢者シリウスを中心に、魔王軍から次々と勝利をもぎ取っていた。
なんとあの魔将ラージすら撃退してしまった。
国民は彼らに喝采を送り、もてはやした。
民衆は軍の存在などすっかり忘れ、勇者パーティだけ注目していた。
目立ちたがり屋のエンデグは、ようは、そんな勇者パーティを嫉ましく思ったのだ。
自分よりも注目を浴びている彼らを嫌ったのだ。
今回の攻撃は10万の兵が投入されている。
対する魔王軍の兵は5千を超えないだろう。
その差は20倍である。
さらに、城主のラージがいなくなり、城内では内乱が起こっていると聞く。
バドル城攻略は、人類に大きく有利だった。
この戦いに、剣聖や賢者を参加させては、また話題を持っていかれてしまうかもしれない。
エンデグはそう考えた。だから、彼らを基地に待機させることにしたのだ。
戦場にいなければ、活躍のしようもない。
エンデグは自らが目立つために、人類の最高戦力の活用を放棄したのだ。
さらにもうひとつ、別の理由もあった。
今回の戦いは、絶対に人類が勝てるようになっているのだ。
エンデグには、剣聖や賢者がいなくても、問題なく勝利できると確信できていた。
ダンとラビが会議室からでていったあと、部屋にはエンデグひとりが残った。
いや、ひとりではなかった。
その部屋の角には、いつの間にか人影があった。
「準備は整われましたか?」とエンデグは、その人物に話しかける
「ええ」と彼は答える。
人影は物陰からゆっくりと姿を現わす。
それは魔将サディだった。
明日も15時15分ごろ投稿いたします。




